精神分析的心理学/発達心理学:愛着と分離個体化、その4 | 高橋翻訳事務所スタッフリレーブログ

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精神分析的心理学 /発達心理学 :愛着と分離個体化、その4

(Psychoanalytic Psychology/ Developmental Psychology: Attachment and Separation-Individuation. vol. 4)


こんにちは、(株)高橋翻訳 事務所で心理学翻訳 やその他の学術論文翻訳 を担当している内野です。今回のコラムは過去3回のコラムに引き続き、愛着 (attachment) と分離個体化 (separation-individuation) についてです。英語やスペイン語で書かれた文献を中心にご紹介し、翻訳 しながら日本語でわかりやすくご説明いたします。


心理学 の授業を取ったことのある方は「その2」、「その3」でご紹介した愛着や個体分離化の話は耳に覚えがあると思います。愛着といえば子どもの経験、つまり母親や他の保護者が子どもの発達に与える子どもを中心とした研究が圧倒的に多く、母親の経験には焦点があまりあてられてきませんでした (Mendell & Turrini, 2003)。本コラムでは母親が心理的にどのような経験をするのかもお伝えします。また、愛着や個体分離化の話は子どもが小さい頃のものがほとんどですが (Uchino, 2007)、子どもが大人になる中での関係についてもお話しいたします。過去、白人を中心に研究が行われてきましたが、子どもが幼い頃の愛着 (Hardy & Laszloffy, 2000) や分離個体化 (Freeman, 1998) は文化によって異なり、子どもが家を出る頃の関係も文化による差異が見られます (Berman and Napier, 2000; Uchino, 2007)。多文化の中で愛着や個体分離化がどのように見受けられるのかをメキシコ、アメリカ、日本の文化を中心にご紹介いたします。


子どもが母親からの分離個体化 (separation-individuation) をするに従い、母親も分離し個体化する必要が出てきます。母親における分離 (separation) とは母子一体でなはく、自己を子どもとは離れた一人の人間として認識する (perceiving herself as an individual person rather than part of a symbiotic mother-child unit) ことを指します。個体化とは子どもの自律性(individuation) や独立性に慣れていく(becoming accustomed to her child’s autonomy) 過程を指します。


母親によっては子どもが個体化し独立するに従い、自分を必要としなくなることに怒りを覚えることもあり (Lax, 2003) 、その怒りは世話の放棄 (Lax, 2003) や殺意 (Bulm, 1976) にも繋がります。また、育児 (childcare) を自己管理 (self-care) より優先させ (prioritize)、子どもが育った後でも自己管理の放棄が見られることもあります (Lax, 2003)。人によっては子どもが離れていくことに怒りを覚えたり落ち込んだりし (feel angry or depressed)、子どもが死んだことを空想し(fantasize) そんなことを考えてはいけないと罪悪感 (guilt) を持ったりします (Lax, 2003)


母親は子どもの性別により愛着の仕方が違うようです。ロンドン郊外に住む労働階級 (working class) と中産階級 (middle class) の白人 (Caucasian) で既婚 (married) の母親の、24ヶ月から36ヶ月の第一子 (first born) との関係を見た研究 (McGuire, 1991) によると、娘に対して母親は批判的 (critical) で支配的 (controlling)であり、娘は母親に身体的に近く (physically close) におり、娘は母親にもっと注意を向けて欲しがっている(demand attention) という結果が出ました。反対に息子を持つ母親は息子のことを調査員に愛情たっぷりに話し (speak affectionately of their sons to the researchers)、息子は母親から身体的により距離を置いているという結果が出ました (McGuire, 1991)


Charles, Frank, Jacobson, & Grossman (2001) も同じように母と娘の関係は母と息子の関係に比べ分化しないことが多い (less differentiated) と述べています。母は娘から分離個体化するのは息子から分離個体化するより大変なようですね。


では次回のコラムをお楽しみに!


(株)高橋翻訳 事務所 心理学翻訳  学術論文翻訳 担当 内野


文献


Berman, E., & Naiper, A.Y. (2000). The midlife family: Dealing with adolescents,

young adults, and the marriage in transition. In W. C. Nichols, M. A. Pace-

Nichols, D. S. Becvar, & A. Y. Napier (Eds.) Handbook of family development

and intervention, (pp. 208-234). New York: John Wiley & Sons.


Bulm, H. (1976). Masochism, the ego ideal and the psychology of women. Journal of

American Psychoanalysis, 24(Suppl.), 157-192.


Charles, M., Frank, S. J., Jacobson, S. & Grossman, G. (2001). Repetition of the

remembered past: Patterns of separation-individuation in two generations of mothers and daughters. Journal of Psychoanalytic Psychology, 18(4), 705-728.


Freeman, D. M. A. (1998). Emotional refueling in development, mythology, and

cosmology: The Japanese separation-individuation experience. In S. Akhtar & S. Kramer (Eds.), The colors of childhood separation-individuation across cultural, racial, and ethnic differences. New Jersey: Jason Aronson.


Hardy, K. V., & Laszloffy, T. A., (2000). The development of children and families of

color: A supplemental framework. In W. C. Nicholas, M. A. Pace-Nicholas, D. S.

Becvar, & A. Y. Napier (Eds.), Handbook of family development and intervention. (pp.109-129). New York: John Wiley & Sons.


Lax, L. (2003). Motherhood is an ebb and a flow-it lasts a lifetime: The vicissitudes of

mother’s interaction with her “fantasy child”. In P. Turrini & D. Mandell (Eds.), Inner world of the mother (pp. 319- 323). Madison, CT: Psychosocial Press. 


McGuire, J. (1991). Sons and daughters. In A. Phoenix, A. Woollett, & E. Lloyed (Eds.),



Motherhood: Meanings, practices, and ideologies (pp. 143-161). SAGE.


Mendell, D., & Turrini, P. (2003). Introduction. In P. Turrini & D. Mandell (Eds.),

Inner world of the mother (pp. xiii-xvi). Madison, CT: Psychosocial Press. 


Uchino, T. (2007). The midlife mother's separation-individuation from her daughter: A

comparative qualitative study of Mexican and Japanese mothers residing in the United States. Psy.D. dissertation, Alliant International University, San Diego, United States, California. Retrieved March 26, 2010, from Dissertations & Theses: Full Text. (Publication No. AAT 3273278).