茶帽子庵

茶帽子庵

たまに更新しています


佑都は古い旅館のような、広い日本建築の建物の中をひたすら逃げ回っていた




後ろから時代劇に出てきそうな着物を着た、日本髪の女が追いかけてくる


(、、、襖の向こうから賑やかな声がする、、、よし、あの襖の向こうに行けば、、、)


襖まであと少し、、あともう少し、、、、もう少しで襖を開けるところで佑都の足が急に動かなくなる、、、


(足が動かない、、早く逃げないと江戸時代の髪型の女に捕まる、、ああっ、捕まる!)



『佑都!起きなさい!朝よ!』



母親に起こされた佑都は布団から起き出す


『早く朝ごはん食べて学校に行く仕度しなさい!』


まだ少し寝ぼけ眼で食パンと目玉焼きの置かれたテーブルに着く


(昨日の夜も江戸時代の髪型の女に追いかけられる夢だった、、、)

佑都はマーガリンをつけた食パンにかじりつきながら、昨夜の夢を思い出していた



(最近、あの女が追いかけてくる夢ばかり見る)


午後、小学校から帰ってくると、スーパーに買い物に行くからと母親に留守番を頼まれた


(よし、今がチャンスだ、、、)


独り家で留守番中の佑都は物置から金属バットを取り出すと、家の奥にある和室に向かった、、和室には開き戸の付いたガラスケースに入れられた日本人形が飾ってあった


『おい、人形!夢の中で僕を追いかけているのはお前だろう!わかってるんだぞ!もう二度と追いかけて来れないように壊してやる!』

佑都は着物姿の日本髪の人形に向かって金属バットを構えた、、、佑都の夢に出て来た女に似ているようにも見える


(、、、あれ?この人形、扇子落としてる)

ガラスケースの下に扇子が落ちている、、落ちていた扇子は手と胸元に挟まれる形で保持していた筈だった


佑都はガラスケースの開き戸を開け、扇子を拾うと日本髪の人形に元通り持たせた

人形を壊す気も何となく失せた佑都は、金属バットを持って和室を後にした



その日の夜、、、


《お扇子を♪拾ってくれてありがとう♪》


時代劇に出てくるような髪型の女が、笑顔で扇子を持って歌っている


その回りでは沢山の狐や狸が愉しそうに踊っている


いつの間にか佑都もその輪の中に入って踊っていた


とても楽しい夢だった



その夜以降、夢の中に日本髪の女が出てくる事はなくなった



そして、二十数年の月日が流れた



『日陽、パパとママはジイジとバアバを迎えに行ってくるから、ちょっとだけお留守番出来るかな?』



すっかり大人になった佑都は結婚し、お盆休みに家族3人で実家に帰省して来ていた


久しぶりの孫の訪問に喜んだ佑都の父と母は、3人をもてなす為の買い物に出かけていたのだが、車が故障しショッピングセンターに立ち往生していた


とりあえずレッカー移動の手配は済ませたが、ショッピングセンターまで両親を迎えに行かなければならなかった


しかも炎天下の暑さで母親が体調を悪くしたらしかったので、夫婦で迎えに行く事にした




日陽は帰省の移動で疲れたのかぐっすりと眠っていた


(両親を連れて帰るだけだからすぐ戻って来れるだろう、疲れて眠っているのを起こすのも可哀想だ)


佑都も妻もそう軽く考えていた


しかし、ショッピングセンターで見つけた母は、体調を崩し、アスファルトに座り込んでしまっていた


佑都と妻は父親と母親を車に乗せると、馴染みの内科医院に向かった




幸い、母親の体調は軽い夏バテであった


すっかり遅くなった四人は、日陽が独りで待つ家に急ぎ帰宅する


(日陽、長い時間独りぼっちにしてしまってゴメン、寂しくて泣いてしまっているだろうな)


佑都が家のドアを開ける


『パパ、ママ、ジイジ、バアバ、お帰りなさい』  




寝覚めから間もない様子の日陽が、元気な笑顔で3人を迎える


『日陽、独りで留守中させてしまってごめんね、寂しかったよね?』


佑都の息子を気遣う言葉に日陽は笑顔で応えた



『ううん、昔の髪型した面白い女の人と、沢山のキツネさんやタヌキさんが一緒に遊んでくれて楽しかったよ』



(昔の髪型の女の人とキツネとタヌキ?)


