夜明けと共に起床し、三鷹から6時17分の成田エクスプレスに乗り込む僕以下家族三人。大混雑を予想していた成田空港だが、日を少しずらしていたこともありそれ程でもなく、顔認識なる新システムにポカンと口を開けながら難なく出国を果たした。

 

 「家族でリベンジ&チャレンジ」第二弾の日を迎えたのは、令和へと元号が変わる5月の10連休。目指す目的地は六年前に新婚旅行の行き先として選びながらも断念したモルディブだ。旅行中止の理由は、妻なーこが娘しーちゃんを宿したというかけがえの無いめでたい理由だったのだから、リベンジというのは語弊がある。ただ、アジア踏破を目指す僕にとっては、渡航費用も高く、男一人で旅するには場違い過ぎな程にリゾート至上主義という非常にハードルの高い国だっただけに、これはまたと無いチャンスだと思っており、その中止はずっと心残りであった。だがその気持ちは数年の間封印することにした。少なくともしーちゃんが海を楽しめるぐらいになるまでは。そして今回遂に家族三人によるモルディブ行き計画が再浮上するに至ったのだ。

 

 正月からプランを練り、フライトやリゾートのチケットを手配した我々。もはやカゼひいたぐらいでは中止なんてできないぐらいの投資だった。そんな矢先、隣国スリランカのコロンボでまさかのテロ事件発生。僕達のフライトはコロンボを経由するエアランカ航空だった。旅を妨げる次の障壁はそっちか!家族は揺れた。事件直後だから警備も厳重になる分空港内は安全だし、トランジットは一時間弱だ。物流の表玄関である空港はそう簡単には閉鎖されない。宗教コミュニティ間の分断を目的としたテロなので外国へ飛ぶ航空機が狙われる理由はない。そもそも行く先のモルディブは問題無い!そりゃ100%安全だなんて言えないけど。だけど、ここまできたんだし、中止なんて方向にだけはならないでほしい…。いくつも、いくつも説得材料を考えた。両親には利用する航空会社の名を伏せた。一方で以前スリランカでお世話になった知人達の安否を気遣い、それとなく空港の状況も確認した。直前まで不透明な状態が続いたものの、ある時点で踏ん切りがつき、旅の準備が再開されたのだった。

 

 今回の旅の最大の難関は行き帰りのフライト。しーちゃんも同じ年代の子達に比べれば飛行機経験はある方だが、これまでのような沖縄や台湾とはわけが違う。10時間を越す南アジアまでの飛行中、大人しく過ごせるかどうか、ネックはそこに尽きる。沢山の絵本やぬり絵はもちろんのこと、録画した子供番組を沢山焼いたDVDと小型プレーヤーまで準備しており、手荷物はさながら移動幼稚園であった。

 11時40分、飛行機は定刻通りコロンボに向けて出発。長い間ずっと懸念していたネックについては、取越し苦労だったことに気付くのに時間はかからなかった。座席には画面がちゃんとあり、しーちゃんは大好きなディズニー映画も満喫できたし、何よりゲームにハマってしまったようだ。少しはDVDも見たら?とこちらから頼んでしまうぐらい。親的には複雑な気分ではあるが、正直ゲームに助けられた。ついでに言うと僕もなーこもハマってしまった。

 

 やがて到着したコロンボは夕暮れ時。厳重なチェックによる遅れがあるのではと少し緊張したものの、降りてすぐにトランジットの列があり、そのまま機械的に手続を終え、しばらく待合室で過ごしたらもう再搭乗であった。さあ、あとちょっと。その後はもうなんてこともない距離。もうすぐだねー、と三人でワクワクしているうちに着陸体勢に入った。

 今時のボーディングブリッジではなく、タラップを降りるスタイルでの到着はモルディブ入りの実感をより強く演出するためか。乗客達が歩いて向かうヴェラナ国際空港の建物には、英語とこの国の国語であるディベヒ語の電光表示が熱帯の夜空の下でほのかに光っていた。早く海で遊びたいしーちゃん、早くリゾートでのんびりしたいなーこ、早く44番目のアジアの空気を味わいたい僕、それぞれの思いでがっちり握られたパスポート。いよいよ入国審査の列に並ぶ。