車は大学病院の立駐を経て玄関先へ。

自然と足取りも重くなる奥さんに歩幅合わせててくてく。。

その険しい表情は転院する不安からか、それとも晴れない心とは裏腹に強く照りつける朝日を浴びてか。


いつも診察を受ける病棟を抜け、奥へ進めば入院棟がある。

受付を済ませ5階へ。


ナースステーションに挨拶して病室まで案内してもらう。


大学病院の入院棟。自分は初めて来たが、

奥さんからあんな印象発言(白い巨塔)を聞いたからか定かではないが、確かにこれまでいた病院棟とはかなり雰囲気というか、、

もの静かで、陽光射し込む病室までの廊下がなんだか青白く見え、寒く感じた。

それは奥さんも同感だったらしく、
前の病院は中小規模なれど先生も看護師さんも同じ病室の患者さん達も温かい感じだったのに比べるとそれだけで不安が募ると吐露した。


病室に案内され荷物を片付け。
大部屋の窓側で"当たり"といったとこだが、
気分は晴れない…

ふと担当医師のプレート?を見やると4名ほどある。チーム医療てことで複数の先生方が連携とって治療に当たってくれるわけだ。

消化器外科は大頭たる先生が2名。
診察してくださったT先生と、もうひと方は入院する際顔を出すと言っておられたが…

看護師さん曰く、
本日は先生手術にて治療方針のお話は明日するそう。

要するに今日はもぅ特になにすることなく1日が終わってしまうようだ…

慣れない環境に身を投じて1日を何もせず過ごすはある種"生殺し"に近い重圧でもあった。


病室にこもっていても仕方ないので、少し院内を散歩。

奥さんは誰某のお見舞いやらで来たことはあるらしく詳しかったので案内してくれた。

2階には結構な規模の売店があり、
街のマートとドラッグストアがそのままその区画にあるような充実した品物·品数で、入院患者さんや見舞い客のみならず看護師さんや先生まで足繁く利用されていた。

他にも美容室や図書室、レストラン等もあり
2階は多目的フロアといったとこだ。


診察棟への連絡通路?もあり、そっちも散策。
今日もたくさんの患者さんが様々な科目の診察を受けに来ている。

エレベーターの各フロア案内を見ると、屋上庭園なるものがある様子!
.。゚+.(・∀・)゚+.゚

お花や緑が好きな奥さんにはうってつけやん♪
…けど確かこの日は歩き疲れたてことで後日までおあずけてことで( ´ᐞ` )

病室へ戻ることに…


……………


日も落ちかけ夕方になる頃、手術を終えた先生が顔を出しに来てくだすった。

大頭の一角H先生と、I先生。

治療方針の話をする前に、事前に造影剤を使ってのCT検査を明日したいそう。

造影剤、、俗にいうバリウムの事かと頭を過ぎった時、真っ先に心配になったのが胃の通りが悪い奥さんの体内から十分に排泄されず危険なのではないか?という事。

説明は割愛するが上記の通り、バリウムはちゃんと排泄されないと最悪致死にも成りうるリスクがあると認識していた。

(この事が心配でこの日の晩は寝れもしなかったんですが、フタを開けてみれば無色透明のゼリー状のモノだったよう…まぁ、、奥さんの病状考えればバリウムは使わんわな( ̄^ ̄#))


奥さんがH先生と話してる際、その傍らで眼鏡ごしに険しい眼光で奥さんを見るI先生…(  ・᷄ὢ・᷅ )


先生方とお話が終わった後、即奥さんと後ろにいた先生恐かったねぇ、という話になり(汗

やっぱ恐いなぁ、前の病院とは違うなぁ、、と
夕日とともに気も沈んでいく奥さん。

(後日、看護師さんにその先生の事を尋ねてみるとそんな恐い先生でもないそう。おそらく手術終了直後だったからでしょう、との事…
命を扱う重圧を思えば納得)


