※自分用の記録です。最近読んでもすぐ忘れてしまうので…。上海とか深センとか駐妻とか関係なくてすみませんです。私の趣味の世界です。超長文です。各作品のネタバレを含みます。


今月の前半はあまり読みたい気持ちではなかったのですが(先月のカミーユのダメージから立ち直るのに時間がかかった)、後半に入ってから持ち直して数冊読みました。元々超遅読なのですが…


・中国雑話  中国的思想(酒見賢一)
中国の歴史文化に興味がある人や酒見氏のファンはすごく楽しめる一冊だと思います。私には少々マニアックに感じる話もありましたが、勉強になりました!!!  この作家さんの知識の広さと分析の緻密さには毎回感銘を受けます。
〈一、劉備〉…酒見氏の劉備・曹操・孫権に対する考察は、概ね『泣き虫〜』に反映されているように思います。余談ですが、劉備の奧さん達に対する態度について、蔡康永・侯文咏著『奇葩三国说』ではこのようにツッコミを入れられています。「(中略)另外我们也替关公的两位嫂嫂感到很委屈,因为她们这样颠沛流离地逃难,却从来不曾得到刘备的担心与关怀。关公和赵云很尊重她们,曹操也把她们当作尊重刘备的代表,唯独刘备没有把她们放在心上。……」現代中国人から見ても、劉備の振る舞いは擁護することが難しいようです。ちなみに『奇葩三国说』もすごく読みやすくて面白い三国志解説本です。
〈ニ、仙人〉…仙人の定義、起源、どうすれば仙人になれるのか、仙人には何ができて、彼らに目的があるとすれば何なのか等について、実際の文献や史書に書かれているエピソードを紹介しながら解説しています。『列仙伝』、中々中二心を刺激されるタイトルです。画期的な仙道入門書『抱朴子』を著した西晋東晋の葛洪という人は、あの左慈の孫孫弟子だったようです。酒見氏は仙術の正体や仙道の起源について現実的な仮説を立てていながらも、正史に記載されている話はたとえ一見信じがたい内容であっても「それなりに尊重せねばなるまい」としています。私も個人的に、こういう出来事が実際にあったんだと考えた方が楽しいと思います。
また、仙人の話を読んで去年赤壁へ行った時のことを思い出しました。「赤壁」の二文字の上に「鸞」の道教文字が白色で書かれており、これは唐代の呂洞賓という仙人が訪れた際に鎮魂・魔除けの為に書き足したと言われているとのことでした。こんなところにも仙人が歴史の世界にひょっこり顔を出していて、とても興味深かったです。
すごくどうでも良い呟きですが左慈に怖い目に遭わされる曹操はかわいそかわいいと思います(病気だよ)。
〈四、易的世界〉…『易経』の内容や易の立て方等について解説している他、あるテーマについて実際に易を立ててみるという実践的な試みが強く印象に残りました。
〈六、李衛公問対〉…『李衛公問対』とは、唐の太宗李世民とその重臣の李靖が兵法について問答するという構成をとった兵書だそうで、中々マニアックで面白そうなのでいつか読んでみたいと思いました。
〈七、中国拳法〉及び〈八、王向斎〉…この二篇だけで本書の半分近くのページを占めています(!)。今でこそ映画等の影響で人々に広く知れ渡っている中国拳法ですが、そもそも武術家の社会的地位は極めて低かった為に歴史的資料が乏しく、これについて系統立った研究を行うことは中々難しいようです。各流派の師弟関係が入り組んでおり、せめて系譜図があればもっとわかりやすいと思いました。
「中国拳法は大きく二つに分けられる。『内家拳と外家拳』『北派と南派』『柔派拳法と剛派拳法』という具合である。傾向としては内家拳(内功を重んじる拳法)は北派(中国北部を中心に広まった)で柔派拳法(動きがゆっくりで柔らかい)であることが多く、外家拳(外功を重んじる拳法)は南派(中国南部を中心に広まった)で剛派拳法(動きが早く剛的)であることが多い。」「外家拳の代表は少林拳である。河南省嵩山少林寺に源があるとし、多くの分派を生み、沖縄、日本に伝わった空手の祖でもある。ブルース・リーやジャッキー・チェンのカンフーは外家拳の系統にある。」「一方、内家拳の代表は形意拳、八卦掌、太極拳の三派である。」「しかし外家拳も内功を行うし、内家拳も外功を軽んじるわけではない。両者が全く別物というわけではないのだ。」これらはほんの触りの部分で、この後更に実在した武術家達の超人的なエピソードや侠気に富んだ逸話等が語られます。軽く触れただけで相手が吹っ飛ぶだとか瞬間移動のような動きをするだとか、まるで漫画や映画のようですが、実際の出来事だとしたらすごく面白いと思います。もし現代にもこういったことができる人がいるのであれば、是非一度拝んでみたいです。
形意拳…明末清初の姫際可が創始者で清末の李能然が中興の祖、その弟子の一人である郭雲深は孫禄堂や王向斎を育てた。
ハ卦掌…「易経」に関係が深い。開祖の董海川は謎の多い人物で、指導方法も弟子によってそれぞれ別型の八卦掌を伝授する等他の拳法とは一線を画していた。"眼鏡程"程廷華とかカッコよすぎる。やばい、他にも太極拳について等色々あるのですが、長すぎてここではまとめきれません(´;ω;`)
あと、鏢局は馬賊と同じくらい妄想が捗る題材だと思いました!!!(何の話だよ)
〈八、王向斎〉では、王向斎の半生と彼の功績について語られています。導入部分では「気功」についても語られています。そういえば「五禽戯」も『泣き虫〜』第壱部に出てきてたなあ。王向斎は知識階級の出身で、郭雲深から形意拳の全伝を授けられた最後の弟子として十代の頃から武勇伝を残しつつ拳名をあげていきました。形意拳をあらためて意拳を創始し、南方へ武術修行の旅に出て著名の拳師と交わり、武術研究を重ねました。イングルというハンガリー人ボクサーと試合を行なった際、手首に触れただけでイングルを失神させたほか、日本レスリングの父と呼ばれる八田一朗氏(当時は柔道家だった)も王向斎の強さに全く歯が立たなかったそうです。また、澤井健一氏は王向斎に強く弟子入りを志願し、時節柄日本人の入門が許される状況ではなかったにもかかわらず、最終的には入門を許され分け隔てなく指導を受け、日本に帰国後王向斎の許可を得て「太気拳」を創設したそうです。このエピソードに日本人として感動しましたし、王向斎は比類なき強さを持つだけでなく人格的にも素晴らしい人だと感じました。また、王向斎はそれまで奥義としてごく一部の者にしか伝えられていなかった拳法の秘伝を指導や論文で公開する等進歩的な考えの持ち主で、「拳法」を「拳学」の域にまで高めました。
長すぎてまとめきれませんが、中国武術史もすごく面白いと思いました!!!  もっと関連書籍を読みたいと思ってAmazonで探したら滅茶苦茶高くて鼻血が出そうになりました(´;ω;`) 