日陽の元気そうな会話に安堵する雰囲気の中、佑都はハッと思い出した



翌日、佑都は日陽を連れて実家の和室に入る、目の前には床の間に置かれたガラスケース入りの日本人形がある


『あっ?このお人形さんの着ている着物、昨日の面白い女の人と同じだよ』




日陽の言葉を聞く佑都は、日本人形が入っているガラスケースの開き戸が少し開いているのに気付いた、


(息子の相手をしてくれてありがとう)



佑都はそっとガラスケースの開き戸を閉じた



 とても長い商店街のアーケードの中を、繁華街方向の出口向かって歩いている




ふと背後が気になり、左肩越しに後方を見る



パラパラと散発的に行き交う人達の間に、こちらに向かい俯き加減で立っている女性がいる、かなり後方だ



前に向きなおり、アーケードの中を歩き始める、、、再び足を止め、再び左肩越しに後方を振り返る




(歩くの速くないか?)



先程、アーケードの遥か後方に立っていたあの女性が、まだまだ距離はあるものの、かなり近づいている様に見える



気にしないようにしながら正面を向きなおり、やや速めの歩調で歩き、、、また左肩越しに後方を振り返る



(近い、、、)




その女性はこちらが振り返っている時は俯き加減で突っ立っている、しかし女性との距離はもう表情が読み取れそうな程近づいて来ていた



そして、その女性は決して容姿は悪くは無いのだが、何となく強い嫌悪感を抱かせた



早歩きの歩調で更にアーケードの出口方向に向かい、そして左肩越しに女の方を振り返った



(マズい、近い!近い!)



その女性はもうすぐ後ろまで迫っていた、、アーケードの出口まではあと少しだ





駆け出したい気持ちを抑えながら、懸命に早歩きで出口を目指す



もしここで走り出せば、あの女も走りだす気がしたからだ




そうすれば一気に捕まえられてしまう




アーケードの出口が見えてきた




アーケードの向こうの通りの横断歩道が点滅を始めた




背後から女のコツコツと言うハイヒールの足音が真後ろで響く





(今だ!)



点滅している信号機の横断歩道を一気に駆け抜ける




背後から何かが掴みかかって来るような
圧迫感が追ってくる、、、




《はあっ、はぁ、、》



信号機が赤になった




無事に横断歩道を渡り切れたようだ




左肩越しに振り返っても、もうあの女は見えなかった






(、、、、夢か、、、)




寛人はベッドから起き出した



今日は唯一の趣味の推し活の日だ



大好きな女性アーティストが近隣の街にライブにやって来るのだ




近隣とは言え、新幹線で1時間半はかかる街だったが仕度を整え、午前中のうちに家を出た




地元の最寄り駅から新幹線に乗り、ライブ会場の有る街に着いた寛人は、ライブグッズの物販列に並ぶ為にライブ会場に向かった



会場に着くと、既に150人超の物販列が出来ていた




そして1時間半後、寛人はお目当てのライブグッズを手に入れ、いったんライブ会場を離れた




そしてそのままホテルにチェックインしに向かった




ライブ会場のあるオフィスビル街の谷間を抜け、アーケードのある商店街を抜ける




アーケードの向こう側に更に現れる繁華街の中に寛人の予約したホテルはあった





(、、、、?、、このアーケード街、、、前にも来た事が、、、無いよな?)




