レスカーフとの交信を切り、ブリッジ要員と進路の相談をしている時、ジャンク達の左舷後方から近付いてくるに船団がいた。

クレール人の息のかかった〔ボウマン〕の船団である。


ジャンクは、海図とにらめっこをしながら、「なるべく早くドックに入らないと」と進路の選定に懸命だった。

その頃レスカーフのドックでは、ジャンク達を歓迎する準備が行われていた。

定期的にゲドンを捕獲してくるジャンクは、レスカーフのドックの民から慕われていた。
しかし、そんなジャンクを良く思わない輩も少なからずいたのだが、その主な者達は〔クレール人〕である。

そして、そんな〔クレール人〕は刺客としてボウマンを送ってきたのだ。

ボウマンのランチは大型でパワーのあるランチである。
多少粘度の高い海域でも、そのパワーで押し切ってしまう程なのだ。

しかし、ボウマンの船の最大の武器は、その船の先端に取り付けられている〘一角獣の槍〙である。

ボウマンの船団に狙われた獲物は、その先端にある〘一角獣の槍〙を船の横っ腹に突っ込まれて浸水し、最後には沈没してしまうのだ。

そして、そのドサクサにゲドンや金品を横取りしている海賊まがいの連中だ。

そんな連中がジャンク達に近くいるのだ。

そしてサンドシープ号のレーダーがボウマン達の接近を感知し、警報がけたたましく鳴り響く。

警報に驚いたジャンクは、海図から顔を上げ『なんだ?どうした』とロブに聞くと、ロブは慌ててレーダーを確認し、『大変だジャンク。ボウマンだ。ボウマンの野郎が現れたんだ』と告げる。

それを聞いたジャンクは、『ちっ。どこで聞きつけてきやがったんだ?』と苦虫を噛み潰した様な顔になり、『レスカのドックに緊急連絡だ。ボウマンのヤツが邪魔しにきやがったとな』と言うなりロブを傍らに呼び、『戦闘態勢をとらせろ』と言い、さらに『アッサムが出ているから、進路の指示がきたら従えよ』と耳打ちする。

ロブは『分かりました』と言ったのち、『アレを使うんですか』と聞くと、ジャンクは一瞬考えたのだが『まぁな。場合によってだ』と、軽くウインクをする。

それを聞いたロブは、ため息をしたのち、『アレがクレール人との確執の元になっている気がするんですけどねぇ』と小声で呟く。

その呟きを聞いたジャンクは『仕方がないだろぅ。今の俺達には必要な力だ』と諭す様に話す。



『お頭。ジャンク達のランチを射程に捕らえましたぜ。どうしますか』とボウマンのランチのブリッジでは、ジャンク達を襲撃する手筈が整いつつあった。


部下の報告をしっかり聞いた上で、『野郎ども。今日の獲物はあのジャンク達だ。手強い奴らだが、今奴らは大型のゲドンを捕えていて動きが悪い。レスカのドックに入る前に分捕るぞぉ』と部下達にゲキを飛ばす。

「おおぅ」

『ジャンク。ボウマンのヤツが突っ込んでくるぞ』とロブの叫ぶ声か聞こえると同時に、『よぉし。戦闘開始だ』というジャンクの声が飛ぶ。


戦闘と言っても、銃とかがある訳ではない。

『マンパワーを見せてやれっ』とジャンクが声音管に向かって叫ぶと、漕ぎ手達よりキーの高い声が聞こえてきた。

『まかせて〜』『ボウマンめ。目にものを見せてやるわぁ〜』『盾を立てろぉ』という声が飛び交う。

ジャンクのランチ・サンドシープ号は中型だが、人は普通のランチの3〜4倍乗り込んでいる。
単に仕事にあぶれた奴らを乗せているだけなのだが、いざという有事には必要不可欠な戦力となるのだ。

