~甲子園~
そこは熱い場所だった。
俺の夢の場所。
全国の強豪達が集まる戦いの
土のうえを行進した。
宿舎に入っても
マスコミが取材を求めてくる。
外も中もにぎわった場所に
俺は不似合いだと思った。
ただプレッシャーと
彼女の死を受け入れられない
溝をうめられないでいた。
そんなとき電話を
かけてくれたのは親父だった。
『お前は人二倍重荷を
背負いよるけぇ、
緊張でプレーできんやろが。』
いつも親父には
見透かされていた。
彼女の死も知っていた。
『今のお前の背中には
野球の女神せおっとるやろ。
無事に連れてやったんじゃけぇ
あとはお前が裏切らんだけじゃ
甲子園の砂、
娘の骨壺中いれたいって
彼女の両親尋ねてきよったで
ちゃんと自分の仕事
終わって満足したら
帰ってくるとええ』
と言って電話を切った。
その日、監督から
部員に課題を出された。
【今出来ること】
これを野球ノートに
書いて提出をする。
俺は考えた。
彼女の言葉、親父の言葉、
仲間の言葉を思い出して。
次の日、練習から宿舎に
帰ったあとのミーティングで
俺の名前が呼ばれた。
「これ読んで聞かせろ」
と渡されたのは
昨日書いた野球ノートだった
監督は俺の精神を
鍛えたかったんだと思う。
俺は皆の前で読み始めた。
【今自分の出来ること】
自分は甲子園が決まった日
大切な人を亡くしました。
正直ゆうと
あれだけ行きたかった
甲子園に行くことを
本気でためらった。
でもまた甘えている
自分を見つけました。
仲間の夢である場所と
一緒に頑張った
この2年半を無駄にする事は
出来ないと思った。
いつか後悔するなら
無理してでも突き進むこと。
そして試合で
一つになった仲間達と
全力以上のプレーをする、
亡くした大切な人の為、
自分の為に自分は迷いを捨てて
不動心で戦うことが今、
自分の出来ることだと思います。
監督は
その意気だ!!と笑って
俺に頑張れよと言った。
明日はとうとう
おれ達の1回戦。