ホテルにチェックインし、余分な荷物を部屋に置き、身軽になった寛人は、再びライブ会場に向かった




今回はオフィス街に隣接する公園の傍にあるライブハウスが推しのアーティストのライブ会場だった




整理番号順にオールスタンディングの客席に入ると、チラホラとあちこちのライブで見かける顔がいた




『どうも』『お元気そうですね』


寛人は茶色いキャップを被った、たまに推し活会場で見かけるファンの隣に陣取った




その後、推し活中の女性アーティストのライブはかなり盛り上がり、ライブ終了後は顔見知りのファン仲間達と近くの居酒屋で盛り上がった寛人だった





その後、居酒屋の前で推し活仲間達と解散し、寛人は独りホテルに向かった





オフィス街から繁華街に抜ける長いアーケード街を一人で歩く




昼間とはまた違う雰囲気だ



繁華街のある前方から浴衣姿の女性達が歩いて来た、今日は夜市をやっているようだ






(何だかこの光景、、、)



ふと、夕べ見た夢を思い出し、左肩越しに後ろを振り返る






(、、、え?!、、)


(居た!あの女だ、、、)


(夢と同じあの女だ、、、)





寛人ははやる気持ちを抑えながら、アーケードの出口の繁華街を目指す




そして左肩越しに振り返る




(、、、夢と同じだ!)




女は俯き加減のまま先程よりも確実に近づいて来ている




容姿は悪くは無いが強い嫌悪感を抱く雰囲気も夢と同じだ





(、、、焦るな!夢と同じなら、、、夢と同じなら逃げ切れるはず!!)






寛人が早歩きになる、アーケードの出口、繁華街が見えてきた




道路を向かい側に渡る横断歩道の信号機は今青になったところだ




寛人が更に早歩きになる




《コツコツコツコツ》


背後からハイヒールの足音が迫ってくる





横断歩道の信号機が点滅し始めた


(今だ!)





寛人は夢の時と同じ様に横断歩道に向けてダッシュをした、背後から掴みかかる様な圧力を感じながら






《ガシッ!?》






『待ちなさい!!信号機が点滅しだしたら止まりなさい!!』





『えっ!?』




ダッシュしかけた寛人は、夜市の交通整理をしていた女性警察官に右腕を掴まれて静止させられた




その間に無情にも、目の前の横断歩道の歩行者信号機は赤になっていた






呆然とする寛人の左肩に女性警察官とは違う別の手がかけられる






恐ろしさで振り返れない寛人の左の耳元で女の声がする







「今度は・・・つ~か~ま~え~たぁ~』







*この話は過去のブログ記事〈気になる〉を参考にして創作しました



(、、、よし、荷解きは済んだぞ、あとは部屋を整頓していこう)

 

石橋幸太は入居したてのアパートで黙々と引っ越し荷物の片付けを続けていた




 幸太は大学に進学する為にとある地方都市に引っ越して来ていた 




 元々は別の地方都市で家族と共に暮らしていたのだが、大学入学を機にこの地方都市で一人暮らしを始める事になったのだ 




 初めての一人暮らしなら都会に出たいと考える若者が多い中、幸太は敢えてこの地方都市の大学を選んだ 




 それは将来の夢の為とかではない、別の動機からではあったが、、、




幸太は中学高校時代の6年間、スクールカーストの中位から下位に位置していた 




 昭和世代の人間には、スクールカーストと言われてもピンと来ないかもしれないが、少年時代の幸太は、クラスメイトの序列の中ではあまり良くない立ち位置にいたのだっだ 




 自分よりカースト上位のクラスメイトには愛想を振りまき、自分自身より下位のクラスメイトには尊大な態度を取る、クラス内の損得が常に序列によって決まっていた 




 幸太は中学校時代から続いた地元の同級生達によるこの暗黙の了解が大嫌いだった 





 そこで幸太は大学生活は過去の人間関係をリセットするつもりで、地元の同級生が誰も行きそうにない地方の大学を選んだのだ 




 社会問題的な少子化な事も有り、地方の私立大学には選り好みさえしなければ思っていたよりも簡単に合格出来た 




 この新天地で幸太は、高校時代までとは違う新たなを人間関係を創り出していく、、、筈だった




『よお?お前、幸太じゃねえか?お前もこの大学受けてたのか!何故教えなかった?』 




 入学式の日に背後から声をかけてきたのは、高校時代のクラスメイト、中川泰我だった 




 泰我は高校時代、スクールカーストの上位で、毎日のように下位のクラスメイトを揶揄しては楽しんでいた 




 幸太もまた、泰我に面白半分で何度となく絡まれた一人だった




 (誰も知り合いが居ない大学に来たつもりが、よりによってなんで中川が、、、) 




