今年最高の作品だと思います。一見、小津安二郎の『晩春』を思わせるようなあらすじながら、藤竜也演じる辰雄を中心としたコメディでゲラゲラと笑ってしまう軽快さがあります。ドタバタと娘の婚約者探しから始まり、父娘のそれぞれの想いを中心に描いた温かい作品です。

しかし、この作品がコロナ禍前の時代の尾道という設定がとても大切に描かれています。この設定が作品の持つ意味という点でとても深く日本人にとって大切なものを描いていて、物語が最後に向かってゆっくりと進んでいく中でそこに込めた作品の持つ想い、監督・脚本の三原光尋が撮りたかったものがしっかりと映し出されています。

なにより、藤竜也がこの歳にして私の中では作品ごとに良くなっていっているように思います。彼が若いときからの力強い凄みから年老いてトボけたジョークまで、全てが詰め込まれているようでまだまだ引き出しを感じました。