さて、今回は僕自身もロレンツォとして出演させて頂きますが、楽譜を見て行くと実はロレンツォとカペッリオは、いわゆる、ベッリーニの美しいメロディを持っていないことに気づきます。
逆に言うと、このオペラの中で「音楽」を持っているのは、ロメオ、ジュリエッタ、そしてテバルドです。
前回も書きましたが、このオペラでは、冒頭にロメオが和平協定を提案するにも拘らず、カペッリオの、肉親を殺されたというほぼ個人的な恨みによって戦争は継続されます。

しかし、オペラの終盤を見れば、ジュリエッタの死(実際には仮死ですが)に直面したロメオとテバルドは、決闘中にも拘らずお互いに相手を殺すことを止めます。テバルドはジュリエッタの死は自分の責任だと嘆き、ロメオは絶望し、自らの死を選びます。

戦争を止めるには、恨みの連鎖を断ち切らなければならない。カペッリオは過去に殺された肉親の恨みから新たな戦いに発展させてしまうのに対して、ロメオとテバルドは違う。ここが、ベッリーニがこのふたりに音楽を持たせた(音楽のある人物にした)、反戦に向けての表現だったのかも知れません。
テバルドには、前回のカヴァレリアでトゥリッドゥの痺れる哀愁を歌いきった青柳素晴と、ピュアで繊細な表現、また躊躇いなく弾ける瞬発力を待つ布施雅也にお願いしました。

そして同じように音楽を持たないロレンツォ。ロレンツォは真ん中に立ちながら、あまりに無力です。理屈や正論が何の役にも立たないことを身を持って表しています。
1幕フィナーレで、合唱(兵士達)を含めた全てが闘いへと引きずり込まれ、イタリア中が恐怖に震えるのだと歌う中で、たった一人だけ「pietà !」と歌っているのですが、これは絶対に客席には聞こえないでしょう。しかし、敢えてひとり歌わせているのです。
そんなロレンツォは、深く美しい音色を持つ、藪内俊弥が歌います。深い音楽性を持っている藪内が、音楽を持たないロレンツォを表現するという、滲み出るであろう葛藤と哀愁は楽しみです。僕も頑張りたいと思います。

是非、当日足を運んで頂けたら幸いです。

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