 どうやら泰我は都会の志望大学に悉く落ちた後、浪人はしたくないからと仕方なくこの大学の二次募集を受験したようだった 





 入学式後は大学のオリエンテーションや履修科目の選択などで、あっという間にゴールデンウィークに突入した 





 地元が好きではなかった幸太は、大学一年目のゴールデンウィークは帰省しないつもりだったが、同じ地元の泰我に押し切られ、半ば強引に帰省させられた 




 帰省中も、同じ大学に進学した仲間だと言う理由で泰我に連れ回され、高校時代の同級生達との幸太とはノリの合わない馬鹿騒ぎに付き合わされた




その集まりは仲間同士対等な集まりではなく、高校時代のスクールカーストが卒業してもまだ健在なのを思い知らされるものだった 




幸太にとって大学生活最初のゴールデンウィークは、全く気の安らぐものではなかったのだった





 そしてゴールデンウィークが終わり、大学での授業が本格的に始まったある朝、幸太はこの大学にしては珍しく満席の講義室に一時限目から出席していた



そこに泰我がやって来た




 泰我は三人掛けの通路側で受講の準備をしている幸太を見つけると、『真ん中に寄れや!』と半分命令口調で幸太を真ん中の空席に移動させ、通路側の座った 




 『この教授はテストが悪くても、出席さえすれば単位もらえるからな、早起きは辛いが(笑)』




泰我は昨夜も入学後に出来た仲間と夜更かししたようだった、何度となく生アクビをする 




 『そうだ幸太!来月の4日の夜開けとけよ、女の子二人と二対二で肝試しドライブに行くぞ!』




泰我は親に買ってもらった車の鍵のストラップホルダーを指先でクルクルと回しながらニヤけた 




 『泰我くん悪いけど、僕そう言うのは行きたくないから、、、』



『はあ?何言ってんだよ?陸や海都がバイトで来れないからお前を誘ってやってんだよ!お前も女の子と知り合えるチャンスなんだから有難く行くんだよ!」 




 泰我の誘いはほぼ強制の強引なものだった 





 その日の午後、大学の講義を終えた幸太は、まっすぐアパートに帰る気になれず、アパートのすぐ傍にある公園のベンチに腰掛けていた 




 (ああ、なんでだよ、、、地元のクラスメイトのノリが嫌いでこっちに来たのに、、、泰我のせいで高校時代よりも悪い日常じゃないか、、、)




 ベンチでうつむく幸太の前に人が立つ気配がする



幸太が気配に気付き顔を上げると、花柄模様のロングワンピースを着た女性が立っていた




 とても容姿の整った女性ではあったが、その花柄ワンピースにはなんとなくデザイン的に違和感のようなものを感じた




女性が無表情なまま幸太に話しかける




『征治さん、あなたを迎えに来たの』 



『征治さん?いやいや、違いますけど?』 



『そうね、あなたは征治さんではない、だけどあの部屋に住んでいるんだから征治さんの身代わりでしょう?さあ、行きましょう』



『え?身代わり?何の話か、、、』




 《ドン!スルスルッ》 



 初対面の見知らぬ女性との謎の会話にフリーズしている幸太の足元に、サッカーボールが転がってきた 



 『スイマセーン!ボールが反れてしまって!』



離れたところでサッカーのパス練習をしていた子供達が幸太に声をかけてきた 




 幸太は『いくよ?はいっ!』とサッカーボールを少年達の方に蹴り返してやった




 少年達は『有難う!』と幸太にお礼を言うと、再びパス練習を再開した




 そして幸太は再び傍らに立つ花柄ワンピースの女性の方を振り返る



(、、、あれ?居ない) 





