この2月、いわゆるイスラム国によって二人の日本人が殺害された。


これは、危険を承知で、しかも日本の外務省の制止を振り切ってシリアに入った二人の自己責任なのか。それとも二人の人質を取られているにも関わらず、イスラム国とたたかう周辺諸国への支援を表明した安倍首相の責任なのか。はたまた、メディアでは、ほとんど語られないのだが、危険な地域には自社の社員は決して派遣しないのだが、フリーのジャーナリストの撮影した映像を購入して放送し、危険な取材を資金面から支えている日本の大手メディアの責任なのだろうか。今回の事件の悲劇的な結末を受けて、それぞれがみずからの行動を検証すべきだろう。


政府は杉田官房副長官を長とする検証委員会を立ち上げた。しかし政府関係者による検証委員会では、心もとない。受験と採点を同じ人物がしてしまっているようなものである。これでは、公正さは保障されない。政府の行動を政府内部の人間が検証しても、結果は説得力を持たないだろう。政府から離れた民間の識者による検証でなければ、意味は薄い。


検証されるべき点は多い。


そもそも人質の解放交渉は、いかにして始められ、いかにして進められていたのか。二人の殺害を予告する映像がネットで公開される前に後藤さんの家族にはイスラム国側から連絡があったとされる。その真偽はどうだったのか。交渉は行われたのか。行われなかったのか。行われたとすれば、いかに行われたのか。行われなかったとすれば、なぜか。


首相の中東での発言次第では、二人の生命に危険が及ぶとの懸念が政府内部にあったのかどうか。そして、その懸念が首相に共有されていたのか。さらに、在シリアに日本大使館を2012年3月に閉館したのだが、その決断の是非についても議論があってしかるべきだろう。この大使館が活動していれば、今回の事件においての情報収集活動を助けたであろうと想像されるからである。


>>次回 につづく


『まなぶ』(2015年3月号)42~43ページに掲載された連続エッセイです。



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