生活保護受給者から自己決定権を奪うのか! | 権力とマイノリティ

生活保護受給者から自己決定権を奪うのか!

 最後のセイフティーネットである生活保護費の削減問題が、相変わらず進行している。
 厚労省の4月1日付の通知にある生活保護受給者に対する「通院移送費(交通費)の削減」と「ジェネリック医薬品の事実上の強制」問題である。
 厚労省のホームページではまだ、その通知が公開されていないが、それに先立ち、3月3日付の「厚労省社会・援護局関係課長会議資料」が、ワムネットのホームページで公開されている。課長会議は厚労省が都道府県や政令市の担当者を集めて行われる会議だ。
 その資料にふたつの問題とも書かれているので、引用しておこう。

■年間たったの44億円の財源を節約して生活保護受給者の医療抑制

・重点事項 
2生活保護行政の適切な運営
(1)通院医療費等の適正化対策
 通院移送費については、「移送に必要な最低限度の額」に限り給付されるものであるから、受診医療機関、利用する交通手段、通院日数及び交通費の妥当性の検証等を十分に行う必要がある。

【移送の給付に係わる改正内容(案)】なるものがある。
 そこには、通院交通費の支給を「例外的」として、<1>身体障害などで電車・バス等で利用が著しく困難な場合の(タクシー代)、<2>僻地などで電車・バス等でも著しく高額になる場合に限定する。それも「原則として福祉事務所管内の医療機関に限る」とした。

 生活保護受給費のなかに医療扶助という項目があるが、その中に電車・バスなどの公共交通機関を使って、福祉事務所管内(市・区・郡)以外の医療機関に通う場合でも、これまで交通費は支給されていたが、それを原則として支給しないということだ。

 3月の厚労省の課長会議で「改正内容(案)」の資料が提出され、自治体の現場の意見聴取もなく、4月1日に通知として厚労省の正式文書として提出されたのだから、まったく呆れる。以下、それに関する報道記事だ。

●朝日新聞 2008年04月13日
【生活保護受給者の通院交通費、大幅制限 厚労省が新基準】

http://www.asahi.com/health/news/OSK200804130003.html
 生活保護受給者の通院の際に支給される交通費(通院移送費)について、厚生労働省は今年度から、支給条件を災害時の緊急搬送など特殊なケースに絞り、「例外的」に支給する場合でも通院先を福祉事務所管内に限るなど支給基準を改定した。北海道で交通費が不正受給された事件の再発防止策と位置づけ、移行期間が終わる6月末以降の本格運用を目指す。これに対して、支給を打ち切られる恐れのある患者と接する自治体担当者の間には戸惑いが広がっている。

 これまで通院や入退院の際、医師の意見書などを条件に、通院移送費として「最低限度の移送」に必要な費用が支給されてきた。
 しかし、厚労省社会・援護局長名の1日付の通知によると、「一般的」な支給は災害現場からの搬送など4ケースに限定。それ以外を「例外的」な支給と位置づけ、通院先は原則、市町村や地域ごとにある福祉事務所の「管内」とした。具体的には、身体障害などで電車やバスの利用が「著しく困難」な人のタクシー代や、へき地などに住んでいて「交通費の負担が高額」になる場合のみ、支給するようにした。これまで普通に支払われていた近距離交通費や、福祉事務所管外の医療機関に通うための交通費の支給が止まる恐れがある。

 大阪府が、政令指定市と中核市を除く府内39市町村を対象に06年度に実施した調査によると、1人あたりの支給額は年平均3万8500円。利用者の6割以上は電車かバスを利用していた。府内のある福祉事務所は、現在の支給総額の6~7割をカットせざるをえないとみている。

 東京都、横浜市など首都圏7自治体は3月、新基準について受給者の医療や生活に「重大な影響を与える」との意見書を同省に提出した。
 大阪市は今月1日、厚労省に対し、「高額」などを判断する具体的な目安を示すよう文書で要請。回答が来るまで旧基準での支給を続ける方針だ。市には先月ごろから、「交通費が出なくなるんですか」といった問い合わせが寄せられている。市生活保護担当は「受給者にとっては、1回数百円の電車代でも負担が大きい。あいまいなままでは実施できない」としている。

 北海道滝川市の事件では、元暴力団員らがタクシー会社と共謀し、介護タクシー代約2億円をだまし取ったとして逮捕、起訴された。これに対し、福祉事務所職員やOB約300人でつくる「全国公的扶助研究会」(会長=杉村宏・法政大教授)は、「特殊な事件のために、多くの受給者の医療を受ける権利を侵害されることになる」と再検討を求めている。
 厚労省保護課は「事件を受け、過大支給を防ぐために基準を明確化した。支給できなくなるケースもあるだろうが、一律に支給を認めないような運用はしないよう求めており、真に医療を必要とする人にはこれまで通り支給できる」としている。
     
