(在宅勤務ときどき出勤のこの頃。意外と家だと筆が進みませんでした。2019年モルディブ旅のレポも今回で最終回です)

 

ここ数日、時差ボケ的に6時前に目覚める。バルコニーに出ると、もっと早く目覚めていたなーこがいたので、しばしデッキチェアに座って海景色を眺めていると、近くのコテージの屋根に長い脚と嘴を持つ鳥が。サギだろうか。たまたまコテージの渡り廊下を掃除していた係員が足元の水面を指差しながらこちらに向かってシャークと囁くと、次の瞬間、1メートルぐらいの先の尖った茶色い魚がコテージを支える柱を縫うようにすり抜けて行った。この時間帯、魚の活動が活発なのだろうか。空はどんよりしていたが、珍しい動物を見れて三文の得ができるモルディブの早朝。

しーちゃんも起きたので、渡り廊下を端から端まで散歩すると、丁度いい涼しさで心地良い。その後レストランに行って朝食を摂り、部屋に戻るとゴミが片付けられていた。温暖化による水位上昇で国が沈む危機に直面しているだけに環境保護に力を入れているお国柄。特にリゾートではゴミを出すのはご法度、全て日本に持ち帰らないとならないのかと思っていたが、意外とゴミ箱は多く、ペットボトル始めゴミは普通に捨てられている感じだった。もっともゴミの発生を最小限にするためにレストランやお店を一ヶ所だけにしているのかも知れないし、リゾートによって取り組み方の違いがあるのかも知れない。

 

間も無く降り出した大雨。コテージを囲む青い海面にいくつもの水紋がに広がる。バルコニーのパラソルはガタガタと音を立てて揺れ、海面に延びるステップに波がぶち当たる振動が室内でも感じる程、天気は荒れてきた。なので午前中はほぼコテージに引きこもり。

昼時に少し落ち着いてきたのでレストランでカレーやフライドポテトを食べ、隣接する土産屋をチェック。CDは売ってないか聞いてみた。伝説のバンド、ゼロ・デグリー・アトールの名前を出すと店員さんは激しく反応。バンドのリーダーだったボーカルが三年程前に亡くなってバンドも解散したんだけど、彼の娘が最近デビューしてトリビュートソングを作ったんだ! えーっと、動画が確かアップされてたと思うが。携帯の動画を検索しながら、他の客もそっちのけでバンドのその後を熱心に語ってくれたのはとってもありがたいのだが、CDから話が遠ざかりつつあった。動画を少し見せてもらった後、他のCDは置いてないのか改めて聞いてみる。彼が周囲の引出しや戸棚を探すと、一枚だけCDが出てきた。僕の気持ちは一瞬舞い上がりそうになったが、それはアウト・オブ・ドアーズというバンドの作品であった。マーレとトラギリで見つけたたった二枚のCDが、よりによって既に持っている二枚だったなんて…。そこはビンゴしなくていい所なのに。

微妙な気持ちで建物から出ると、雨はちょうど上がっていた。晴れているわけではないが、蒸し暑かったので僕達は海に行くことを決断した。そこは奇妙な風景だった。普通レベルの曇りであるこの島の上空を除く周辺一帯は真っ黒い雲に覆われていた。周辺は恐らく大雨に見舞われているのだろう。決してリゾートらしい青空ではないのだが、この島だけが奇跡的に守られているような風景であった。そして空模様がどうであれ、透き通ったブルーの波打ち際とサンゴ礁は変わらない。今海に入らずにいつ入る、ということで僕達は夕暮れ時までここで過ごした。空が曇っていてもここの海は青く透き通っているんだな。小さい子連れな上、マリンスポーツのスキルも無いので、ほとんどクラゲのようにプカプカ浮いたり、波に押されて柔らかい砂底にちょっと埋まったり、一瞬現れる小魚を確かめに潜ったりしていただけであるが、家族で至福の時間を過ごせたのだから、この島に来て正解だったのだろう。

 

最終日の朝は皮肉にも快晴と共にやって来た。滞在中にこの天気であって欲しかったのだが、もう仕方無い。元々リゾートをフルに満喫できるような人種ではないし、ローカル島とリゾート島のいいとこ取りを目論んだ結果なのだから、来れただけでもありがたいと思わないと。荷物整理も忙しかったが、残されたちょっとの時間で海辺に行って写真を撮ったり、裸足になって少しチャプチャプした。

マーレに帰るスピードボートに乗り込む直前、桟橋下に広がる浅瀬の海に長細い魚の群れが現れ、僕達を見送ってくれた。

 

空港の土産屋は有名リゾートとは思えない程ショボい。Tシャツや壁掛け、置物等どれもそのままグアムで売っていそうな代物で、表面に書かれた地名をモルディブに換えただけ。デザインもヤシの木や熱帯魚のお決まり通りでモルディブ色は微塵も無い。せめてあの記号のようなディベヒ語の文字が入るだけでも光りそうなのに。リゾートと国民が住むエリアを隔離していた名残で、敢えてモルディブ色を出さないようにしているのかとさえ思ってしまう。なんてちょっと悪態つくのも、きっとここでもCDが見つからなかったからであろう。

ともあれ結婚以来のリベンジ完了。みんなよくやり遂げた。遠き南アジアまでの往復、特にしーちゃんは一番頑張ってくれた。次のまだ見ぬアジアへの旅もまた家族でチャレンジできるのか、自分自身で模索していくのか、そこはまだわからない。スタイルは年齢や立場に見合ったものに落ち着いていくのだろうが、大事なのはそこではなく、タシケントの地を踏んだ初海外の日と変わらないアジアへの憧れと探究心をちょびっとでも持ち続けること。ちょびっとでいいから緩くてもいい。残された未踏のアジアはどこもハードルの高い顔ぶればかりだからこそ、気持ちの面では緩く行こう。おっと、前回の台湾と同じまとめになってしまった。家族と一緒のフィルターから見た旅はそうなっちゃうものなのか。
 帰国後早々、現地でやり残したことをする。あるネットショップでモルディブ出身のメタルバンドのCDを発見したのだ。数日後に届いた音源は、モルディブをかけらも感じさせない激し過ぎるデスメタル。その響きは、いつまでも思い出に浸ってないで現実に戻れと言わんばかりに脳内を振動し続けるのだった。嗚呼、サンゴ礁の楽園(苦笑)…。でも行けてよかった!

(読んで下さりありがとうございました。次回はもっと以前に旅した国のレポを完成させていきたいと思います!)