第三章「ここは天国・新世界」7話
「あきさん、こんなにも運転資金はいりまへん」
「何を言っているのよ、元社長を突き止めるまでは帰ってこれないんだから」
「えっ……見付けるまで帰れない。そんな……アホな」
「だからこそ真剣に捜せるじゃないの。清水警視にはちゃんと話してあるから心配しないで思い存分、捜査してね」
「それじゃ元社長を突き止めて、無事にラッキーを救えたら、デートしてくれまっか」
「何を言ってるのよ……。でも、中村君が頑張ったら考えてもいいわよ」
「ほんまでっか。では、頑張って捜査しまっさ」
それから一時間後、中村と鈴木は薄汚れた作業服にタオルを首に巻いて、新世界をうろついていた。中村はソフト開発会社の元社長の顔写真とプロフィールを見ながら頭にインプットして鈴木へ手渡した。顔写真は、前の髪の毛が薄くおでこが広く見える。目は切れ長で鼻が高く引き締まった口元、どちらかと言えば精悍な顔立ちをしている。
メモには、城田幸雄、年齢は五十三歳、身長は百七十センチでやや細身。空手四段でスポーツ万能。男気のある性格でちょっと言葉遣いは荒い。と書いてあった。中村と鈴木はこれだけの情報を頼りに、キョロキョロしながら通天閣を通り過ぎて、ジャンジャン横丁へ向かった。
ジャンジャン横丁は、正式には南陽通商店街といわれている。浪速区の最南端に位置して、太陽の光が燦々とふりそそぐ通りということで命名された。

昔は通天閣(浪速区)と飛田遊廓(西成区)を結ぶ道筋に当り、戦後まもなく飲み屋や射的の店が立ち並んで、遊廓へ行くお客さんに向かって三味線でジャンジャン、太鼓でドンドン、小太鼓でテンテンと鳴り物入りでお客さん引きをしたことから、ジャンジャン横丁またはジャンジャン町と愛称がついた。この横丁の名物は、安くて旨い串カツ屋や居酒屋が軒並みあることだった。
「おい鈴木、ジャンジャン横丁やで……どや、あそこの串カツ屋で一杯ひっかけるか?」
「中村先輩、まだ四時過ぎですから……ちょっとアルコールは……」
「何を言ってるんや、今は日雇労働者になりきるのが仕事やないか、あきさんも本物の日雇労働者になれって言ったやないか」
「まぁ……そういうことですよね。そしたら、一杯だけでも飲みましょうか」
酒好きの中村の屁理屈に負け、鈴木もその気になって串カツ屋へ入った。
「まいど! 何しまっか」
「生ビールしてんか」
「へい、生二丁おおきに」
二人は立ったまま美味そうに生ビールを飲みながら、カウンターのカゴに盛ってある肉、エビ、ホタテや野菜の串カツを食べ出した。
「中村先輩、この串カツめちゃ旨いですね」
「そうやろ、ジャンジャン横丁の串カツは日本一安くて旨いんやで」
「このソース、なんとも言えないコクがありますね……」
「あかん、あかん、鈴木。ソースの二度漬けは、あかんで」
「えっ、二度漬けは駄目なんですか?」
「ほら、貼り紙があるやないか」
中村は壁の貼り紙に指差した。そこには大きな字で「当店はソースの二度漬けはお断りしてます」と書いてあった。鈴木は不思議な顔をして訊ねた。
「何を言っているのよ、元社長を突き止めるまでは帰ってこれないんだから」
「えっ……見付けるまで帰れない。そんな……アホな」
「だからこそ真剣に捜せるじゃないの。清水警視にはちゃんと話してあるから心配しないで思い存分、捜査してね」
「それじゃ元社長を突き止めて、無事にラッキーを救えたら、デートしてくれまっか」
「何を言ってるのよ……。でも、中村君が頑張ったら考えてもいいわよ」
「ほんまでっか。では、頑張って捜査しまっさ」
それから一時間後、中村と鈴木は薄汚れた作業服にタオルを首に巻いて、新世界をうろついていた。中村はソフト開発会社の元社長の顔写真とプロフィールを見ながら頭にインプットして鈴木へ手渡した。顔写真は、前の髪の毛が薄くおでこが広く見える。目は切れ長で鼻が高く引き締まった口元、どちらかと言えば精悍な顔立ちをしている。
メモには、城田幸雄、年齢は五十三歳、身長は百七十センチでやや細身。空手四段でスポーツ万能。男気のある性格でちょっと言葉遣いは荒い。と書いてあった。中村と鈴木はこれだけの情報を頼りに、キョロキョロしながら通天閣を通り過ぎて、ジャンジャン横丁へ向かった。
ジャンジャン横丁は、正式には南陽通商店街といわれている。浪速区の最南端に位置して、太陽の光が燦々とふりそそぐ通りということで命名された。

昔は通天閣(浪速区)と飛田遊廓(西成区)を結ぶ道筋に当り、戦後まもなく飲み屋や射的の店が立ち並んで、遊廓へ行くお客さんに向かって三味線でジャンジャン、太鼓でドンドン、小太鼓でテンテンと鳴り物入りでお客さん引きをしたことから、ジャンジャン横丁またはジャンジャン町と愛称がついた。この横丁の名物は、安くて旨い串カツ屋や居酒屋が軒並みあることだった。
「おい鈴木、ジャンジャン横丁やで……どや、あそこの串カツ屋で一杯ひっかけるか?」
「中村先輩、まだ四時過ぎですから……ちょっとアルコールは……」
「何を言ってるんや、今は日雇労働者になりきるのが仕事やないか、あきさんも本物の日雇労働者になれって言ったやないか」
「まぁ……そういうことですよね。そしたら、一杯だけでも飲みましょうか」
酒好きの中村の屁理屈に負け、鈴木もその気になって串カツ屋へ入った。
「まいど! 何しまっか」
「生ビールしてんか」
「へい、生二丁おおきに」
二人は立ったまま美味そうに生ビールを飲みながら、カウンターのカゴに盛ってある肉、エビ、ホタテや野菜の串カツを食べ出した。
「中村先輩、この串カツめちゃ旨いですね」
「そうやろ、ジャンジャン横丁の串カツは日本一安くて旨いんやで」
「このソース、なんとも言えないコクがありますね……」
「あかん、あかん、鈴木。ソースの二度漬けは、あかんで」
「えっ、二度漬けは駄目なんですか?」
「ほら、貼り紙があるやないか」
中村は壁の貼り紙に指差した。そこには大きな字で「当店はソースの二度漬けはお断りしてます」と書いてあった。鈴木は不思議な顔をして訊ねた。