イラン

 

その上、4月にイスラエルとイランのミサイル攻撃の応酬に関しても、イランを支持する立場をとった。これは、産油国との関係を強化するという政策の反映だろう。また、この事件の直接のきっかけが、中国にとっては看過できかったのだろうか。

 

というのは、4月1日にイスラエル空軍がシリアの首都ダマスカスのイラン大使館を爆撃しイラン市民が犠牲になったからだ。外交施設は国際法によって保護されている。それを爆撃するというのは、とんでもない国際法と国際秩序に対する挑戦である。それだけでも中国がイランを支持するには十分な根拠である。

 

同時に大使館の爆撃という途方もない国際法違反の犠牲になった経験が、中国にはあるからだ。1999年5月、当時まだ存在したユーゴスラビアという国の首都ベオグラードの中国大使館がアメリカ空軍によって爆撃され30名近い死者が出た。アメリカは、これを誤爆として謝罪したが、当時は旧ユーゴスラビアの内戦において米中が対立していたという背景もあり、中国側は誤爆を装った意図的な攻撃ではないかとの疑いを抱いた。ハイテクで知られたアメリカ空軍が大使館を誤爆するだろうかという疑問は、あって当然だろう。ちょうど2024年5月は、その「誤爆」の25周年にあたる。その記念の月の1か月前のイスラエルのイラン大使館爆撃である。しかも、誤爆の振りさえしない意図的な攻撃である。中国としては、絶対にイランの報復の権利を擁護したかったろう。

 

重力

 

いずれにしろ、こうした最近の中国の姿勢に、イスラエルは不快感を示している。昨年10月末には、中国のイスラム教徒の多い新疆ウイグル地区で人道に対する罪が進行しているとの声明に、多くの国々と共にイスラエルは名を連ねた。

 

また今年4月には議員団が台湾を訪れて当時の蔡英文総統と面談している。イスラム教徒と台湾の問題、いずれも中国の嫌がる点を突いた格好だ。

 

おそらく中国とイスラエルの関係を見極めるヒントは、前に紹介したハイファのコンテナ・ターミナルの将来だろうか。この戦略的な港湾に中国資本が入ることに、アメリカは反対してきた。というのは、この港にはアメリカ艦隊も寄港するので、その軍事機密が守れないのではないかと懸念しているからだ。

 

イスラエルが中国のハイファへの資本参加を許容し続けるのか、それともアメリカの意向に配慮するのか注目される。

 

北京政権の成立が1949年だったが、その翌年にイスラエルは承認している。その後も中国との関係を維持してきた。しかし、中国がパレスチナ人寄りでイラン寄りの旗色を鮮明にするようになって、このイスラエルと中国の関係にも緊張が走るようになった。中東で全ての勢力と良好な関係を維持するという中国のアクロバット外交の終わりが見えてきた。中国の中東外交にも、やっと重力が効き始めたようだ。

 

-了-

少し前に書いた文書ですが、ハリス副大統領に注目が集まっていますので、ご参考までに出版元の承諾を得てアップします。

 

「日本のうしお 世界のうしお/カマラ・ハリス バイデンをよろめかせた女性」、

『まなぶ』2020年10月号、36~40ページ

 

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民主党の副大統領候補

 

今年11月3日に行われるアメリカ大統領選挙の民主党の副大統領候補が決まりました。ジョー・バイデンがカマラ・ハリスを指名したのです。バイデンは、もちろん民主党の大統領候補です。春の段階で予備選挙を勝ち抜き民主党の大統領候補指名を確実にしました。その民主党の副大統領候補がだれになるのか。注目が集まっていました。8月11日、バイデンがハリスを指名して憶測に終止符を打ったのです。

 

ハリスの指名でバイデンが示したのは懐の深さでした。というのは民主党の大統領候補者の指名を争う予備選挙の討論会でハリスがバイデンをよろめかせているからです。それは昨年6月でのテレビ討論会でした。この段階では民主党の立候補者は20人を超えていました。1度に10人ずつのテレビ討論会が2夜にかけて行われましたが、一人ひとりに割り振られる時間が短いので、なかなか議論が深まりません。この制限の中で視聴者に強い印象を与えるのは容易ではありません。本命は、もちろん前副大統領のバイデンです。この男を倒さねば、他の候補には道は開けません。そうした状況で最も成功したのはハリスでした。バイデンの人種問題に関する過去の言動を叩いたのです。

 

