~約束~
 
 
 
 
 
 
 
 
4月、新学期と共に
春の大会が始まった。
 
 
俺たち3年の
最後の春の大会…
順調な滑り出しで
勝ち進んでいった。
 
 
そんなとき、彼女が
また入院することになった。
聞いたときは動揺した。
だけどお見舞いに行ったら、
 
 
『たいしたことないけん。
心配しないで
大会にだけ集中して』
 
 
と言われた。
呼吸器をつけてるのに
おかしいと思った。
だけどまたあの元気な
笑顔でいうから安心した。
 
 
絶対勝ってやろうと思った。
でも試合は負けてしまった。
 
 
俺のエラーで…
決定的な点が入ってしまった。
監督にも怒られて、
俺はひどく落ち込んだ。
バッティングも
うまくいかない…
このままじゃ
レギュラー外されてしまう。
 
 
焦りもつのって何もかも
上手くいかなかった。
監督にもとうとう
何も声をかけられなくなった。
 
 
彼女のお見舞いは
週一度欠かさず行っていた。
彼女はたぶん
暗い俺に気付いていたと思う。
俺に気付いているのに
何もいわないのがムカついて
勢いでいってしまった。
 
 
 
「俺、野球辞めるわ」
 
 
彼女は黙っていた。
 
 
「監督にも
必要ない言われとるし、
調子もあがらんし。
お前のこと甲子園に
連れてってやれんわ」
 
 
彼女は俺のほうをみつめた。
何か言ってほしかった。
 
 
 
『あんたがつれてって
やれんのやったら、
私があんたを甲子園に
つれてってあげる。』
 
 
 
何をいってるのか分からなかった。
 
 
 
『何でも諦めたら
そこで終わりなんよ。
負けると思ったら
負けてしまうんよ。
打てないと思ったら
絶対に打てんやろ?
野球はあんたを
絶対裏切らん。
あんたが野球を
裏切ったらいけんよ。
それでも甲子園が遠かったら
その時は私が
つれてってあげるけん。
後ろにはちゃんと
仲間ついとるけん
大丈夫。』
 
 
 
俺は泣いた。
自分が弱すぎて
甘えてたこと。
彼女は本当に
俺を分かってくれる人だった。
本当は野球を
頑張りたいと思ってる。
それをちゃんと
分かってくれていた。
 
 
そしてなんとなく
気付いてしまった。
彼女の腕の点滴、呼吸器‥
痩せていく身体。
 
 
涙が止まらなかった。
彼女に聞けなかった。
 
 
 
『私が甲子園に
つれてってあげる』
 
 
 
その理由を聞けなかった。
もしかしたら
彼女はいつか
死んでしまうのかもしれない。
彼女は何も言わない。
だから俺も聞かなかった。
 
 
 
彼女はもう学校に
来ることはなかった…