出版元の了承を得て以下の拙文をアップします。

「キャラバンサライ(第169回)NYの新市長マムダニとトランプ大統領」、『まなぶ』、2026年1月号、38~39ページ

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新年1日にゾーラン・マムダニがニューヨーク市長に就任した。昨年11月4日の選挙で当選したマムダニは、同月21日にホワイトハウスに招かれてトランプ大統領と会談した。会談後の記者会見で2人は、ニューヨーク市民のために手を携えてがんばるという和解のメッセージを出した。

 

それまでは、マムダニがトランプを「ファシスト」と呼べば、トランプはマムダニを「共産主義者」と形容するなど、激しい言葉を浴びせあっていた。なおトランプの世界観というかアメリカ人の一般的な認識では、社会主義は悪であり、共産主義は極悪だった。ただ、民主社会主義者を自称するマムダニの市長当選で、こうした言葉に対するアメリカ人の感性も変わってきたことが示されたのだが……。いずれにしろ、罵りあっていた2人だけに、この会見は驚きをもって迎えられた。

 

この2人には共通点が多い。トランプが大統領に立候補したさいには、だれも本気にしなかった。トランプではなくジョーカーだと思われていた。しかし、トランプは2度も大統領選挙で勝利を収め、笑った人々を笑い返した。マムダニも市長選挙に立候補したさいには、だれにも知られていない存在だった。支持率1パーセントから始めて最後には市長選挙を制した。

 

成功の要因も類似している。トランプは、2016年の大統領選ではグローバル化に取り残された層に訴えた。そして2024年には物価高を争点に相手候補を攻撃した。マムダニも、庶民が生活できるニューヨーク市を取り戻すと訴えた。そして物価高で苦しむ市民のための政治を掲げた。2人とも既存の新聞やテレビからは、当初は冷たく扱われた。だが、SNSを使って巧みに有権者の心をつかんだ。

 

21日の会談後の記者会見で興味を引いたのが、トランプのフランクリン・ルーズヴェルト大統領の肖像画に関する言及だった。最近、行方がわからなくなったのを見つけ出してホワイトハウスに展示していると発言した。そして、その前で2人が並ぶ写真をトランプはネットにアップした。

 

さて、歴代のニューヨーク市長で最も高く評価されている人物がいる。1930年代から40年代にかけての市長のフィオレロ・ラガーディアだ。

 

この市長は共和党だった。そして当時のアメリカ大統領は民主党のルーズベルトだった。しかし、この2人は党派を超えた協力関係を築いた。それもあって、30年代の大不況期のニューヨーク市で連邦政府の予算で多くの公共事業が行われた。その一つがラガーディア空港の建設だった。そうした公共事業がニューヨーク市での景気の回復に貢献した。トランプは、当時の市長と大統領の協力関係を意識していたのだろうか。この男は見かけよりも歴史を知っているようだ。

 

それもそのはずだ。下品で無教養なイメージとは違い、トランプは、それなりの教育を受けている。トランプはペンシルバニア大学で学んだ。アイヴィー・スクールと呼ばれる東部の伝統のある私立大学のグループの一角を占める大学だ。

マムダニもボウドゥンという私立大学の卒業生だ。教育レベルの高さで知られる大学だ。この点に関しては先月号で説明した。二人は、エリート大学で教育を受けたという点で似ている。

 

話を、ラガーディアに戻そう。過去の最も偉大なニューヨーク市長とされるラガーディアと新市長のマムダニの間には、党派を超えて時の大統領と協力しようとする姿勢が共通している。

 

そして、それ以外にも共通点がある。それは2人とも幾つもの言葉を操る点だ。ラガーディアはイタリア語、クロアチア語、フランス語、ドイツ語、それにヨーロッパのユダヤ人の間の言語のイーディッシュを話せた。マムダニも選挙ではスペイン語、アラビア語、ヒンディー語などの動画をSNSにあげて英語のおぼつかない層に訴えた。

 

じつは、ラガーディアには、移民の受け入れ施設のあったエリス島で通訳として働いた経験があった。自由の女神の島の隣の島だ。その後に弁護士として移民のために働いた。そして市長に立候補し、既存の大物政治家たちを倒して当選した。この点もマムダニと似ている。マムダニも選挙後の勝利演説で、「ニューヨークは移民が造った都市だ。そして、これからは移民が指導する」と、みずからに言及しながら高らかに宣言した。そのマムダニは、市長になるまではニューヨーク州議会の議員だった。その選挙区にラガーディア空港がある。不思議な偶然だ。

 

-了-