こんにちは、恩田勉です。
本日はエッセイをひとつ。
昔懐かしい調教師気質についてのお話です。


世の中には気が悪くておっかない人がたくさんいます。
あまり積極的に触れたくないような性格の人です。
競馬の世界にもご他聞にもれず、意地悪でおっかない調教師がたくさんいます。

そのナンバーワンはもう過去の人ですが、東京競馬場所属だったM調教師ではないでしょうか。
この調教師に話を聞きにいくものなら、

「うるさい」

と一喝されること100%でした。

ある日の午後、厩舎に新聞を届けに行ったのですが、いきなりギロリと睨まれました。
出てきた言葉も凄かった。

「こら、何しにきたんだ。すぐに出て行け!」

理不尽なことをおっしゃる。
私は少々ムッとして、

「頼まれた新聞を持ってきたんです」

すると、

「そんなもんいらん。早よ出て行け。出て行かないと不法侵入で訴えるぞ」

取りつくシマもないほどケチョンケチョンに怒鳴られました。
完全にお手上げ状態です。
念のために断っておきますが、私はむろん泥棒ではありません。

とにかく、当時のM師は怖かった。
若いトラックマンにとっては近くにも寄れず、M師を見ると出来るだけ目に付かないところに隠れるようにしていました。
昭和40年代の調教師はこんな人がごろごろおり、今のようにマスコミ慣れして何でも話してくれる人はごく一握りの人のみ。
そんな中で取材して特ダネを拾って来るのですから、これはもう苦行に等しい。
本当に大変でした。



同時代に、怖いのですが、同じ調教師でも豪快で大変面白い方もおられました。

同じく東京競馬場所属で、ハイセイコーを管理していたS師がその人です。

そのS師にまつわる話。
Y調教師に取材にいったときのことです。
取材に対して、

「うるさい。そんなこと知るか。馬に聞け」

と怒鳴られたので、普段から積み重なっていた怒りが爆発して、Y師の談話として紙面に

「馬に聞け」

そのまま載せました。
これを読んだ競馬ファンが怒り、

「馬に聞けとは何事だ」

と、夜中にもかかわらずY師宅に抗議の電話が殺到したそうです。
対応に追われ疲れ果て、私に対する怒りがピークとなったのは言うまでもありません。

怒り心頭のY師は、翌朝天狗山に私を呼びつけ、

「バカヤロー。そのまま載せるとは何事だ。お前のおかげで追お迷惑した。お前のところは取材拒否だ」

更にこっぴどく怒鳴られました。
これを隣で聞いていたS師が、

「バカヤロー。新聞社に取材されたら、詳しく教えてやるのが調教師の務めなんだ。取材拒否とは何事だ。お前のほうが、天狗山に出入り禁止だ!」

とY師に向かって一喝してくれました。
私は溜飲を下げる思いでした。



これ以後S師にかわいがってもらい、時々厩舎にお邪魔するようになりました。

ある日、新規の馬主さんから電話があって、最初はニコニコと話をしていました。
が、突然S師の顔色が変わり、

「厩舎は病院じゃないんだ。そんなに毎日電話されても容態が変わるわけないだろ。そんなに馬の状況が知りたかったら馬に聞け」

と完全にキレて顔色も変わっていました。
そのとき私は、調教師は頭に来ると「馬に聞け」と言うモノなんだなと思いました。

どうやらそばで聞いていると、相手もさるもの。
S師の向こうを張って、

「何という言い方だ。馬主に向かって。これからそっちに行って話をつけてやる」

そんなことを言われたと後日聞きましたが、なんとS師は更に引かず、

「上等じゃないか。望むところだ。キッパリ話をつけて貰おうじゃないか。厩舎は同じような建物が並んでいるから間違えるなよ」

そう付け加えてやったと大見得を切っていました。

後日S師に結末を聞いたところ、その馬主さんは来なかったそうです。
いやはや物凄いやりとりでしたが、長いTM生活でも初めての経験でした。

もう30年以上前の話ですが、馬主のご機嫌伺いに終始している今の調教師とは違い、毅然とした任侠道を地で行く調教師がいたわけです。

今思えば、おっかないながら、人間味に溢れており、今の調教師とは一味もふた味も違い、厩舎通いも刺激があったものです。

草食だ肉食だと人間を分けたがる昨今ですが、あの時代はさしずめそれどころでなく百鬼夜行?
それくらいに物凄い個性の集団でした。
考えてみれば勝負事で生きる人々なのですから、いつもニコニコしているほうがヘンですよね。
あの時代が全て良いとは言いませんが、しかし、勝負の世界に身を置いている人間はあれくらいでいい。
そんなふうに思います。

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