ボウマンのランチが近付いてくる。

『ジャンク。やはりやつらは、一角獣の槍で突っ込んでくるつもりだぞ』とロブが叫ぶと同時にジャンクも声音管に向かって叫ぶ。

『よぉし。投げ込めぇ』と叫び、さらに『盾を降ろせぇ』と指示を出す。

盾は普通甲板の上でランチの甲板の縁に立てるのだが、今回は一角獣の槍を防がなくてはいかないので、立てたあとランチの船側面に砂海側に沿わせて降ろすのだ。

さらに、弓矢の弓をダブルにクロスさせた様な投石機の真ん中に拳大の石を引っ掛け、それを弓矢の様にして弾く。

投石手は主に成人前の男女や年寄り達。
弱い力でも遠くに飛ばせる様に改良を施した投石機を使って、ボウマン達のランチに投石を開始する。


ボウマンのランチに、ボトボトと石が落ち始める。
『うわわっ、たまらん』『イテ、イテテ』と甲板の上を逃げ惑うボウマンの部下達。

するとそこに火矢が数本落ちてきた。

燃え移ると大変である。

しかもこの星では水は超貴重なものである。

よって、投石を避けながら水ではなく布などを使っての消火が行われる。

『お、お頭っ」と部下の叫び声が上がるも、ボウマンはそれらを無視して『構うな。全速前進でジャンクのランチに突っ込め〜〜』と叫ぶ。

その声が聞こえたかの様に、投石や火矢の数も増えたのだが、ついにサンドシープ号の左舷にボウマンのランチが突っ込んできた。

立っていられない程の衝撃と揺れ。甲板上にいた投石組は、声を上げながら甲板にヘタリ込む。

ブリッジでもメンバーが何かに掴まっていないと倒れてしまう程の、凄まじい揺れがランチを襲った。

必死にロブは声音管に向かって『各部、大丈夫かっ。被害を知らせろ』と怒鳴り、『ジャンク』とそこまで言うと、ジャンクは意を決した様な顔つきになりロブの前に立ち、『すまない。ここを頼む』と言って、ブリッジを飛び出して行った。



ジャンクは急ぎランチの最下層へと向かう。
そして、普段は厳重に鍵が掛けられているドアの鍵を開け、少し錆びついたドアを力任せに開いて中に入り、ドアを閉め鍵を閉める。


『またお前の力を借りたいんだ。セノーテ』と呟き、ずんぐりとした人型を触りながら周りを歩く。


〔ワレヲホッスルカ ナラバソノチカラヲシメセ〕


『ああ、任せろ』と言うと、人型のずんぐりとした胴体部分が真ん中から左右に開き、さらに上下に開く。

開いたのを確認したジャンクは人型の中に入り、丸い胴体内の空間の真ん中にある椅子に座ると、頭上にある兜の様な物を被り人型に命じる。


「入口を閉めろ。そして、我々を襲ってきているボウマン達を叩き潰せ」と心の中で念じながら呟く。


すると、「シュュュ〜ン」と金属的な音が鳴り響き、入口が閉じジャンクを乗せた人型が動き出した。



その頃甲板では、ボウマンのランチの一角獣の槍をランチの横っ腹に受けた為、接触部分から火が出てしまい、それを必死で消しにかかるクルーの姿があった。

盾のおかげで穴は開いてないものの、明らかに投石や火矢などの戦闘体制は崩れていた。

そこへボウマンの部下達が乗り込んできて、甲板上は白兵戦の様相になっていく。

ボウマンの部下達は、元々軍などに所属していた猛者ばかりなのだが、ジャンクのランチに乗り込んでいる人達は、元ゲドン獲りや一般市民である。体格も体力も比べ物にならないくらいの差があった。

『頑張れ。今ジャンクが出る』とブリッジからロブの声が響くが、明らかに防戦一方になり、負傷する者が増えていく。

明らかに劣勢だったのだが、ランチの推進音とは違う音が聞こえ始め、砂海の中からジャンクが乗る〘バスカル〙が現れた。

その形は異形で、クレール人側の機械とも岩の民やドッグの民の機械とも違っていた。


しかも、その〔バスカル〕は羽根を広げた虫の様に空を飛び始めたのだった。


『ボ、ボウマンさん』『な、何だありゃぁ』『ヒッ。邪神だぁ』と、ボウマンの船団ではジャンクが乗って浮上してきた〔バスカル〕を見て、大騒ぎになっていく。

『落ち着けっ。落ち着け。あれはマシンだ。邪神なんかじゃねぇ』と部下に向かって叫ぶも、『な、なんだありゃあ。ガンドッグでもコバシードやステイシアとも違うぞ。しかも空を飛ぶなんて・・』と呟くボウマン。

浮上していくバスカル=〘アーキテクト〙
ボウマンの叫び声とは裏腹にその姿はまさしく、昔から伝わる邪神そのものの姿であった。