~優勝と引き換えに~
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
急いで病院へ向かった。
信じられないし
信じたくなかった。
嘘やろ、大丈夫、生きてる!!
そう思っていた。
 
 
病院について
彼女のお姉さんに会った。
 
 
 
泣いてる…違うやろ、
みんな騙しとんのや絶対。
 
 
誰かが俺の名前を呼んだ。
彼女の母親だった。
真っ赤に腫れた目で
 
 
 
『甲子園出場…おめでとぅね。
あの娘に知らせてあげて。
ちゃんとあなたを
待っとったんよ…』
 
 
 
案内されたのは霊安室。
目の前にいたのは
真っ白な女の子だった。
2週間あっていないだけなのに
痩せてベッドで寝ているのが
俺の彼女だった。
 
 
 
嘘やっ嘘や!!違う違う!!
何が違うんか。違う嘘やっ!!
 
 
 
パニックになって
何を理解したらいいか
全く分からなかった。
ただ死んだと言われても、
どこから受け取ったら
いいかわからなかった。
 
 
 
「せっかく目標の甲子園
出場決まったのにね。
きっとあの子が…
ピンチを助けてくれたんよ‥」
 
 
 
彼女の母親が俺の手をとって
彼女の手のうえに乗せた。
ひんやりした。
何かが俺の中でぷつっ
と切れた感じがした。
 
 
 
「彼女をおいて…
甲子園にはいきません。
彼女が死んだら
意味がありません。
俺は…
 
 
甲子園にいかない…」
 
 
 
みんなが静まって、
何もきこえなかった。
 
 
バチっ!!
 
 
と音がした。
彼女の母親が
俺に平手打ちをした。
 
 
 
『何いっとるね!!
あんたはそんな
軽い気持ちで
甲子園を夢見とったんか!!!
この娘はあんた達を
見守ってくれたんや!!!
甲子園に導いてくれたんや!!
あの娘に無駄な死に方なんて
させんといてっ!!
馬鹿なこと言わんな!!!』
 
 
一気に涙が出てきた。
 
 
 
「何で死んでしまったんよ…
一緒に甲子園にいくんやろ。
おまえの夢違うんか…
なぁ!!
起きてるんやろ……
なんかしゃべろや‥」
 
 
 
白い彼女は何も言わなかった。
どれだけ手を握っても
握り返すことはなった。
 
 
彼女のお通夜、
火葬場についた時
制服のポケットから
県の夏の大会の
優勝メダルを取り出した。
それを彼女と一緒に
お棺の中に入れようと思った
 
 
 
だけど…
太い手が俺の手を止めてきた。
 
 
 
『それはきみが
この娘からもらった物やろ。
君の力で取った
甲子園の切符やろ!!
…これはとっとき。』
 
 
 
彼女の父親だった。
見上げた彼女の父親は、
俺を真っすぐ見て泣いていた。
俺も食い縛って
我慢していた涙が、
一気にあふれてきた。
離れるのが嫌だった。
 
 
どうして焼いてしまうんだよ!!
ついさっきまで
生きていた人間なのに…
彼女が釜に入れられてしまう。
 
 
俺は無我夢中で叫んだ。
何て叫んだのか
覚えていないけど、
釜に近づこうとする俺を
しっかり彼女の父親が
押さえてくれていた。
 
 
 
我を忘れて、
その後頭の中が暗くなった。