鉄分なら、鉄パイプを振り回していた若い頃、手のひらから吸収されていると思っていた。俺をチームに入れてくれた先輩から聞いた話を鵜呑みにしていたのだ。だから俺がよくフラフラになると、その先輩がサッと鉄パイプを差し出してくれたものだ。俺は身体を支えるために先輩から受け取った鉄パイプを両手で握ってそれを杖にして身体をなんとか保った。そんな事が月に二~三回はあった。当時の彼女からは「ウチの生理より多い」と笑われていた。鉄分というものが栄養素の一つで、牛乳にたくさん入っているということはかなり最近知った。素手から吸収されるものではなかったのだ。
今の親分に杯を貰って以来、俺はヤクザとしてはきれいな身体だ。つまりクスリには全く手を出していない。注射が怖いからだ。誰が喜んであんな細長い奴を身体に刺すのだ。大っ嫌いだ。
そんな俺が今日、生きるか死ぬかのギリギリのセンにいる。
まず、徹マン明けの今朝、事務所でフラフラになった。運ばれた病院で「採血します」と、立て続けに三本ものシリンダーに血を抜かれた。
「おおおい!ドクドク血が出てるじゃねえかよう!やだよ俺!」
とチーム時代からの弟分に俺のものまねでその時の俺の様子を説明された。俺は笑うしかなかった。その時の事を全く覚えてないのだ。どうも失神したらしい。
そして医師から「風邪かもしれません」と、立て続けに一発注射を打たれたのだ。断りも無しにだ。
不運は続く。その後「しばらく静かになさってください」と医師から言われ、ベッドで点滴をブッ刺された。その時も泣いて抵抗したらしいが、また失神したので記憶がない。
生まれて初めて、俺は一日に三本もの注射を身体に刺された。しかも最後の一本はまだ刺さったまんまだ。これが医者のする事か?点滴の袋を見上げると、まだ半分以上残っている。怖いよう。これだけの液体が俺の血管の中に入っていくのか・・・!やだなあ。俺の血が薄まっちゃうよ。
ふとその時、朝方の採血のことを思い出した。
シリンダーに俺の血がドクドク入っていく映像がフラッシュバックした。記憶が飛ぶ直前の映像だ。
そうか・・・あの血の勢いは、生きている証拠なのか・・・?
気が付くと俺は左手の親指を中に握りしめていた。看護婦(この人も怖い)が採血の時に俺に指示した握り方だ。
そうか、俺は今無意識に、採られた血をこの点滴で取り返そうとしてるんだ。
あのドクドクと出て行った血を、こうして新たに身体の中に入れ替えてるんだ。
本能ってすげえ。人間って素晴らしい。俺ってすげえ。
知らずに俺は泣いていた。
上手くは言えんが、こう、命の大切さに目覚めたと言うか・・・・・・。
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しかし俺の自分への感動は弟分の言葉でかき消された。
「おお!こりゃいかん!先生ーっ!早く来いや!」
「あ、すいません、点滴の注射、外れちゃいましたねえ」
「先生、早く兄貴に注射し直してくださいよ!」
・・・余計な事をしやがって・・・。
この日通算四本目の注射を刺され、俺はまた失神した。
カラー写真でよくわかる!注射・採血法―適切な進め方と安全管理のポイント (ビジュアル基本手技)/繁田 正毅

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