{AA2E7B66-25D6-45BA-8999-32A2A6FEC82B}

・仕事に効く教養としての「世界史」(出口治明)
最初に謝ります。批判しか書けなくてごめんなさい。信者の方はお願いですから石や生卵を投げつけないでください。
パパ様に「この本面白いで〜」と言われ、ちょうど世界史の復習をしたいと思っていたので読み始めましたが、全体的にソースが曖昧というかほとんど論拠が明示されておらず、すごくイライラしました。序盤からかなり強い違和感を覚えたので、パパ様にそのことを伝えたところ、「こういう考え方もあるということを学ぶには良い本やと思うで」と諭され、それもそうだな、京大卒の偉い社長さんが書いた本だしもう少し読んでみよう…と思い直して再度読みました。我慢して半分くらい読んだところで「この本を読むのは時間の無駄だし、この本を読んでも別に知識や教養が身に付くわけではない」と悟りました。著者の方は〈はじめに〉において歴史は総合科学であると述べているにもかかわらず、書かれている本の内容は少しも科学的ではありません。本文も「〜だと思います」「〜であるような気がします」ばっかりで、残念ながらこれでは納得・信用するに足りません。Amazonのレビューを見てみたところ、「事実としての歴史を学ぶ書籍としては不適当と思われる一冊」「ほとんどが予想・妄想」等の評があり、私の反応はごく正常な反応であったと思いました。一番どうかと思うのは、パパ様にこの本を勧めた某大学院の先生です。こんな駄作を生徒にドヤ顔で推薦しているようでははっきり言って先生のレベルが心配です。パパ様にそう言ったところ(これを相手に言うあたり私もほんまに性格悪いのですが笑)、「そう?俺の周りでは評価高かったで〜」と言われました。歴史が大して好きではない方や意識高い方は楽しめるのかもしれません。


