北海道新聞社説
【東京電力福島第1原発事故について、1号機の事故時運転操作手順書の一部が明らかになった。

 いったんは「知的財産保護や核テロ対策」として東電が大部分を墨塗りして提出していたものだが、
内容をみると、そうした危険性は認められなかった。

 墨塗りは事故原因の究明に協力しようとしない東電の姿勢の表れではなかったか。反省を求める。
2号機、3号機の分も徹底公開すべきだ。

 事故原因についても、本当に津波によって起きたのか、地震そのものに要因はなかったのか、
あらためて疑問が浮かんだ。専門家による詳細な検証が必要だ。

 手順書は、経済産業省原子力安全・保安院が、衆院科学技術・イノベーション推進特別委員会に提出した。手順書は約1800ページあるが、そのうち約170ページ。実際に行った作業に関する東電の報告書も公開された。

 それによると、津波の高さ5・7メートルまでの対策しか取っておらず、外部電源や非常用電源など
全電源の喪失までは想定していなかった。

 このため、電源喪失後は中央制御室での監視や操作が不能になり、手順書はほとんど役に立たなかった。

 問題なのは、東電は事故前に、対策を上回る津波を想定しながら、対応してこなかったことだ。

 2008年春に、明治三陸地震(1896年)と同規模の地震が福島県沖で起きたと想定。津波の高さが、
今回とほぼ同じ最大15・7メートルになるとの試算をしていた。

 手順書を見直していれば、被害がここまで広がらなかった可能性がある。なぜ、試算が反映されなかったのか、東電は説明するべきだ。

 事故発生時期にも疑問が残る。もともと衆院特別委が手順書を請求したのは、福島第1原発の元設計技師の指摘が発端だった。

 津波の前に地震の揺れで、事故時に原子炉を冷却する非常用復水器の配管に破損が起こり、大規模事故につながったとする内容だ。

 もし地震が原因とすれば、前提が崩れることになる。

 電力各社が再稼働に向けて進めている原発の安全評価や、津波対策の行方に影響が出るだろう。耐震設計のあり方も抜本的に見直さなければならない。

 東電は、津波による電源喪失を原因と説明している。報告書でも「復水器の停止操作をした」としか触れておらず、破損があったかどうか、真相を究明する必要がある。

 衆院特別委は、国会に設置される事故調査委員会で手順書について検証する方針だ。事故の原因も幅広い議論を期待したい。】

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