今回は、前回からの引続き、婚姻関係維持した場合の記事です。
この場合、
 被告の行為が夫婦生活の平穏を害した程度,期間,社会的制裁の有無などを総合考慮して,慰謝料の額が算定される傾向にあります。
(1) 妻 vs 老いらくの恋に溺れた女性事件(東京簡易裁判所民事第2室判決)
ア 事案の概要
 被告は夫と死別後,○○委員となり,遅くとも平成13年6月末以降,同じ委員を務めていた原告の夫と食事に出かけたり映画を一緒に見に行ったりするようになりました。同年10月から11月にかけて,被告と原告の夫は,カラオケに一緒に行ったり,原告に内緒で大阪に日帰りで遊びに行ったり,お互いに2~3万円程度のプレゼントを交換しあったり,原告の夫の誕生日前に食事に行くようになったりしていました。しかし,同年11月25日に,原告が夫のワイシャツのポケットから被告の手紙を発見したことにより,二人の交際が発覚しました。交際発覚後,被告と原告の夫はいずれも○○委員を辞任しています。
    悩んだ末に最終的に婚姻関係を維持したことを決意した原告は,被告に対して慰謝料を請求しました。
  イ 慰謝料認定額
    10万円(平成25年の貨幣価値で9万7600円)
  ウ 裁判例の分析
    この裁判例は,被告の行為が,原告の夫婦生活の平穏を害したことを認めています。しかし,被告と原告の夫との交際がプレゼント交換・二人だけでの日帰り旅行に留まっていること,交際期間も5ヶ月と短いこと,被告も○○委員を辞任して一種の社会的制裁を受けていること,原告と原告の夫との婚姻生活が維持されていることを勘案して,原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料として10万円と認定しています。   

(2)妻 vs 夫からのアプローチを受け続けた同僚女性事件(大阪地判平成26年3月)
  ア 事案の概要
    被告女性と原告の夫は同じ会社に勤務しているものの,被告女性は東京勤務,原告  
   の夫は大阪勤務でした。平成22年秋ごろから原告の夫が被告に対して夫婦関係について相談にするようになり,平成23年6月頃からは出張時にお互いの元を訪れるたびに食事をともにするようになりました。
    原告の夫は被告に対して告白したり女性に対してキスや行為に及ぼうとするものの,被告は,既婚者との交際を否定したりキスを避けたり行為に及ぼうとしたことに対して声をあげて抵抗していました。このように,被告は原告の夫に対して一線を画していました。しかし,一方で,被告は,原告の夫と二人きりで花火大会を一緒に観覧したり,滋賀県の同じホテルの別室に泊まったりしていました。
    原告の夫が被告に夢中になった結果,原告の夫は妻である原告に対して冷たい態度をとるようになりました。そこで,原告は,被告女性に対して慰謝料請求をしました。
イ 慰謝料認定額
    44万円(平成25年の貨幣価値でも同額)
ウ 裁判例の分析
  裁判例は,被告の態度から被告と原告の夫の肉体関係を認定しませんでした。
    しかし,被告が原告の夫の誘いを断った後も二人きりで会い続けるなど被告と原告の夫の関係は社会通念上相当な男女の関係を超えていたこと,被告の行為により家庭内で問題を抱えていた原告の夫に無謀な期待を抱かせ,そのような期待を抱いた結果原告の夫は原告に対して冷たい態度をとるようになったとして,原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料として44万円を認定しています。
 妻 vs 老いらくの恋に溺れた女性事件と比較した場合,同事件は日帰り旅行であったのに対し本件事件は泊りがけの旅行に出かけていること,被告と原告の夫の関係が比較的長期間に及んだことから,慰謝料の額が44万円になったものと思われます。

3 まとめ
 婚姻関係破綻型の場合,被告の行為が原告の婚姻生活を破壊する過程を具体的に認定し,被告の行為の継続期間に応じて慰謝料の額が算定されます。それに対して,婚姻関係維持型の場合,被告の行為が夫婦生活の平穏を害した程度,期間,社会的制裁の有無などを総合考慮して,慰謝料の額が算定されます。す。                           
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弁護士 齋 藤 健 博(虎ノ門法律経済事務所)
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