昔の彼女が既にこの世を去っていたと、

昨日、風の噂で聞いた・・・。


この事を知った時は、これほどの暑さすら
忘れ、あれほど喧しく聞こえていた蝉時雨
をも少し遠退いて聞こえるような感覚にな
っていた・・・。


・・・あれ以降、
もう会うことはないと思っていたし、
日々の暮らしの中で思い出すことすら最近
はなかったし、この歳になってくると、
『人は誰しも天に召されるんだから、いつ
かこうした知らせを聞くこともあるだろう
・・・』などと、
わかったようなことを漠然と思うようにも
なっていた・・・

なのに『昔の彼女が・・・』って改めて聞
かされると、心がザワつき、落ち着かなか
った・・・。


眠れない夜を過ごし、気がつくと
二人の思い出の場所に夜が明ける前にも拘
わらず、家族に告げず向かっていた。

きっと、あまり当時と変わってない風景に
あの頃の、在りし日の彼女の残像を探した
くなったのだと思う。(そんなもの何処にも
ありはしないのに)

着くとクルマから降り砂浜に立った・・・。

砂浜に打ち寄せる波は穏やかだった。
頬をかすめる微かな風を感じながら、
あの頃のことを思い返し、

『もう、随分と前にこの世界から居なくな
っていたんだな・・・、ちょっと早くないか?』それだけ呟くと砂浜を後にした。

別に涙は出なかった・・・

運転中にこの曲がふと頭を駆け巡り始める
までは・・・だが。

助手席を眺めて声にならない微かな声で
そっと送った・・・
『安らかに、さようなら・・・』と。


7月は個人的に愛した人との寂しい別れが
多い気がする、
偶然だとは思うのだけど・・・。