 生活保護で暮らす患者のなかにはすでに支給打ち切りを告げられた人もいる。
 「タクシー代を出すのは難しくなる」。大阪府の男性(57)は最近、福祉事務所のケースワーカー(CW)から告げられた。
 2年前、脳梗塞(のうこうそく)で手足にマヒが出て溶接工の仕事を解雇され、生活保護を受けるようになった。塀や電柱につかまりながら、ゆっくりでないと歩けない。月2回、ヘルパーに付き添われてタクシーで病院に通い、通院移送費約3千円を受け取っている。
 厚労省の新基準では、男性の場合、災害時の搬送など「一般的」な支給要件の4項目には該当しない。身体障害などで「電車・バス等の利用が著しく困難」で、例外的に支給されるかどうかが焦点となるが、CWは「一応歩ける」として、支給継続に難色を示しているという。男性は「10メートル先まで歩くのに何分もかかるのに……」と納得していない。
 精神障害者や難病患者、医療者の団体の間にも、新基準の撤回を求める動きが広がっている。3月25日に厚労省に基準の再考を求める要望書を出した「全国腎臓病協議会」(東京都)の金子智・事務局長は「定期的に人工透析を受ける患者にとって、交通費の負担は大きい。通院移送費は生命維持に欠かせないセーフティーネットとして保障すべきだ」と話している。(永田豊隆)
    
〈通院移送費制度〉 生活保護を受ける人が通院する際に実費が支給される。通常は受給者が立て替えた後、1カ月分をまとめて申請する方法がとられる。06年度は全国で計43億8600万円が支給され、医療にかかわる生活保護費(医療扶助)1兆3500億円の0.32%だった。生活保護制度では受給開始理由の43%が「傷病」だった。06年度の生活保護受給者151万人のうち、通院や往診など入院以外で医療にかかった人は月平均110万人だった。


■悪評高い後期高齢者医療制度に次いで「社会的弱者の切り捨て」施策
 もうひとつの問題が、生活保護受給者に対して、ジェネリック医薬品の使用を事実上、強制しようとすることだ。
 これも先の課長会議の資料にあるので、引用しておく。

(6)医療扶助における後発医薬品(ジェネリック医薬品)の使用促進対策
 後発医薬品の利用が可能な場合には、被保護者に対して、原則、後発医薬品を利用するよう周知徹底を図るとともに、特段の支障が無いにもかかわらず先発医薬品を利用する場合には後発医薬品の使用について指導を行う。(中略)
 各自治体におかれましては、その内容を踏まえ、関係者への後発医薬品に関する周知や利用に関する指導等に取り組まれたい。


 要するに、生活保護受給者は必要な医薬品をジェネリックに変えることを、厚労省から強要されることになり、薬を自ら選ぶ自己決定権が奪われることになる。以下、新聞報道を参照のこと。

●毎日新聞 2008年4月27日 2時30分
【ジェネリック医薬品:生活保護受給者は使用を…厚労省通知】

http://mainichi.jp/select/seiji/news/20080427k0000m040115000c.html
 生活保護受給者に対してジェネリック(後発)医薬品の使用を事実上強制する通知を厚生労働省が自治体に出していることが明らかになった。背景に医療費抑制を迫られる“国の懐事情”があり、通知書でも「後発医薬品は安く」「医療保険財政の改善の観点から」など、お金にかかわる文言が並ぶ。一方、指導に従わない生活保護者を割り出すため、薬局に1枚100円の手数料を払ってまで処方せんを入手するとしており、なりふり構わぬ様子がうかがえる。【柳原美砂子】

 4月1日に始まった後期高齢者医療制度に続き、生活保護者に限定した医療費抑制策は「弱者切り捨て」との批判を呼びそうだ。
 通知は後発薬について「一般的に開発費用が安く抑えられることから先発医薬品に比べて薬価が低く(中略)患者負担の軽減や医療保険財政の改善の観点から使用促進を進めている」と説明。生活保護者については「患者負担が発生しないことから、後発医薬品を選択するインセンティブ(動機付け)が働きにくいため、必要最小限の保障を行う生活保護法の趣旨目的にかんがみ、後発薬の使用を求める」としている。

 通知によると、都道府県や政令市などが所管する福祉事務所は、診療報酬明細書(レセプト)の抽出を行ってまで、生活保護者が後発薬を使っているか確認しなければならない。そのために、調剤薬局に1枚100円の手数料を支払い、先発薬を使っている生活保護者の処方せんの写しを提出させることまで規定していた。先発薬の使用を指示した医師に対しては「特段の理由なく(受給者が)後発薬を忌避したことが理由でないかについて確認」することも盛り込んだ。

 国は後発薬の使用を生活保護者だけでなく国民全体に呼びかけているが、窓口で3割負担をする患者は調剤薬局などと相談して先発薬を選ぶこともできる。しかし生活保護者は「医学的理由がない」と判断されれば、保護の停止や打ち切りにつながりかねず事実上、選択権が奪われた形だ。ある自治体の担当者は「停止や打ち切りにつながることを、どういう形で受給者に説明するのか慎重に検討したい」と戸惑った様子で話す。