 それから数日後、大学の講義が午後からだった幸太は、近所のスーパーに買い物に出ようと部屋を出た




 アパートの隣にある大家さんの家の庭に面する縁側で、数人の老人達が集まって談笑をしていた 



 『こんにちは』



大家さん達の集団に挨拶した幸太に、大家さんの奥さんが『学生さん、よかったらこっちでお茶でもいかが?鯛焼きもあるから』と声をかけてきた 




 ちょっと躊躇したが、人の良さそうな大家さん達だったので、幸太はお言葉に甘える事にした




大家さん達は古いアルバムを開いて昔話に花を咲かせていた様子だった 




 『おや?この建物?大家さんの家の隣みたいだけど、、あれ?』 



 大家さん『これは昭和時代のこのアパートだよ(笑)、昔は木造で各部屋にトイレはあったけど風呂はなかったんだよ』 



幸太『へぇー、、、あ、この男の人』



大家さん『それはわしだ(笑)』幸太『このお祭りの集合写真、、』



他の老人達『わしらも写っとるぞ、、、みんな老けたのう(笑)』 




 アルバムのページをめくると、再びアパートの写真、、


(え??) 


幸太は大家さん達におそるおそる質問する



『あの、、アパートの前で男の人と写っているこの花柄ワンピースの女性は?、、』 



 老人達『、、、、』



大家さんが重々しく口を開く



『その女性は当時このアパートに住んでいた征治くんの恋人で綾子さんだ、征治くんはとても人の良い学生さんで、町の清掃活動やお祭りなんかをよく手伝ってくれてね、就職で遠くに引っ越すまではわしらと兄弟分のように仲良くしたものだよ』 



 幸太『就職ですか、ならこちらの綾子さんも?』 



 大家さん『いや、、、征治くんが就職先で仕事が順調に進み出したら呼び寄せるからとの話だったんだが、、、、その後、征治くんは就職先で別の女性と結婚してしまってね、それを知って悲嘆に暮れた綾子さんはその後行方不明になって、、、最後に目撃されたのが、当時自殺者が多いと噂の樹海の近くだったそうだ、、』 




 幸太は再びアルバムの中の綾子さんと言う女性を見る、昨日公園で会った女性にそっくりだ




着ている昭和のデザインっぽい花柄ワンピースも昨日出会った女性のそれに似ている 





 その日の夜、幸太は昼間の事を不安に思い、気安め程度ではあったが自分のアパートの部屋のドアの前とベランダに面したガラス戸に盛り塩をした 




 不安と恐れから中々寝付けなかったが、、




 『征治さん、征治さん、迎えに来たよ、さあ、あの場所に行きましょう!』 




花柄ワンピースの女性が無表情のまま幸太に近づいてくる



『うわぁぁ!!僕は征治さんじゃない!来るな!』




花柄ワンピースの女性『知ってる、だけどこの部屋に住んでいるんだから征治さんの身代わりでしょう?』 




 《ガバッ!》



『はあっはあ、、、』(夢か、、、、)




ふと幸太はベランダに面したガラス戸のカーテンをかすかに開ける、、、



アパート近くの公園が見える、、、



その公園にポツンと立つ人影のようなものが見える、、、




こちらを向いているように、、、




いや、こちらを見ている! 






