こないだマーニ・ニクソンのトリビアネタを書きましたが、マーニ・ニクソンが遂に顔出しした「サウンドオブミュージック」自体が実はトリビア満載で面白いので書いてみます。
サウンドオブミュージックは「フォン・トラップ ファミリー 合唱団」という実在の存在をモデルにしていますが、ストーリーはほぼほぼフィクションです。しかも、フィクションよりファクト(事実)の方が面白かったりするという、珍しい作品です。
「フォン・トラップ ファミリー 合唱団」は国外脱出後、アメリカにたどり着いて活躍しますが、そこは「サウンドオブミュージック」でも描かれていないので省きます。
1)「サウンドオブミュージック」のファクトの部分
①マリアがフォン・トラップ家に家庭教師として入り、まず子供と仲良くなって、そのうち父親のフォン・トラップ少佐も恋愛関係になり結婚する。(ミュージカルでは大佐だけど)
②フォン・トラップ家の子供達を中心にファミリー合唱団を結成する。
③フォン・トラップ家はオーストリアに居辛くなって国外脱出する。
2)「サウンドオブミュージック」がファクトと異なる部分
①フォン・トラップ少佐は音楽好きで、元から子供達と歌を歌っていたりして楽しんでいたような朗らかなヒトだったら、あんな厳格で傲慢不遜で人物ではなかった。
②マリアは修道院には一旦入ったものの、この時点ではもう出ている。だから修道院からトラップ家に行った訳では無い(なので修道院に逃げ帰ると言うことも無かった)
③トラップ家は、知人の銀行に全財産を入れてしまったが、その銀行が恐慌で倒産してしまい、トラップ家は破産してしまう。
この時お父さんがすっかり意気消沈してしまったのをマリアが励まして、貴族のプライドを捨てて、家計をやりくりするようになる。マリアは結構逞しい生活力のあるしっかり者だったのだ。
④トラップ家は生計を立てるため、家の空き部屋を修道士の寄宿舎にして家賃稼ぎを始める。
⑤その寄宿舎に音楽に詳しい神父さんがおり、その神父さんが子供達に音楽の才能を見いだし、基礎からトレーニングする。こうして、神父さんの力で「」が結成される。だからこの当時は聖歌だけを歌っていた。
なので、「ドレミの歌」も「マイ・フェイバリット・シングス」も実は歌われてないのであった。でも「マイ・フェイバリット・シングス」は人生で2番目に好きなスタンダードだし(一番は「バードランドの子守唄」)、名曲が幾多生まれた事(いちいち挙げないけどアレもコレも名曲)は人類文化への貢献度大だと思う。
しかし、名曲が幾多生まれた事(いちいち挙げないけどアレもコレも名曲)は人類文化への貢献度大だと思う。
⑥「トラップファミリー聖歌隊」は神父さんに率いられてヨーロッパ中を回って歌声を披露し、ギャラを稼いで家計の足しにしていた。
⑦オーストリア脱出を決意した理由。
「サウンドオブミュージック」ではいきなりお父さんに召集令状が来ちゃったからになっるが、実はそうではない。
お父さんがドイツ嫌いだったのは確からしく、ドイツからの様々な要求(ヒトラーの前で歌わせろとか)を断り続け、流石にそろそろヤバいかなと思い始めて国外脱出を決意する。
あと、トラップ家の執事がナチ党員で、トラップ家の内情等を密告したりしていたけど、国外脱出時には協力してくれた。
等々。
と、ファクトと違う部分の方が多くて、まあフィクションなのです。
しかもファクトの方がドラマチックで面白く、物語として説得力があったりするのです。
総じて言うと、お父さんの方が実はいい人で、トラップ一家が破産して、その結果として神父さんが「聖歌隊」を組織してトレーニングしてプロデュースもした、と言う部分(特に神父さんの存在が重要な所)が改変されたり省かれているのが大きいです。で、そのあたりの美味しい部分が全部マリアに集約されたのです。
あと、ドイツとオーストリアの政治状況(オーストリア併合)とトラップ少佐の立ち位置が史実と違うらしく、そのためドイツ・オーストリアでは「サウンドオブミュージック」は上演・上映されないそうです。この辺は難しくて私にも良く判りません。大衆がオーストリア併合を歓迎していた事、
フォン・トラップ少佐はナチとある意味同類のオーストリア・ファシズム支持者で反ナチの自由主義者という訳ではなかった事とか、そんな理由らしいです。
そんな訳で、「サウンドオブミュージック」は本物のマリア・フォン・トラップの自叙伝を原作とはしていますが、ミュージカル化されるに当たってフィクション化されました。この時まだ存命だった本物のマリア・フォン・トラップはフィクション化には寛容だったけど、一つだけ「お父さんはこんな人じゃ無いからソコだけは止めて下さい」と言っていたけど聞いて貰えなかったって。
子供達のまとめ役もマリアと言うより実はお父さんだったみたいです。現にお父さんが亡くなった途端に合唱団は解散してしまいます。
フォン・トラップ少佐は、実際、軍服が博物館に陳列されるほど、第一次大戦の英雄だったとのこと。
あと、言っておきたいのは、バロネス(エルザ・シュレーダー:男爵夫人)の存在。バロネスは憎まれ役として創作された架空の人物ですが、憎まれ役だからイジワルな言動をするけど、言っちゃうとプレイボーイのお父さんに遊ばれた挙げ句棄てられてちゃう訳だから、可哀想すぎます。フェミニズム的な観点からもこんな憎まれ役を作っちゃうのはどうかと思う。逆にお父さんが自分勝手なプレイボーイみたいに見えちゃいます。
そういうのもあってだと思いますが、フォン・トラップ少佐の直接の知人は「あの映画は少佐をコケにしている」と激怒したとのこと。だから、「サウンドオブミュージック」のフォン・トラップ大佐は、ホントはあんなお父さんじゃ無かった、らしいす(もやサマ風)。
-*-
と、言う訳で「サウンドオブミュージック」は、
・ミュージカルや映画を観て一旦感動できて、
・事実はどうなんだろうと思って調べると、実は事実の方がより一層面白かったと、
一粒で二度楽しめる作品なのでありました。
以下は人生で2番目に好きなスタンダードの「マイ・フェイバリット・シングス」です。(一番は「バードランドの子守唄」←もういい)