永遠の0 (講談社文庫)
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講談社


決して本を読むスピードは遅い方ではありません。

7月末から読み始め、今日までかかったのは
読みにくかったからでも量が多かったからでもありません。

単純に時間が取れなかっただけ。

永遠のゼロです。

600ページを越す小説の場合、
ここまで引っ張って読むと途中で集中力が途切れたり
いいやって思えるのですが
本作の場合それはない。

作者の筆力はたいしたもので、
この長丁場を飽きさせないのです。

が。

やっぱり、これ、小説じゃないです。
私の中では小説としては読まず、
台本かノベライズ、
それも民放の特番3時間番組のノベライズとして
読んでいました。

NHKやBBC、ディスカバリーチャンネルのような
良質のドキュメンタリーではなく、
途中でCMが入るのを前提とした民放の。
続きはCMの後で! のような中断が前提となってる
番組のノベライズのようなんです。

というのも、証言に関わる部分が肝であるので
そこは大変引き込まれるのですが、
挿入される現代のシーンがあまりにもとってつけた感が強く、
そこで冷めちゃう。

7月末に60ページで世界に入れないと書いたのも
これ小説かなあ、と頭を何度も捻ったからで、
そこで読むのを止め、方々のレビューを当たってみたら
他にも同じ感覚を持たれる方がおりましたので。
60ページあたりが1つの山のように感じます。

そこさえ超えれば最後まで読めます。

作品のあらすじ等はここでは書きませんが、
本作はですね、
長編小説を読まない、
そもそも小説本は滅多に読まない、
戦争についてほとんど知らない
昭和から平成生まれの戦後世代が
初めて読む戦争ものとしては
まあ、読みやすくていいような感じです。

けど、戦争ものに関しては
相当なマニアも存在するわけなので
史実最優先派、事実至上主義の方には
多分、物足りないどころではない。

ありとあらゆる立場の人が
楽しめてこそ、騙されてこそのエンタメなので
その点ではちょっと…物足りないんです。

プロローグとエピローグ、いらないだろ、とか
もう、言いたいこと山程あるんです。

が、先にも書きました。
600ページの大作を、ほぼ同じ印象を与え続けて
読者を最後の1ページまで読ませるのは至難の業。
それを成し遂げられる作家はやはりプロです。

証言をつなぎ合わせているようでいて、
ちゃんと最後に収束できるように構成されてる、
ここは上手いなとしか言い様がない。

分析しながら、これは違うなと思いながら
読んだ自分のひねた心がかなり寂しく、
一般の方が大感動しました! というほど
感動はなく読み終えた自分、
すれすぎだなあ、と…

永遠のゼロは作者のデビュー作だと聞いています。

どの作家さんも、1作目、処女作が
今後を占う試金石のようなもの。
ふりだしの返るお家なのだとしたら、
今後何を書いて飛躍して、
ゼロの戻るんだろうなあ、などと思ったりしたのです。

そして、人一人の一生はやはり重く、
運命などという言葉でひとくくりにはできないもので
誰かしらの人生に繋がり、続くように出来ています。

本作の本来の主人公である宮部久蔵は
稀代の戦闘機乗りとしての能力をもたらされたから
作中で輝いているようですが、
名パイロットであろうとなかろうと
戦場で失われる命の1つなわけです。

無数の宮部久蔵がいて、父親がいて、息子がいて、
その死を悼む家族があり、
同じようにこの世を去った人間が量産され
死が蔓延していた時代があったことを
私達は決して忘れてはならない。

戦争反対と口にする時、何に対して憤るのか、
何故戦争が悪なのか、
私達一人一人が自分の言葉で考え、発言し、
今の世の中を守らないとならないのではないか、
平和って案外簡単に失われてしまうのではなかろうか。

などと考えたりしています。

今日は8月15日、終戦の日です。

いみじくも今日が読了日。

計ったわけじゃないけれど…読み終えた日が今日というのも
因縁めいていた、永遠のゼロのお話でした。

お勧め度は。
ま、上に書いた通り。
かなりの読書家さんには評価は分かれると思われます。

あまり本なんか読まないよう、って人は
泣けるかも。

私?
ごめん、それ、なかったです。
もっと素直に本読みたいですね、
あれこれ裏事情とか構成とか
どーでもいいことにとらわれないで。