・紙の動物園(ケン・リュウ著  古沢嘉通編・訳)
好きな作家さんが呟いッターで「物凄く良かった」と書かれていたので(ピースの又吉氏ではないですよアセアセ)(そのアピール必要か?)、気になって私も読みました。控え目に言って最高でした。読みながら何度も泣きました。こちらは2002年〜2013年初頭までに発表された七十篇あまりの短編の中から訳者の古沢氏が厳選した十五篇が収録された日本オリジナル短編集です。
ケン・リュウ氏は中国甘粛省蘭州市生まれで、11歳の頃に家族とともにアメリカに移住したそうです。ハーバード大学卒業後マイクロソフト社に入社(その後独立)、現在はSF作家の他に弁護士やプログラマーとしての顔も持つという私にはもはや訳がわからない程の天才です。
ケン・リュウ氏はその文化的背景により中国でもかなりの人気を誇っていて、中国ではすでに3冊の短編集が出版されている(今はもっと多いかも?)そうですが、「月へ」"To the Moon"や「文字占い師」"The Literomancer"等は政治的あるいは歴史的に微妙な問題を取り扱っている為に中国では未翻訳のようです。私が特に好きだと思った作品をピックアップしたいと思います。
『紙の動物園』"The Paper Menagerie"…本作はヒューゴー賞・ネビュラ賞・世界幻想文学大賞の各短編部門を制する史上初の快挙を成し遂げた作品です。タイトルがすでに切ないです。とにかく母さんがかわいそう過ぎてボロ泣きしました。私も最初「『動物園』の語に一般的なzooではなく、menagerieを使っているのは」何故だろうと不思議に思ったのですが、訳者あとがきに答えがありました。
息子には『紙の動物園』というタイトルがなんだか楽しそうに思われたようで、読んでとせがまれましたが、息子に読み聞かせながらまた泣いてしまいました。当然息子にはまだ難しく、彼はきょとんとしていました。そう言えば、去年『銀河鉄道の夜』を読み聞かせた時も、私が泣いて息子はきょとんとしていましたw  「父さんはカタログで母さんを選んだ。」とかまだわからなくて良いんだよ、息子よ…。
『もののあはれ』"Mono no Aware"…静かな雰囲気がとても良かったです。
『結縄』"Tying Knots"…途中まで良い話だと思っていたら最後…∑(゚Д゚)
『心智五行』"The Five Elements of the Heart Mind"…ボーイミーツガール的なお話で面白かったです。
『円弧』"Arc"…死体をあれこれする描写はグロテスクでしたが、このお話も切なくて好きです。チャーリーのことを思うとまた目から汁が…(´;ω;`)
『愛のアルゴリズム』"The Algorithms for Love"…これも辛い話ですが、何故か私にはサイコスリラーぽく感じられました。
『文字占い師』"The Literomancer"…これまた途中まで良い話だなあと思いながら読んでいたら、最後あんなことになってしまって悲し過ぎて再び泣きました。
『良い狩りを』"Good Hunting"…最後の方は超展開すぎて(゚Д゚)ポカーン。ぼくと艶の関係性高度過ぎる。「きつねうどんだと思ったら蒸しパンだった」という喩えは私も秀逸だと思いました。後半は香港が舞台なので、今度行く時に妄想が捗りそうです。
作者は女性だったっけ?と思うくらい、女性の、とりわけ母親の心情描写が上手いと感じました。私は10年程前にハーラン・エリスンを読んでからSFアレルギーに罹ってしまい、しばらくこのジャンルは敬遠していたのですが、ケン・リュウの作品はとても読みやすいと感じました。SF小説では、物語の世界観やストーリーに説得力を持たせる為の設定描写がともすると冗長に感じられたり難解すぎて理解が追いつかなかったりするのですが(大部分は私の理解力の乏しさに起因するのですが)、ケン・リュウはこれを必要最小限に抑えていると言っても良いと思います。SFの要素を巧みに用いて物語の展開に説得力を持たせつつ、すごく切なかったり悲しかったりやるせなかったり救いがあったりなかったり、とにかく心に響く作品が多いです。『文字占い師』"The Literomancer"の前半はどこかファンタジック且つノスタルジックな雰囲気で、作者の無限の可能性を感じました。
中国では日本語未翻訳の作品も出版されているようなので(というか、中国ではネットでも読めるんですよね、イヤだなあ…)、次は中国語に挑戦して、いつか原文を読んでみたいと思いました。でも、"The Paper Menagerie"の中国語タイトルは「手中纸,心中爱」って………  確かに「纸的动物园」とかもっと変だけどさっっガーンガーンガーン  古沢氏の日本語訳はとても完成度が高く素晴らしいと思いました。


・あおい(西加奈子)…同い年の読書好きの太太さんからお借りしました(๑>◡<๑)  とにかく、、、若いなあと感じました。この作品を読むと自分の感性が古いというか、自分がすごい年寄りのように思えてきますw  文章に独特の勢いがある、というのはMちゃんの言ってた通りだなあと思いました。Mちゃん、こんな感想ですみません…orz 



今読んでいる本…ヤバい経済学・甲骨文の世界