古谷一行さんの訃報を聞き、
出演した数々の作品を振り返ったなかで、
やはり一番に僕が思い出してしまうのは
テレビドラマ『横溝正史シリーズ』の
金田一耕助役であった。
いが、その後に数年間昼下がりの再放送枠
で何度も放送されていたのを怖がりながら
も観ていたものだ。
終戦後の混乱や閉塞的な村社会の奇妙な習
わし、上流家庭の歪んだ関係とそこに見え
隠れする各々の欲望や憎悪によって巻き起
こる事件の謎を、
古ぼけたトランクを携え、腰には薄汚い手
拭いをぶら下げ、頭はボサボサの長髪とい
う冴えない風体で、頭をカリカリとフケを
撒き散らしながら掻き、推理に行き詰まる
と逆立ちをするという奇行を繰り返しなが
ら真相に迫る姿がとても印象的だった。
古谷さんの演じていた『金田一耕助』は不
器用でダサくて汚い格好してるのに決して
不快ではなく爽やかで人に寄り添うあたた
かい心を持ちながらも、
反面で猜疑心を持ち、犯人の暗い過去と心
の機微を敏感に察知して難解な殺人トリッ
クを解き明かす優れた能力を持っている、
しかしながら、それを表向き感じさせず、
二枚目が嫌味なく三枚目として自然に振る
舞っているというところがポイントであり、
非常に難しい役と言える。
これまで数多くの俳優たちが金田一を演じ
てきたが、これを一番自然に演じていた
(モノにしてた)のは古谷さんだったと思う。
思い返せば僕は当時、
再放送が始まると知るとこれから恐ろしい
映像を見なければならない怖さがあるにも
拘わらず、『(古谷さんの)金田一さんに逢
える!』という、
それはどこか、
『親戚のやさしいおじさんがやってくる』
ような『楽しみ』と言うか『親しみ』とで
も言うのだろうか、そんな感覚になってい
たし、
この『金田一耕助シリーズ』が再放送され
ていた3~40年くらい前は僕の住む町が田
舎であったせいか、ドラマのなかに出てく
るような茅葺きの旧家や空き家になった不
気味な洋館などがまだあり、子供心にその
前を通るときはドラマとこれらの風景を頭
の中でリンクさせたり、エンディングテー
マ曲が(頭の中で)流れていた、なんてこと
も思い出されて、ひととき懐かしい気持ち
も甦った。
古谷さんは『金田一耕助』以外にも様々な
役柄を演じられた訳だが、
クルマ好きとしては1991年ル・マン24時間
自動車レースでMAZDA787bが総合優勝した
際、ドキュメンタリードラマに主役(このレ
ーシングカーのエンジンを手掛けた松浦國
男さんに扮した)で出演していたことも思い
出される・・・。
長く生き残ることが難しい俳優の世界で確
固たる地位を築いて来られたことは言わず
もがなだが、
最近お孫さんも役者として活躍されている
とのことだから、
きっとDNAを受け継ぎ、味のある役者に成
長してくれることと思うし、そう願いたい。
長い間、我々を楽しませてくれた古谷さん、
安らかに・・・。