ストライクアンドタクティカルマガジン別冊『日本陸軍の戦車』 | 柏駅から70チェーン

ストライクアンドタクティカルマガジン別冊『日本陸軍の戦車』

ストライクアンドタクティカルマガジン増刊 日本陸軍の戦車 2010年 11月号 [雑誌]/古是 三春
¥2,980
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実をいうと、買う前は余り期待していなかった。だが一読した今では、買ってよかったと本当に思っている。

良い点その一。
九五式軽戦車と八九式中戦車の内装がよくわかる。手許にある断片的な写真(の掲載された他の本)と照らし合わせて、インテリア再現も大丈夫っぽい。多数のイラストを手がけられた高荷氏に感謝。推測も混じっているかもだって? そんなの無問題。デッチアップをはるかに越える工作ができるのだから感謝感謝に尽きる。

良い点そのニ。
チハ車の左フェンダー穴について、アンテナ用の竿を立てるためのものらしいということを示したのは大変よろしい。かって私も指摘したことだけに、嬉しい。

良い点その三。
古是三春氏のバランスのとれた記述は安心して読むことができる。ある程度まで世界システムや資本主義経済の史的発展について理解しなければ、近代技術史の上における戦車開発の意義というのはわからないだろう。その意味で本書の序論は、我が国のアマチュア向け戦車本として一画期をなすものかもしれない。

良い点その四。
車体前面に増加装甲を施した八九式の写真が三枚載っているのが良い。って、本当に増加装甲好きなのな、自分w

ただ、戦車を国産化できたことから当時の日本の国力を推し量るくだりにはいささかの疑問がある。たしかにエンジンも含めて一から国産化できた国というのは極めて少ないが、当時の日本は鉄鋼も鉄道もやや時代遅れの技術で物を作っていたというのが実情で、まして内燃機関に必要な関連部品産業はろくに育っていないというのが実態だった。八九式が手作りに近い状態だったというのも当然で、むしろ、そんな状態で戦車をあれだけ揃えることができたことの方が不思議と言った方が良い。私としては、予算を傾斜的に軍事へと注ぎ込んでいたからなんとか可能だったというべきだと思うし、そのことは、一方でリソースをすっかり奪われた当時の民生分野がどれだけ惨めな状況に遭ったかという点を顧みれば容易に理解できるのではないかと考えている。

まぁ、戦時統制経済下における産業の様相というのは、歴史学や経済学の方で研究が進められている分野でもあるし、気になる方はそちらをどうぞと言った方が良いのかな。いや、そういう言い方は無責任か。

ところで奥付を見てビックリ。本誌の編集部って、エアワールドと同じ住所じゃん。というか、あの部屋に同居されている方々がお作りになった本だったのね。そういえば2010年はエアワールドに記事を一本も書かなかった。いかんなぁ。いつぞやは電話の取次ぎまでお願いしちゃいました。その節は大変失礼しました。

ともあれ、この本は日本戦車に興味を持つ人に薦めて叱られないと思います。右がかった変なイデオロギーが顔を出さないのも精神衛生上すこぶるよろしい。