チェックのシャツとおばあちゃん : 第一話(短編小説) | Kataoka Yukihiko 心の赴くまま「 Ring the Liberty Bell 」
全三話です。
時間があったら、読んでいってください。

第一話 出会い

休日だというのに、会社主催の営業研修会に参加させられた。

外部の講師が来て話をしてくれるのはいいが、「仕事に対する目的を持て。それが柱になって営業マンとして成長できる」っ言われてもな。まだ29歳だし。もっと売れるようにするにはどうするか、ってテーマでやって欲しかったな。

気晴らしに、最近買ったターコイズブルーのパンツに合うシャツを探しに行くか。

そう気を取り直して、駅に向かってブラブラしていたら、ガラス越しに目に飛び込んできたチェックのシャツ。これといった特徴はなかったが、何故か吸い寄せられるように店に入った。

そこは神田の戦後からずっとやってます、という風情を思いっきり出した小さなお店だった。

店には誰も居なさそう。

「すみませーん!」

すると奥から「ハ~イ!」と頭のてっぺんから声を出すおばちゃん登場。

1万円しかなかったのでお釣りをもらおうと、おもむろにお金を差し出した。

「3000円ですよね。消費税込みですか。ではこれでお願いします。」

と私がお金を出すと、

「ごめんなさい。お釣りないのよ。いいわよ今度で。そのシャツ持って帰って。また来るでしょ。」

(どういうこと?だだ?まさか…)

(また来るときって、もう来なかったらどうするの?)

「それはまずいです…」

私の言葉を遮るように、

「ホントに良いのよ。その代わり今度来るときは、そのシャツとそのシャツに合うパンツで来てね。」

と言い終わるやいなや、店の奥に戻ってしまった。

おばちゃんの勢いに押され、仕方なく私は渡された袋を片手に店を出た。

「神田って言っても来る予定ないしな…しようがないから、今度の土曜日にちょっと寄ってみるか…」

なんとも不思議な気分でその店を後にした。

…………………………

第二話に続く。

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