毎夜、同じ鹿の夢を見る男女、とファンタジーな設定ながら、そこから溢れ出てくる映像が良いですね。

ラブストーリーとしても、年老いて恋愛とその状況に焦る男、エンドレと、特異な能力(ずば抜けて記憶力が良い)ゆえにコミュニケーションに障害を抱える女、マーリアの出会いから恋愛に発展していく過程は、恋愛作品にはありがちなところ。しかし、その過程、起きる事件や人間関係が物語を不思議な彩りで惹かれます。とくにマーリアを演じるアレクサンドラ・ボルベーイの美しさと演技力が作品に大きな力を加えていると思います。

 

お互いが出会う職場が牛肉の食肉加工というのも面白いと思います。夢の世界では自由に森を移動する鹿であるのに対して、現実の職場は食べるために育てられた牛を屠畜し加工していくところ。その加工の現場をキチンと映像として組み合わせるコトは、その残酷さとともに生きていくために必要な生命も感じる。野生で生きる鹿は雪深い森の中を、美味しそうな葉を探し回る。作品中も食事のシーンも多いし、作品途中でその職場に仕事を求めやってくる男に対して主人公のエンドレは屠畜という仕事は精神的にキツい仕事だと忠告する。このシーンの組み合わせは、男女のラブストーリーの主軸に肉付けされる生命感が素晴らしいと思います。心と体を満たしていく、愛と生命力(食)の充足こそ人として幸せな人生である、と言ったようなテーマが見えてくるように思います。