 翌朝、幸太は大家さんの家に駆け込むと、奇妙な花柄ワンピースの女性の話しを詳細に話した




 会話の最初こそ、愛想笑いを浮かべていた大家さんだったが、幸太の話を聞いていくうちに深刻な表情になっていく




大家さんが話し始める、幸太の今入居しているアパートの部屋は、これまでも何故か入居者がすぐ引っ越してしまう事の多い、いわく付きの部屋だったのだ



しかしこれまでは花柄ワンピースの女性の噂が出た事などなかったのだが 




 途方に暮れる幸太に、大家さんは『この人なら君を救えるかもしれないから、ここに行きなさい』と、とある祈術師の住所をメモした紙を手渡す 




 大家さんとは学生時代少しだけ交流があったらしい、その祈術師の住居を幸太は藁にもすがる思いで訪ねた 




 『いらっしゃいませ石橋幸太さん、私は祈術師匠山の娘で楓と申します、あなたの大家さんからお電話で、大まかなお話はお聞きしております』 




幸太と同じくらいの年齢と思われる若い女性が玄関先に現れた 




 客間に通された幸太の前に50代くらいの男性が現れる



『どうも幸太さん、私が当主の金倉匠山です』




 大家さんと同期だった祈術師は昨年病気で亡くなり、今は一人息子だった匠山さんが祈術業を継いでいるとの話だった 





 幸太は匠山から花柄ワンピースの綾子と言う女性と遭遇した事について、事細かく質問を受けた



そして、、、 



 『幸太くん、この自宅の裏山に小さな御堂がある、まずそこに行こう』 




 御堂につくと匠山は神妙な面持ちで幸太に告げる 



 『この綾子さんと言う女の霊は、本来なら恋人だった征治さんを共に連れ去ろうとするはずでした  しかしながら征治さんとは霊的な波長が合わずに連れ去れなかったのです  その後綾子さんは悪霊となり思い出のあるあのアパートの近くを漂うようになりました  アパートを改装した後もずっと何十年も、アパートのあの部屋に入る住人を征治さんの身代わりに連れ去ろうとしていたのです』 




幸太『何十年もずっと、、なのに何故僕の前にだけ現れたのでしょうか?』




 匠山『アパートのあの部屋に入居したとしても、たいていの人はあの女の霊との波長が合わず、体調不良や軽い精神疾患で退去する形で終わっていたのですが、不思議な事にたまにラジオと電波の周波数が会うように、幽霊と波長が会ってしまう人がいるんです、それが幸太くん、あなたです』 




無言で心細そうにうつむく幸太に匠山が続ける




 『幸太くん、今日の日没からあの女の除霊の祈術を終えるまで、この御堂の中に隠れていて欲しい  御堂の出入口の引き戸にはあの女が中に入れないように結界糸を張っておくから、、、いいね?引き戸を開けて結界糸が切れてしまえば君は女の悪霊にとり殺されてしまうよ? 引き戸は絶対開けないように!』 




そう言うと、匠山とその娘は幸太を中に入れて御堂の引き戸を閉め、結界糸を張っていくような作業音がした 




『幸太さん、しばらくの辛抱だから頑張ってね、父は必ずあなたを助けるから』




引き戸の外から匠山の娘、楓の声がした





 匠山『さて、祭壇前に戻り除霊に移ろう、楓、一刻を争うから準備を手伝ってくれ』





日も暮れ、、御堂の中でうずくまる幸太の耳にあの花柄ワンピースの女の声が聞こえてきた




 『征治さん、迎えに来たよ、一緒に行きましょう!、、、、征治さんの身代わりの幸太さん、出ていらっしゃい!!』 




 御堂の外からはっきりと聞こえてくる女の声に幸太は怯えてうずくまる 




 女の声が続く『幸太さん、あなたは征治さんの代わりに私と一緒に行かなければならないの、お願いだからこの戸を開けて!』 




 (い、いやだ!行きたくない!)




御堂の中で怯える幸太に女の悪霊は何度となく呼びかけてくる、、、『幸太、行こう!幸太行こう!』




(ああ、もう怖くて耐えられない、、、匠山さん、、早く!早く助けて!) 





 それから数時間が経過しただろうか、、、




引き戸の外から聞こえていた女の霊、綾子の言葉に変化が表れた 




 綾子『幸太さん、、早く、、、早く出てきて、、、私はあなたと一緒に行きたいの、、』




 綾子『、、こ、幸太!!こんな術で私は、、、私は、、幸太!お前は私と、、私とあの場所に行くんだ!、、ああっ!』




 (匠山さんの除霊の祈術が効いているんだ、、)




幸太に一筋の希望が見えた瞬間だった、、、





しかしその時! 




