生命倫理について | 高橋翻訳事務所スタッフリレーブログ

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こんにちは。高橋翻訳事務所(http://goo.gl/25cZv)医学翻訳・薬事申請翻訳担当 Y.O.と申します。

医学・薬事申請翻訳京都大学の山中伸弥教授がノーベル医学・生理学賞を受賞されたという喜ばしいニュースに日本中が沸いています。

このiPS細胞(induced pluripotent stem cells)研究の伸展は、まだ解明しきれていない病気のメカニズムの解明や治療法の開発に大きな貢献をすることが期待されます。とりわけ人々の関心が高いのは、培養して人体に移植する臨床応用(clinical application)だと思います。

臨床応用にあたっては、前臨床試験(preclinical study)を重ね、人体への使用が倫理的であると判断するに足る安全性と有効性を確認した上で、最終的に臨床試験(clinical study)を実施して、人体における安全性(safety)と有効性(efficacy)を確認する必要があります。十分な安全性と有効性が確認できたら、これらの試験で得られたデータを基に、製造販売承認申請などの手続きを行います。種々の審査を経て承認を受けた後、iPS細胞を使った治療に医療保険が適用されるようにするための保険適用申請を行うことになります。再生医療(regenerative medicine)には国も力を入れているため、一般の医薬品や医療機器より優先的に審査が進められることも考えられますが、臨床応用を待ちわびている方にとっては長い道程です。一日も早く、iPS細胞を用いた安全で有効な技術の恩恵に与かれる日が来ることを願っています。

このような新たな研究・技術による医療の高度化に伴い、私達が考えなければならない問題も生じてきます。その一つは、「生命倫理」(bioethics)です。耳慣れない言葉かもしれませんが、「bio」は「biology」(生物学)や「biodiversity」(生物多様性)などに含まれていることから分かるように「生物/生命」を意味し、「ethics」は「倫理」で、文字通り「生命に関する倫理」です。人の「生」(birth)と「死」(death)に医療がどう関わるべきかについての考え方で、尊厳死(death with dignity)や安楽死(euthanasia)、脳死(brain death)、終末期医療(end-of-life care)、人工妊娠中絶(abortion)、代理母(surrogate motherhood)、遺伝子組み換え(genetic modification)など、挙げればきりがないほど多岐にわたります。

最近話題になったものでは、出生前診断(prenatal diagnosis)の問題があります。胎児の異常の有無などを調べるために行われるものですが、リスクがより大きい高齢出産が増える社会状況の中で、検査に伴う流産などのリスクが小さく精度が高い検査法によって確実な診断ができるようになることを歓迎する声がある一方、異常が判明した際に人工妊娠中絶につながることを懸念する声もあります。これは非常に難しい問題で、一般論として論じる場合と、自身が当事者になった場合とで見解が異なる人も多いかもしれません。出生前診断を受けた結果として、妊娠している方とその家族は一人の人間の「生」にかかわる大きな選択を迫られることになります。

「生」と表裏一体の問題である「死」に関しても、「胃ろう」の問題が大きく取り上げられています。胃ろうを受け始める選択をすることは比較的容易ですが、それを中止する選択をするのは死につながるため、大変難しいことです。特に患者自身で意思表明できない状態にある場合などは、やはりここでも家族が大きな選択をすることになります。

医療の進歩によってより多くの選択肢を与えられている今日、改めて「生」と「死」について考える時なのかもしれません。自身の「死」に関しては、可能な限り事前に意思表示をしておくことによって、選択を迫られる家族の負担を軽減したいと考えています。


翻訳コラム担当者紹介
医療機器メーカーで実際に申請・治験業務に携わった経験を生かし、申請・治験業務担当者がどれほど厳しい状況の中で即戦力となる翻訳を求めているかを身をもって知っている者として、当局に受け入れて頂ける完成度の高い訳文をお届けできるよう、医療分野や薬事動向に常に目を向け、現場の皆さまのお声を聞かせて頂いております。 また、大学で学んだ言語学の分析手法や翻訳・編集の会社での経験に基づき、自身の訳文が曖昧さのない、用語の整合性がとれたわかりやすいものとなっているか、批判的に多方向からのチェックを行い、最善の状態で納品させて頂くことを念頭に置いております。
株式会社高橋翻訳事務所 
医学・薬事申請翻訳看護・介護・医療翻訳  担当:Y.O.