その日はそれでバイバイになってしまったが
なんとか奥さんを元気づけるというか、勇気づけてあげられないかな…と。

帰路の途中立ち寄ったフタバ図書。
⊂(  `―ω―)⊃


用事は単純明快、奥さんを勇気づけてあげられる"想い"を買いに来た。

やや好みに偏りはあるが自分と同じく音楽はジャンル不問で聴くし、
特に昭和~90年代なんかはよく歌ってたし、レゲエやポップといった陽気で明るい曲を好んだ♪

そんな奥さんが近年好んで聴いていたのがゴールデンボンバー☆(キリショー推し)…まぁ、布教したのは自分なんですが。

そして奥さんにはかなり珍しい事なのだが、メイさんことMay'nの陽気で明るいのとは対極にあたる「Blue」をこよなく愛してた。
…まぁ、布教したのは自b…(ry

カラオケでもよく歌ってた。


が、金爆は「女々しくて」に代表されるように"前向きに~"とは掛け離れてるし、
名曲「Blue」もさすがに現状勇気づけるというにはチョイス違いな気もする。。


てなわけで、推しのキリショーのカバーアルバム「鬼カバー90’s」と
これまた奥さん大好きな映画ワイルドスピードのサントラをば♪


不思議なもんで幼少からすぐ車酔いするくせに乗るのは好きで(助手席)、転じて車好きだった奥さん。

遠方のエンジン音に反応して車種を当てたりもできるくらい。

そんな奥さんに見せたシリーズ2作目でハマりこんで、当時最新作のシリーズ8作目「ワイルドスピード ICE BREAK」も観に行った。
(思えばこの作品が奥さんとの最後の映画になったやね…てかこれも布教したの自分やん。)


余談だが5作目から登場するホブス捜査官がお気に入りだった様子♥そこから着用していたトップス?がアンダーアーマーだったこともあり、
おのずと増えていったアンダーアーマー商品(笑

当時はまだそこまで知られてなかたメーカーやたけど、いまや国内でもNIKE・adidasの二台巨頭と並ぶブランドになりますたなぁ…


自分自身、歌の持つ力を信じてるし、何度も体感もした。音楽にのる言葉(詞)は時として言葉の意味以上のパワーをもたらすこともある。

心震わせ、心奮わせ、、
"想い"は奥さんの心を救えるだろうか…


……………


翌日、買ったCDとポータブルプレイヤーをこさえて病院へ。
⊂( ­  ­^ω^)⊃

さっそく鬼カバーアルバムからセッティングして聴かしてあげゆ♪

イヤホンを両耳にはめた奥さん。
1曲目が流れだしたであろう瞬間、奥さんは大粒の涙をボロボロ零しながら歌を静かに口ずさむ…

トラック1は大事MANブラザーズバンドの「それが大事」。

団体部屋でなければもっとおっきな声で"想い"を歌いたかったろうに。


泣きながら、しかし一言一言しっかりと言葉にして歌う姿を見て、奥さんの心奥底からある不安や"死"が隣接する恐怖、哀しさ、悔しさを吐き出すように。


ふと頭を過ぎったのは、とある歌のフレーズだった。


Def Techの「音楽♫MUSIC」

過去にこの曲についてふれた記事を書いたと記憶するが、、この曲の一節にこうある。


♪始まりはきっと恐れる心を 打ち砕く為に吠えた叫び♪~


音楽が音楽たるルーツを歌ったフレーズだが、
泣きながら歌を口ずさむ奥さんに音楽の意義
というか、"歌の起源"を見たのだ。


病気の事を受け入れたつもりでも我慢していたに違いないんです。塞き止められていた心のダムが決壊した瞬間だったのかなぁ…

自分はその姿を傍らで、ただただ静かに見守っていた。。


……………


午前中には造影剤飲んでのCTを取りに病室を出たくらいで、後は病室で一緒に過ごしてた。


夕方前になると奥さんの両親もいらした。
一緒に治療方針を聞くためだ。

じぃばぁは、片や耳が遠く一緒に聞いても事にならんからと、片や難しい話聞いても分からんけぇとこなかったらしい。


しばらく談話していると看護師さんが呼びにいらして会議室?に通された。


正直、宣告された時の事もあり奥さんがディープな話に耐えられるか心配だったが、到底本人抜きで進められる話ではないし

奥さん自身音楽でデトックスできたからだろうか、顔色には不安こそ見られるが瞳はしっかり腰を据えてる感があったので大丈夫かなと。


………………………………

皆が席につくと改めて先生方の自己紹介の後
まず奥さんの置かれている状態と、本人・家族が望む可能な限り普段通りの生活を送りたいという想いに対する問題点の提示。


問題点としては

〇ご飯が食べられない(経口摂取障害)

〇貧血


ご飯が食べられないといっても、現時点で完全に塞がってしまっているわけではなく少なくは通っている様子。(もし塞がってしまっていたらゲーゲーなるそうな)

が、悪化した際に錠薬が飲めなくなることが危惧される…


一番の目標は抗ガン剤治療の開始。

そのための胃の通りをよくするための"胃空腸バイパス"なる手術を施行したいとのこと。



胃空腸バイパス手術とはなんぞや?…


胃の上部~中腹辺りに穴を開けダイレクトに小腸とつなぎ、経口摂取したものをなんとか腸まで落とし込み栄養を得る。

また、腫瘍のある下部へ触れ刺激されるのを最大限抑えるため"壁"を作るという。


胃と腸の接合部 穴径3㎝くらい。
胃の中腹をイチョウの葉のような形状に深めに切断し、医療用ホチキスでとめ隔離する。
(機能的に完全に隔離するわけにはいかないようで、胃内でダムや防波堤の類の役割)


施術2日後くらいから食事を始められ、
進んで抗ガン剤治療も開始できるという寸法らしい。

この治療方針に同意ならば明日、時間の都合がつく最速で救急外来扱いで手術したいという。


勿論、医療チームで話し合い最善と提示された治療方針に異議などないけど、聞かずにはいられなかった。

……………………………………………………………………


Q…"壁"対応は腫瘍部摘出はできないという判断なのか?