1960年代から、アメリカでは貧しい地区と豊かな地区の子どもたちを同じ学校で学ばせるための努力が行われてきました。バスで双方の一部の生徒を他の地域の学校に通学させるのです。早い話、黒人の子どもを白人の学校に送り込んだのです。バイデンは、これに反対した過去があったのです。ハリスは、自分もこのバス通学を経験していると、みずからの体験にひきつけてそれを批判しました。ハリスの父親はジャマイカ系で、母親はインド系です。両親は黒人の投票権を求めるデモで出会っています。ハリスが生まれてからは、乳母車に乗せてデモに参加しつづけたといいます。ハリスは黒人の大学として知られるハワード大学進学しています。

 

ハリスの批判に、バイデンは十分な反論ができませんでした。つまずいたのです。バイデン指名獲得が当然視されていた雰囲気が一変しました。バイデンのよろめきが、先行きを不透明にしたのです。バイデンは1970年代から半世紀も政治の道を歩んできました。その長いキャリアをつつけば、いろいろとホコリも出てきます。そこをハリスは突いたのでした。

 

その後、バイデンは立ち直り、民主党の指名を確実にします。ハリスは予備選から撤退しました。バイデン陣営にとってはヒヤリとした場面でした。それゆえ、バイデン周辺にはハリスの指名に消極的な意見もあったと伝えられます。しかし、それでもバイデンはハリスを指名しました。度量の広さを示したのです。ちょうどオバマが、民主党の大統領候補者指名を争ったバイデンを副大統領に、そしてヒラリー・クリントンを国務長官に指名したように。

 

ハリスを形容すべき言葉はたくさんあります。

 

第一は、有力政党の最初の有色人種の副大統領候補でしょうか。有色人種の最初の大統領は、もちろんバラク・オバマです。有色人種の副大統領はまだいません。女性の副大統領候補はいましたが、実際に副大統領に就任した女性はいません。もちろん女性の大統領もいません。一番、大統領の座に近づいた女性は2016年の民主党の大統領候補だったヒラリーでした。だが、ドナルド・トランプに敗れました。

 

アメリカの二大政党の、つまり民主党と共和党の副大統領候補者指名を受けた女性には、84年の民主党のウォルター・モンデール大統領候補に指名されたジェラルディン・フェラーロがいます。ニューヨーク州選出の下院議員でした。そして08年の共和党の大統領候補だったジョン・マケインが副大統領候補に指名したサラ・ペイリンもいます。アラスカ州の知事でした。いずれも不利な状況にあった大統領候補が、追い詰められて形勢逆転をねらい、女性を副大統領候補に指名したのです。

いずれも形勢はくつがえらず、敗北しました。そして2人とも、結局は副大統領候補に足を引っ張られた格好となりました。フェラーロの場合、本人と夫の税申告の不透明さを指摘されました。ペイリンの場合は、外交面での知識の貧弱さが問題となりました。

 

しかし今回は違います。8月下旬の世論調査では、バイデン候補が現職のトランプ大統領を2ケタ近くの差をつけてリードしています。最初の女性の副大統領候補が副大統領になる可能性が日増しに濃くなっているのです。しかも、ハリスがバイデンの足を引っ張る可能性はほとんどありません。フェラーロにしろ、ペイリンにしろ、女性候補を指名しようということで、急いで選ばれました。十分な事前調査が省かれていたのです。日本の政治の言葉でいうところの「身体検査」が不十分でした。結果は前にも触れたフェラーロの税金疑惑でした。またペイリンは無知を露呈しました。ところが今回のハリスはカリフォルニア州の司法長官を経験しています。そして同州選出の上院議員です。さらに民主党の大統領候補者指名にまで立候補しています。その背景は、すでにマスコミやライバル陣営が徹底的に洗っています。しかもバイデンが春から夏にかけて時間を掛けて選んだ候補者です。スキャンダル的には「安全パイ」なのです。

 

そればかりか、バイデン陣営にとってハリスは金のなる木のような存在かも知れません。ハリスを指名して以降、48時間で5千万ドルの寄付がバイデン陣営に流れ込みました。バイデンが昨年1年間で集めた金額が6千万ドルですから、その規模の大きさがわかります。たった2日で、昨年の365日分に匹敵する資金を集めた計算です。資金面での劣勢が伝えられていたバイデンにはありがたい副大統領候補です。

 

インド系で、ジャマイカ系で、ユダヤ系

 

バイデンがハリスに期待しているのは、集金ばかりではなく集票も、です。ハリスはインド系でジャマイカ系です。インド系とジャマイカ系の両方の人々からの支持が期待されます。インド系の人々の存在感はカリフォルニア州のシリコン・バレーなどでとくに強く感じられます。ハイテク産業の技術者として、あるいはベンチャー起業家として、そして往々にして同時に、その両方として活躍するインド系移民はたくさんいます。

 

