【あなたに寄り添うもの】
7月29日(土)から上映 『光』
ある日突然、光を失ってしまったら――。
『光』の主人公・中森雅哉は、天才カメラマンと称されながらも弱視になり、徐々に視力を奪われてゆきます。雅哉が作中で写真を撮り、肌身離さず持ち歩いていた二眼レフカメラ。雅哉はそれを、自分の“心臓”なのだと言い放ちました。雅哉にとって、愛機であるカメラは自分の命より大切なもの。これまで何度も何度もシャッターを押した、人生の相棒を超えた存在なのでしょう。
雅哉が作中で使用する二眼レフカメラ『ローライフレックス』は、ドイツベルリンのカメラメーカーであり、1920年にハンブルクで誕生しました。二眼レフカメラとは、撮影用のレンズの他に、それと同等のファインダー用レンズを持ち、ファインダー用レンズ系の中にその光路を屈曲させるためのミラーなどの反射レンズを持つカメラです。複雑な機構でないため軽量で故障も少なく、製造が簡単なために安価なところが特徴です。中でも「ローライフレックス6×6シリーズ」は、二眼レフカメラ界の元祖であり、ローライの名を世界に知らしめた名機です。使用フィルムは、117フィルムか120フィルム。別名「ブローニー(※)」と呼ばれます(※語源は、カメラブランド“コダック”初期のブランド名。国際的には通用しません)。デジタル化が進む中、『ローライフレックス』を愛用するプロカメラマンもいます。
フィルムの現像には手間も時間もかかり、フィルム代はもちろん現像液や印画紙などが必要になる為、コストがかかります。デジタル化が進む中、それでもフィルムカメラが世界中から愛されるのは何故なのでしょうか。デジタルカメラの写真データは、Deleteキーを押せば簡単にこの世から消えてしまいます。ソフトを使えば加工も可能で、一旦パソコンの中に保存してしまえば場所も必要ありません。断捨離やミニマリストという言葉が流行り、twitterやinstagramが世に浸透している現在、気軽に始められるデジタルカメラは人々のライフスタイルに適しているのかもしれません。だからこそ、データではなく、“もの”として存在する写真に、もう一度注目してみる価値はきっとあるはずです。
現在、富士フィルムから販売されている使い捨てフィルムカメラ『写ルンです』のブームが再来しています。コンビニなどでも手に入れやすく誰でも気軽に撮影ができるので、外出のお供にかばんに忍ばせて、いいなと思った風景や物、街並みなどを撮ってみるのも、日記代わりになって楽しそう。軽くて小さいので、ポケットに入れることもできます。荷物が多くなってしまう人はもちろん、手ぶらで出かける人にもきっと邪魔にはならないはずです。
雅哉が自分の心臓だと語ったカメラは、互いに寄り添って長い時間を過ごしてきました。そんな存在がきっと、誰しもあるはずです。いつか自分の人生の光となるような、なくてはならないものになる存在を、思い出とともにフィルムに焼き込んでみてはいかがでしょうか。
(映写スタッフF)
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