全身転移があるにせよ、諸悪の根源たる大本さえ切除できればあるいは苦痛の軽減・延命に繋がると思っていたから。

返答は分かってはいたが現実は厳しいものだった。


A…先も申した通り、奥さんの病状としては
ガンは胃壁を越え膵臓にまで浸潤し、がっちり癒着している。

もし摘出となれば、そこに付随する膵臓、十二指腸、胆のう、リンパ腺等がからむ大手術になる。

それだけ他部門を巻き込んでの手術となると諸々準備期間も相応かかるし、

第一、それだけの臓器を手に掛ける⇒超時間の大手術⇒点滴に頼っているような奥さんの体ではとても耐えられないであろう…


……………………………………………………………………

という答えだった。


分かってはいた。分かってはいたが、

この瞬間、奥さんの概ねの余生…タイムリミットが定まってしまったことに自分は人知れず静かに絶望していた。。。

抗ガン剤にまつわるある真実を知っていたから…


奥さん・家族とも話し合い手術に同意。


………


治療方針説明を終え家族が帰り病室に戻ると、
奥さんは頭痛を訴え戻してしまった。

説明を受けての不安、極度のストレスのためだと思われる。


時間は未定だが翌日の手術に備え、
この日は奥さんを休ますため早めにバイバイした。


……………


余談、、


この頃奥さんの心を救う音楽があったように、
自分にも支えとなる音楽を毎夜聴いていた。


ひとつは竹原ピストルさんの「Amazing Grace」…

もともとこの楽曲を知るに至ったのは奥さんからのススメだった。

その"想い"は飾り気なく届けられるどストレート"魂"の塊。ピストルさんのその時の心情をありのままに歌った"言葉"。。


…なんの因果か、
奥さんを通して見知った"言葉"が今まさに自身と重なり共感でき、ホントの意味で心に響く日がこようとは…

出陣…自分もできるものならしただろうな。

余談の余談だが、この楽曲を聴くと昔観た映画「ミクロの決死圏」を思い出す。


もひとつはGANG PAREDEの「UNIT」…

そもそもこの楽曲を知るに至った経緯は結構複雑なので割愛するが、元は前身のプラニメというデュオの楽曲。


曲自体のテーマは"支え合い"で、共に生きていく事を誓い合う前向きな楽曲♪

その若さゆえであろうか作詞歌詞もなんだか青臭さが際立つが、真っ直ぐで淀みない(アオハルアオハル…

音も好きだし振付(GANG PAREDE.Ver)も好き★


その楽曲の"想い"に自分は「UNIT=夫婦」という想いを馳せてよく聴いていた。


そう、夫婦は支え合い。

事が発覚してから一見、自分が一方的に奥さんを支えているように映るかもしれないが
正直、支える自分が奥さんに支えられているのを痛切に感じていた。

今この時、絶望の淵に在って堕落せず自分を突き動かす原動力は奥さんにおいて他ならない。


そして、May'nことメイさんの「鏡」…

いつぞやこのブログでも楽曲を受けての想いを書いたと記憶しますが…(「HEAT」/May'n…3 2012/4/12あぷ)


自分を知る人、想ってくれる人は
人知れず自分を映し出してくれる"鏡"であるー

無論、それは夫婦にも言える事。

ただ、自分を一番よく理解しそばにいてくれた"真実の鏡"にヒビが入り、今にも失われるやもという想いを胸に聴いていた。


楽曲に抱いた"永遠の別離"が、そう遠くない未来に訪れる…


メイさんの代名詞?たる"絶望から這い上がる"的な楽曲は数あるのに、そうではなくこの楽曲に聴き入ってたのは

いずれ来る"それ"への諦めとかそんなではなく、受け止めるための覚悟というか、心構えをするためだったのかもしれない。


……………

共に闘うため、支え合うため、いずれ来るそれを受け止める覚悟、、

日々胸中八裂かれ発狂しそうな自分の精神を繋いでいたのは奥さんへの"想い"と、この3曲があったからだと今でも言える。