ハリスがカリフォルニア州選出の上院議員であるという理由の一部は、おそらくインド系だからでしょう。その前はハリスはこの州の司法長官でした。ちょうどその頃、バイデンの息子のボーがデラウェア州の司法長官だったので、同じ職にある者として2人は親しかった、とハリスは回顧しています。バイデン一族とハリスの関係は、見かけよりも長いようです。ボーは、その後に死亡しています。

小見出しにユダヤ系と書きましたが、ハリスはユダヤ系ではありません。しかし、夫がユダヤ系です。そもそもバイデン自身はカトリック教徒ながらユダヤ系の人々の支持を得ています。これで、ユダヤ系の人々の支持はさらに固まるでしょう。

 

初の女性大統領へ

 

ハリスという副大統領候補に関して重要なのは、大統領になる可能性が非常に高いという点です。しかも近い将来にです。第2次世界大戦中の1942年生まれのバイデンはすでに78歳。もし当選すればアメリカ史上最高齢の大統領となります。激職を全うできるだろうかという懸念があります。となれば、50代半ばのハリスは、お飾りではない本当に大統領を補佐する副大統領になるでしょう。ハリスは東京五輪のあった1964年生まれです。任期中にバイデンになにがあるかわかりません。仮定に仮定を重ねると、バイデンが2期目を望むかどうかも不確定です。ハリス大統領の早めの誕生の可能性が強いのです。女性であり、有色人種という以外に、このカマラ・ハリスという人物が注目される理由です。

 

-了-

 

 

 

アクロバット

 

中国の中東外交を見ていると、上海雑技団を思い出す。それほどのアクロバット的な離れ業を続けてきていた。北京政府は、中東においては全方位外交を展開し、皆に良い顔をしようとしてきた。これは、どこの政府でも望むことなのだが、なかなか難しい。というのは、中東諸国の間で様々な対立があるからだ。にもかかわらず、中国は八方美人的な外交を続けてきた。

 

たとえばサウジアラビアとイランの両国との関係維持である。中国にとっては両国ともにエネルギーの供給国として重要である。とろこが、この両国は関係が悪かった。にもかかわらず、両国と中国は友好関係を維持した。

 

そのイランと激しく対立するのがイスラエルである。しかし、中国は、このイスラエルとも密接な関係を保ってきた。イスラエルからハイテク技術を導入し、またイスラエルの経済インフラに多額の投資を行ってきた。たとえばイスラエル北部の海岸にあるハイファ市の港湾のコンテナ・ターミナルの建設に関与している。

 

そして中国とパレスチナ人の関係も悪くない。そのパレスチナ暫定自治政府は、イスラエルの実質上の占領下にあるヨルダン川西岸地区の一部を支配するのみである。自治政府は、エルサレムに首都を置くことを夢見ている。しかし現実にはエルサレムはイスラエルの占領下にあるので、実際には、この暫定自治政府の首都機能は、西岸のラマラという都市に置かれている。このラマラに自治政府の外務省を訪問して経験がある。外務省のビルがピッカピッカの新築だったのに驚いた。どこから、そのような資金が来たのかと尋ねると、中国が建築してくれたという。かつて日本がODAで被援助国の外交に影響力を行使しているとの批判は聞いた経験があるが、外務省の建物そのものを援助で建ててあげるという中国の外交は異次元である。

 

しかも対立している勢力の全てと付き合うという以上にすごかったのが、昨年春のイランとサウジアラビアの外交関係再開の合意である。この両国は、関係の悪化から双方の外交施設を閉鎖していた。この合意の仲介をしたのが中国だった。もちろん両者の側に、相互の関係を改善したいという決断があり、中国が調停で後押ししたに過ぎない。それにしても、それまで敵対していた両国に対話の場面を提供した中国外交は称賛に価するだう。中吊りのロープの上で宙返りをするような離れ業である。中国外交には重力が効いていないかのように軽々と難易度の高い大技を決めた。

 

ガザ

 

しかし、全ての関係者と同時に良好な関係を維持するとう中東における中国のアクロバット外交も、そろそろ終わりが見えてきた。きっかけは、ガザでの戦争である。この戦争に関して、中国はイスラエルを批判して、グローバル・サウスの一員として立場を鮮明にしている。つまり、比較的にイスラエルの立場に同情的な欧米の先進工業諸国ではなく、発展途上諸国の大半と同じ側に立っている。

 

中国は、まずハマスの奇襲を非難していない。そしてパレスチナ人の抵抗権と民族自決権を認める立場を鮮明にした。つまりパレスチナ国家の樹立を支持している。また今年4月にはハマスの代表団の訪問を受け入れている。さらに中国のSNSでは、反ユダヤ的な投稿が目立つようになった。インターネットは政府が支配していると見られているだけに、この現象の背後には中国政府の少なくとも黙認があると見られている。

 

>次回に続く