 『コラァ!幸太!ここにいるんだろうが!』



『やめて!今除霊の祈術中だから邪魔をしないで!』 




 聞き覚えのある二つの声、、、怒りの叫びを上げる泰我の声とそれを引き止めようとする楓の声




 泰我は怒り狂った様子で幸太の籠もる御堂に迫る、、、



それを必死で阻止しようとする祈術師の娘楓




 泰我は御堂の引き戸の前に立ち喚いた 




『幸太!今日4日は肝試しドライブの約束だっただろうが!お前がすっぽかしたおかげで計画が全てオジャンだ!』




無言で御堂の中でうずくまる幸太に泰我が更に続ける




『お前は上手くすっぽかしたつもりだろうが、お前のアパートの大家にお前を心配する兄貴のフリをして聞き出したらここを教えてくれたよ!今から三つ四つ、いや、それ以上殴ってやる!』




引き戸の開けようとする泰我を必死で楓が静止する、、、 




『きゃあっ!』《ドスン》 



 『このクソ女!邪魔するんじゃねぇ!』





 御堂の外で楓が泰我に突き飛ばされた音を聞いた幸太は、自らが悪霊に狙われている危険な状況にもかかわらず立ち上がると、御堂の引き戸の前に向かった、、、




そして引き戸を開けようとしたその時 、外から泰我の独り言のような叫びが聞こえてきた 





 泰我『え?なんだよお前?、、』



『は?俺は征治なんかじゃねえよ!!』



『はぁ?!ここに居るから征治の身代わり?』




『い、いやだ!俺はお前なんかと、、行きたくない!そんな場所に行きたくない!来るな来るな!、、、ぎゃああぁあぁあ!!、、、』 





 泰我の叫び声がかき消された後、幸太は御堂の引き戸を開けた 




 御堂の出入口の段下には、怯えた表情で倒れ込む楓がいた 、、、泰我の姿は無かった





 『はあっはあ、、、幸太くん、そして楓、二人は無事だったか』




息をきらしながら祈術師の匠山が御堂の前に駆け上がってきた 




 綾子の除霊はあともう少しのところまで来ていた




そんな時、怒り狂った泰我がこの御堂にやって来たのだった 




 匠山は救えなかった泰我の霊に黙祷すると、幸太に向き直る 




 『幸太くん、今後綾子の霊が君の前に現れる事はない、難しいとは思うが今夜の事はなかったかのようにこれからは生きて欲しい、泰我くんの事はこちらで後始末するから、、、』 





 翌朝、幸太はいつものようにアパートで朝を迎えた


大学に行き講義を受け、夕方は最近見つけた弁当屋でアルバイトをする 




 そんな毎日の幸太にも初めての彼女が出来た、弁当屋のアルバイトで知り合った楓と言う女性だった 




 幸太はその後もこの町で大学卒業までありきたりの生活を送った 




 幸太の記憶からはあの日の出来事はすっかり消え、泰我についての記憶も個人的な事情で大学を中退し、その後消息不明になっている事にすり変わっていた 






 そして数十年後 




 『ご苦労様でした!』 




 引っ越し業者を見送り、この春からアニメーションの専門学校に通う予定の西本燐菜は、梱包してある段ボールだらけの部屋を柔やかに見渡す 



 (今日からの3年間、この部屋が私の夢を叶える為の生活の場になるんだ!) 





 そしてその夜、、 





 『おい!幸太!迎えにきたぞ!今度こそ肝試しドライブに行くぞ、、ただ今度は少しだけ遠い場所だけどな(笑)』




『え?あたし?、、、あたしは幸太なんかじゃないんだけど、、、』




『わかってる、わかってるよ、だけどこの部屋に住んでいるんだから、あんたは幸太の身代わりになって、、、あの場所に俺と行くんだよ(笑)』