『入学式〜①』

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4月の第1木曜日は、三星学園の入学式である。

学年主任連合の先生方や風紀委員達の動きが、1年で1番活発になる時期である。

それはそうである。

三星学園にこれから通ってくる、大切な新入生を迎え入れる式典なのだから。

特に生徒会の介入は、断固として阻止しなくてはならない。

そんな中、新体制となった生徒会では、初めての会議が行われていた。

議題は〘入学式に何をやるか〙である。

今年3年になる元主力メンバーではなく、生徒会長を筆頭にした新2年生が中心となって考えていくのだ。

しかし、『これだ』という意見はあまり出て来なかった。

正人はみんなが帰った生徒会室でアイデアをメモしていると、ドアの向こう側に人の気配を感じた。

振り向いて『誰ですか?』と言うと、『まだ残っていたんですか?生徒会長さん』と、女の子の声が返ってきた。

誰だろう。

そう思いながらも、『君も遅いね。部活?』と尋ねると、その女の子は一瞬間が空いたものの、『今日は、まぁ、部活みたいなものですね』と言って、ふふふと笑う。


正人はこの笑い声に聞き覚えがあった。

そして、『ねえ君。間違えてたらゴメンね』と言ってから、『ウチのクラスの海老原さんじゃあないかなぁ?』と聞いてみた。

すると、驚いた様な声で『えっ?えぇ。海老原です』といい、『クラスでは話した事ないのに、よく分かりましたね』と言いながら生徒会室に入ってきた。


海老原さんは、いつも髪の毛を束ねているので、今日みたいなロングの姿は初めて見た気がした。

少しドキッとしたのだが、気をとり直して『お疲れ様。海老原さん』とにこやかに話す正人。
『生徒会長さんもお疲れ様。まだ生徒会のお仕事なんですか?』と、生徒会室を眺めながら話す海老原さんに正人は、『そうなんですよ。入学式のネタが決まらなくてねぇ』と、苦笑いをしながら頭を掻く。

そんな正人の話しを、真顔で聞いている海老原さん。

そんな海老原さんをしばらく眺めたあとで、正人は突然彼女に聞いてみた。
『海老原さん。〔マシロ〕って人を知っていますか?たぶん知っていると思うんですけど・・・』と。

『え?マシロ??』
不意を突かれた海老原さんは、正人がニヤニヤしながら自分を見ているのに気付き、ハッとして下を向く。

この時正人は直感する。
「この人もカナさんと同じ、風紀委員会の人だ」と。

海老原さんは、普段は陸上部に所属しているスポーツ少女なのだが、根は超真面目少女で、曲がった事は大嫌いなのだ。

だから、去年生徒会が行ってきたイベントの内容には、いささか不満もあった様なのだが、逆に興味津々な面もあったのだ。
だから、ポツンと電気のついていた生徒会室を覗きにきたのだ。

そして、そこで正人と出会ったのだ。

『ねえ海老原さん。海老原さんは風紀委員ですよね?「マシロさん」と雰囲気が似てますもん』と笑顔で話し始めると、困惑した様な顔付きになって正人を見つめる海老原さん。

そんな正人に、軽くため息をつきながら、『その通りです。でも、私が風紀委員だと何か不都合でもあるんですか?』と、少し棘のある視線を正人に送りながら返事を返してくる。

「あぁ、気にしないで下さい。たいした事ではないですから』と言ったのち、少し考えてからまた話し始める。

『海老原さん。風紀委員をやめろとはいいませんが、僕らと一緒に楽しい事をしませんか?』と、にこやかに海老原さんを勧誘し始める正人。

その申し出に驚きの顔を隠せないでいる海老原さんを無視して、正人は話し始める。


〔入学式の事〕である。


『海老原さんも知っての通り、三星学園の新入生のクラス分けは、入学式当日に決まります。他の学校では、事前に教員が成績とかで分けてしまうのにです。その理由はともかく、問題はその決め方です。生徒会が絡まない時のクラス分けは、新入生本人が入学式の時に選んだ封筒にランダムに記されています。それでもいいのですが、僕らの年は生徒会が絡みました。その結果、面白いクラス分けになったと思いませんか?』とニコニコしながら話す正人。

確かに去年のクラス分けは面白い結果になった。

早朝に生徒会が設置した迷路を、どのように抜け出すかでクラス分けを生徒会が決めたのだった。

1組は、機転を利かせていち早く迷路を抜けた正人を筆頭に、集合時間の遥か前に来た生徒や上手く立ち回った生徒を集めたのだ。
成績は関係ない。
2組は、迷路は抜け出せなかったが、ネタばらしをした後の行動が早かった生徒を集めた。
3組は、ネタばらしのあとモタモタしていたり、ズルをして会場に入ろうとした生徒を集めたのだった。

これだけで見ると、3組が圧倒的に駄目なクラスに思えるが、実際は学業も身体成績も1番だったのである。

正人達の1組は個性が強過ぎて、あまりまとまりがなかったのである。

だから、という訳ではないが、今年の新入生のクラス分けも成績とかだけではで決めたくない。

それが生徒会の総意である。

しかし、会議を重ねてもこれと言った案は出て来なかったのである。


そんな正人の提案に、海老原さんは少し考えて返事をした。

「確かに成績だけで決めるのは面白くないかも」と考えたのち、先程から気になっていた事を質問してみた。
『生徒会長さん。「マシロさん」が風紀委員を抜けた事に、貴方は絡んでいるのかしら?』と。

その問いに正人は、即答した。

笑顔で『もちろんですよ』と。

ふぅんと鼻を鳴らし、『一緒にやるのは構わないけど、私が風紀委員会にネタばらししたらどうするの?』と、もっともな事を聞いてくると、『その時はその時さ』と、両手を広げておどけて見せ、『そのハプニングも、楽しまないとね』と話しながらウインクする。

そんな正人を見た海老原さんは、深いため息をついて、『ウチのクラスの渡瀬さんって、今年から生徒会に入ったのよね。同情するわ』と苦笑いをしたかと思うと、右手を差し出しながら、『今回だけよ。絡むのは』と言う海老原さんに、『では、ヨロシク』と海老原さんの申し出を笑顔で返し手を握った。


そして、『それでは入学式の事をお話ししましょうか』と言って、海老原さんに席に座るように勧める。