~だんご屋~
「ちわ~!おかみさん、
だんご3本焼いて下さ~い。」
いつもと同じ勢いで店に入ると、
「ごめんねたれさん、
今日はもうなくなっちゃったんだわ。」
と、つれない返事
「残念!今日はいつもより
ちょっと遅かったもんね。」
いや、遅くはない、
いつもこの時間ならあるはず。
今日は特別お客さんが多かったのだろうかと思いつつ、
置いてあったフリーペーパーに手をのばした。
「お茶でも飲んでって。」
このお店には、
他にも手作りのおかず味噌や惣菜、
今日は栗の渋皮煮まであった。
「それじゃ~今日はおかず味噌もらうわぁ。」
いすに座りお茶をすすり、
いつも居る猫ちゃんの姿を探す。
お店の中の風景はいつものとおりで変わらない。
いつもと違うのは、火を落として冷え切ってしまった厨房、
それと心なしか硬いおかみさんの表情。
湯のみをテーブルに置く、
それと同時におかみさんが口を開いた。
「たれさん・・・。今日はよくきてくださった。」
しみじみと言うおかみさん、
「またまた~、あらたまって~なになに?」
のしかかる重い雰囲気が払拭したくて、
わざとおどける様に切り替えした。
「明日からしばらく店を閉めるの・・・。」
全くの想定外の言葉に、
次の言葉がでるまで2~3秒はかかったと思う。
「えっ?しばらくって、いつまで?」
それは大変難しい質問だった。
「いつまでか、分からないの。」
思わず
「どうして?」
と言いかけたとき、
他のお客さんが入ってきた。
それっきり理由を聞けなかったし、
おかみさんも説明はしなかった。
初めてこの店にきた時は、
小雨が降っていたこと。
泥だらになって帰ってきた、
猫ちゃんに甘えられて、
膝の上が汚れてしまったこと。
だんごを買って帰るときに駅前で、
事故にあったこと。
色んなことを思い出しながら、
しばらくは他愛も無い会話をつづけた。
気持ちの整理もつかぬまま
2杯目のお茶を飲み干し
時報に促される様に席を立った。
「そろそろ帰ります、またお店はじめたら絶対にくるから、
それまでどうぞお元気で。」
「たれさんもお元気で、いままでありがとう・・・。」
おかみさんは深々と頭を下げた。
ため息が出そうになるのを深呼吸で打ち消し、
秋空を仰いでから走り出す。
今までいた場所がどんどん遠ざかって行く。
秋風はこんなにもすがすがしいのに、
心の中には小雨が降っていた。
あの店で初めてだんごを食べた日の様に・・・。
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