とはずがたり
~宇下人言 (うげのひとこと)~
そのひとが造った街で僕は生まれ育った
鋸と鑢の擦れる音
そこから出てくる鉄の粉は
達磨ストーブに投げ込むと
パチパチと線香花火のように光を放った
閉ざされた環境に
微かな希望が見えた気がした
憎しみも悲しみも怒りも妬みも偽りも苦しみも
すべて置いてきたつもりだったのに
いつか、違う場所でもそれらは芽吹いてしまった
流れる川が清くあり過ぎても
魚はいなくなってしまうとはいうけれど…
何十年も年を重ねて
本当のことに、ひとつひとつ気付いていく
その場所を離れても
そこにある息遣いを意識しない日はない
空蝉として…
遠くにありて…