たま〜に「デスマッチ評論家」という肩書でイベントに呼ばれることがある。とはいえ、正直そこまで詳しいわけではない。「プロレス通」ってわけでもなければ、デスマッチの変遷を年表で語れるほどでもない。ただ格闘技ジャンルの中で、私は昔からなぜか「デスマッチ」というジャンルに惹かれている。
理由は単純。デスマッチの隣には、闇の匂いがあるからだ。
長年、都市伝説や陰謀論に身を浸してきた人間としては、路地裏と暴力の匂いがするものに無条件で引き寄せられてしまう。薬物、宗教、地下格闘技。そういうジャンルの地層は、つながっている。
さて、今回はイベントでも何回か触れたことのある伝説のデスマッチについて、もう少し詳しく書いておこうと思う。
その名も——
ノーロープ絶対安全剃刀デスマッチ
名前だけで既にパワーワードだが、この試合の実態はほとんど謎に包まれている。開催されたのは1980年代、場所は新宿・花園神社の境内。しかも、いわゆる「ゲリラ試合」だったらしく、特定の主催者・団体などはいなかったという。
ノーロープ、絶対安全剃刀、デスマッチ。
理解に苦しむこのネーミング、当時流行っていたコミックからの引用とも言われている。実際、このデスマッチがどこまで本気の試合だったのか、それとも都市空間を使った一種のアングラ演劇的なパフォーマンスだったのか、評価は割れている。
このあたり、路上演劇のルーツをたどれば寺山修司の市街劇(ストリート・シアター)にたどり着く。都市を劇場化し、境界をあいまいにする試み。あの試合も、その流れに連なるひとつの「事件」だったのかもしれない。
では、なぜそんな曖昧なイベントが「伝説」になっているのか。
ひとつだけ確かなのは——本当に死人が出たらしい、ということだ。
剃刀による失血でも、凶器の選択ミスでもなく、ただ単に打ちどころが悪く、あっけなく死んでしまったという話。記録は一切残っていない。ゲリラ開催だったこともあり、目撃証言は口伝レベル、映像や音声も現存せず。
結果として、このデスマッチは「誰も記録していないが、なぜか語り継がれている」存在となった。
最近になって、この試合の名前を再び耳にするようになった。
どうやら歌舞伎町界隈の若者の間で「ノーロープ絶対安全剃刀デスマッチの音がした」という噂が囁かれているらしい。
音がした? 何の?
その声に導かれて見に行っても、何もない。誰もいない。何も起こっていない。
まるで焼き芋屋のトラックの音だけが聞こえて、実体がどこにもいないような、そんな現象。
これが何かを意味するのかは、まだわからない。ただし、このあたりから先は、私の専門である都市伝説の領域に足を踏み入れる。
なにやら「青いタブレット」がカギになるという。
花園神社に、また何かが現れはじめているのか。
あの「デスマッチ」が、もう一度、始まろうとしているのかもしれない。