「ディストピア感のある世界観の中で、"見ることができない"少女と少年の恋の物語」と文字に書き起こしてみると意味がよくわからない気がしてきます。しかし、この"見ることができない"というが面白く少女は生まれつき目が見えない、少年は姿が見えないというところが面白い設定だと思います。予告やチラシからはディストピア感は全く感じられなかったのですが、実際の空気感はそこがかなり強かったです。予算の関係で役者や使えるセットの限界なのかもしれませんが、それも作品全体の雰囲気に良い味わいになっているようにも感じます。
とはいえ、透明人間の少年と盲目の少女との恋愛を描くという、かなりムリのある設定を成立させているために、どうしてもシナリオのパワーが弱く感じます。少年の母親は登場しますが、なぜ彼を産むことになったかは微妙なフリがあるだけで謎。少女に関しては家はあっても家族がいない。透明人間自体の設定もかなり曖昧で気になるところは多く、またどうやって彼らが生きていっているかすらわからない。登場人物やセットのバリエーションも少ないので、ディストピアといえば良い雰囲気ではありますが、貧乏くささを感じてしまうかもしれない。工夫が足りず、アイデア一発のゴリ押しな作品とも感じられます。
しかしながら、作品がスクリーンに映し出す雰囲気は良く感じてしまうのは不思議なところです。何が良かったか、と改めて考えてみると、少女や少年の母親の演技が艷やかで好きなんです。とても優しく愛情に満ち溢れた彼女たちの存在が、少年に対する純粋な愛情こそがこの映画の大いなる価値としてフィルムに焼き付けられているように感じます。