チェックのシャツとおばあちゃん 第三話 : 発見(短編小説 ) | Kataoka Yukihiko 心の赴くまま「 Ring the Liberty Bell 」
第三話 発見

これで終わりです。

………………………

気がつくと身体が宙に浮いていた。しかも見たことのない街に浮かんでいた。

近くに人がいたので話しかけようとした。

「すみませ~ん、ここはどこですか~。」

どうやら私の声は聞こえないみたいだ。その後も行き来する人に話しかけてみたが、同じだった。

どうなってんだ…途方に暮れていると、向こうに見たことのある人を見かけた。さっきのおばちゃんとそのご主人だ。

でも二人共とても若い。

「タイムスリップ…まさか…」

未だ受け入れられないが、知らないうちにそうなってしまったらしい。

そこに落ちていた新聞を見ると、「昭和35年6月30日」。

とにかくおばちゃんの所へ行こう。

家では、涙にくれるおばちゃんの姿があった。横で慰めるおじいちゃん。さっき言っていた子どもが亡くなった時の話のようだ。

それからおじいちゃんは、これまでにも増して働き始めた。

仲間とこれからのトレンドについて、連日遅くまで語り合うこともあった。

チェック柄とターコイズブルーの色は、まだあまり日本で紹介されていない時代に、「これから絶対はやる!」と商品を出し続けた。

チェック柄が売れ始めて、毎晩遅くまで仕事をしていて、そのまま寝てしまうこともあった。

おばあちゃんは、そんなおじいちゃんが大好きで影から支え続けた。

有名アパレルメーカーが、おじいちゃんをスカウトしに来たが、「俺こはこの店で自分でやるのが、性に合っとる。」と断り続けた。

また近所の子ども神輿の時には、子ども達全員のハッピを無料で作ってあげたこともあった。

店の前で倒れていた浮浪者に、端切れで作った洋服をプレゼントすることもあった。実はそれが若い頃に家出して行方知れずになっていた実の兄だった。それは随分後になって分かったことらしいが。

たまには温泉でゆっくりと、おばあちゃんと旅行に行っても、温泉場に来る人の服装を見てはどこのデザインか、コーディネートはどうするか、そんな話ばかりしていたそうだ。

そんなおじいちゃんのハードな仕事ぶりに休止付を打つ時が来た。

あのチェックのシャツを仕上げて余韻に浸っているとき、急に胸を抑えて倒れた。

最期の言葉は、

「かおる…」

(おばあちゃんは、かおるさんだったんだ)

「色々と面倒かけてすまなかったな。お前と一緒でとても良い人生だったよ…あのチェックのシャツ、良い人に来てもらえるといいね…」

というおじいさんの言葉を聞くやいなや、今度もすごい風が吹いてきて、また空に吸い込まれてしまった。

…………………………

気がつくと、あのおばちゃんの店の前だった。

でも少し様子が違う。店を構えている様子がない。

「すみません。先週来た時にここに洋品店があったはずなんですが…」

通りがかりの子ども連れのおばさんに聞いてみた。

「この店ねぇ、今はやってないわね。確か空き家になってるはずよ。もう1年前になるかしら、それまでおばあさんが一人でやってたんだけどね、病気で亡くなったのよ。とても上品で優しくて、感じのいい人だったんだけどね。お知り合い?」

「あぁ、いえ、そう言う訳では…」

「そう、じゃぁ行くね。待ちなさ~い、走っちゃダメだって。」

気がつくと、黒猫もそのおばさんの後を追っていた。少しだけこっちを振り向くと、また走り去っていった。

不思議な気持ちだった。夢を見ていたのだろうか…。

私はまだ人生の途上であるが、何が大事か少しだけわかったような気がした。

…………………………

最後まで読んでくださってありがとうございました。

また時間があったら、立ち寄ってください。
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