クルマ好きにはお馴染みのジャーナリスト

三本和彦氏が先月亡くなられた。

氏はジャーナリストとしてクルマを中心と

した写真や執筆活動に加え、独立(ローカル

UHF)局、テレビ神奈川(TVK)に自身で企画

を持ち込み『新車情報』という番組をスタ

ートさせ活躍されていた。


この番組では28年という長きに渡りキャス

ターを務めておられたのだが、

自動車メーカーに媚びない姿勢と歯に衣着

せぬ物言いが人気を博し、当初はTVKのみ

の放送であったのが、一部地方の独立局へ

ネットされ始め、ついに1990年代に入ると

東京キー局に属する地方の数局でもネット

されるほどにまでなったと言う稀有な番組

となった。


この様なことは関東の人にとってピンと来

ないだろうが、東京キー局に属する放送局

しかない地方(特に田舎)で関東独立局制作

の番組がネットされるというのは極めて異

例なことで、今で例えるならば東京MXの番

組が地方で視聴出来るのと同じ感覚であり、

凄く画期的なことだったのだ。


そんな『新車情報』の構成は毎回スタジオ

に新型車を持ち込み、そのクルマを開発し

た担当者が開発の狙いや特徴について自身

の言葉で視聴者にプレゼンテーションする。


そのあとに、予め撮影しておいたロードイ

ンプレッションが流れるが、そのVTRでは

クルマの挙動や走りの印象、乗り心地や室

内の静かさなどの美点欠点を高速道路や山

坂道を運転しながら解説していく。


VTR終了後は再度場面をスタジオに戻し、

搬入した車輌を視ながらメーカー担当者と

気になる点を問答する・・・というのが大

まかな流れ。


氏は終始べらんめえな口調で不躾にズケズ

ケと発言するのだが、軽妙でテンポよく番

組を進めていくので観ていて飽きることが

なかった。


これは自動車についての造詣が深かったこ

とは言わずもがな、日本の自動車とそれを

取り巻く業界や交通環境の抱える問題、ド

ライバーの意識に至るまで、ジャーナリス

トらしく、クルマに関わる全ての方面で

環境や意識が少しでも向上するようにとい

う信条のもと、豊富な知識を活かして視聴

者に解り易く解説と啓蒙をしていたことも

一因であろう。


また、招いたメーカーの方が主管クラスで

あっても臆することなく視聴者が知りたい

素朴な疑問や希望を躊躇なく投げかけたり、

ご自身や視聴者が理解に苦しむ開発思想に

は担当者が答えに窮するようなことでも遠

慮なく苦言を呈するなど、他の自動車評論

家とは一線を画したスタイルが持ち味だっ

た。


まぁ、そこが時に堅物と感じる時もあった

にせよ、基本的に庶民の視点、市民感覚を

何よりも大切にして意見することを決して

忘れず、貫いていた為、観ていてとても潔

かったし、個人的には勉強にもなった。

(↑第一回目の冒頭部分)

(↑最終回)

このように(口は悪いが)真摯な番組づくり

をしていることが画面から伝わってきたか

ら多くの視聴者の共感を得、人気が長く持

続していたのだと思う。


このような稀有な方は時代的に考えても

今後はもう現れない。


しかし、

オイルショックから立ち直り始めた1970年

代後半から2000年代半ばという自動車にと

って一番伸び代があった時代にこうした

『御意見番ジャーナリスト』がいたことは

日本の自動車業界にとって非常に意義があ

ったと僕は思っている。


三本御大、お疲れ様でした


どうぞ安らかに・・・。