内閣府による口封じに抗議する(小野盛司)
(※日本経済復活の会  小野盛司会長の記事、第102弾です)


 国の借金が増えたから、日本経済は今にも破産しそうだという珍説がある。何年か前、そういった説を唱えるブログに私が入り込んで徹底的に反論したことがある。そうしたら、大混乱が起き、これではブログが維持できないから、小野さんは別なところで反論してくれと泣きつかれた。白旗を揚げたのだ。

 本当に日本政府は愚かというしかない。国の借金が気になってしょうがないのなら、日銀が借金を買い取れば、簡単に解決することなのだから。バーナンキFRB議長やノーベル経済学賞を受賞したクラインやサミュエルソン氏などは口を揃えて、日銀に国の借金を買い取らせよと言っている。

 私は、どうしても国家破産説を唱えている思考構造が理解できない。どこで間違えているのか調べてみようと思い、一冊本を買ってきて読んでみた。著者は通貨発行権の事は知っているようだ。彼の主張は、日本は間もなく国家破綻をする。通貨発行権を行使すれば、ハイパーインフレになり、国債が紙くずになり、国民の金融財産が一挙に失われるという説のようだ。マクロ経済が全く理解できない悲しさだ。テレビに出演する解説者も、同様なレベルなのだろう。それではお金を少し刷ったらどうなるのかと聞けば、きっと彼は「少しぐらいでは全く効果がない」と答えるに違いない。では刷るお金を徐々に増やしていったらどうなるかと聞けばどう答えるか。あるところで一気にハイパーインフレになると答えるだろう。つまり、世界中たいていの国で1~3%程度のインフレ率を実現しているが、日本だけはデフレかハイパーインフレしか絶対にあり得ないのだ。

 どうしてそうなのか。それは国家破産と言わなければ、彼の本は売れないし世間は注目してくれない。名前を売るには、どうしても国民を恐怖に陥れる必要があるのだ。オーム真理教もそうだった。ハルマゲドンで信者を脅し、金を巻き上げた。

 適度なレベルの財政出動が日本を救うという計量経済学の結論を教えても、全く彼には理解できないのだろう。第一、財政出動の規模が少ないときは、全く効果が無く、ある程度財政出動の規模が大きくなったとき突然ハイパーインフレになるという経済モデルは作ることはできないし、全く現実離れしている。ハイパーインフレ説を唱える人は、計量経済学が全く理解できない人だ。残念ながら、こういった愚かな人たちによって世論が間違えた方向に誘導され、それが日本経済の衰退につながっている。1989年末には株式時価総額で14もの日本企業が世界20位までに入っていた。今日の日経によれば、現在の最高はトヨタの21位だそうだから、20位までに入っている日本企業はいなくなった。

 政府は一見するとこの愚かな連中と同様な主張のように見えて全く異なる見解を持つ。政府は国債を売っている立場だから、国家破産など絶対に言えない。しかし増税と歳出削減を主張したいために、「財政が厳しい」と言い、一方で国債を売りたいから国債は100%安全であり国家破産は100%無いと言う。では、誰も国債を買わなくなったらどうするのかと聞けば「最悪の場合は日銀に買ってもらう」とは答えないが、本音ではそう思っている。口をすべらして本音が出たら、きっと国民から、日銀に買ってもらえるなら財政は厳しくないではないかと言われるに違いないから大変だ。本音が言えない苦しい立場では、結局、財政出動をしても効果がないが、財政出動をしなくても、一気に景気がよくなるという、現実離れをしてインチキ経済モデルを国民に提示せざるを得なかった。そして「2011年度に基礎的財政収支を黒字化」という非現実的な国家目標を掲げることになった。

 私は、内閣府のモデルが如何にインチキであるかを分かりやすく説明し、質問主意書という形等で徹底的に追求した。マクロ経済モデルの専門家の集まる研究会が日本経済研究センターで開かれている。昨年私は、それに参加した。内閣府からも出席者があり、彼らのモデルの説明があり、私はそのモデルに対する疑問点を指摘した。どうやら私の追求は、内閣府には相当こたえたらしい。今年は内閣府が研究会の主催者に対し「小野盛司を参加させるな」という命令があったようだ。私は出席を許されなかった。これは憲法に保障された言論の自由を奪うものであり、厳重に抗議する。小野盛司の口封じをして、それで日本経済が良くなると言うのだろうか。内閣府が自らの経済モデルが正しいと思うなら、このような手段で言論の自由を奪うのでなく、堂々と反論すればよいではないか。質問主意書の答弁書はいつも「誤差が大きいので使い物にならない」というだけだ。使い物にならないような経済モデルを使って「2011年度基礎的財政収支黒字化」というような、とんでもない国家目標を作ったのはどう考えてもおかしい。

 本日(7月27日)TBSの時事放談でも民主党の岡田克也氏がこの事に関して間違えた見解を述べていた。政府の方針は

①まず2011年度に基礎的財政収支の黒字化を実現する。
②その後で、国の債務のGDP比を下げていく。

 である。寝ぼけ眼でテレビを見ていたので正確かどうか分からないが岡田氏は「黒字化は歳出削減をしても、やるべきだと思う。しかし、国の債務の GDP比を下げるところまでは、歳出削減だけでできるかどうか分からない。増税が必要になるかもしれない。」と言ったように思う。ほとんどの政治家と経済評論家は同様な事を言う。これはマクロ経済を全く知らないことを証明している。つまり②は①より難しいと考えているようだ。

 これは完全な間違いである。国の債務のGDP比を下げることは基礎的財政収支の黒字化の後でないとできないと勘違いしているからお笑いだ。しかし、すでに国の債務のGDP比は下がりつつある。内閣府のモデルでも、この傾向は今後数年間続くという結論を出しているのだ。これだけ重要なことを、次回の民主党の党首になるかもしれない人が知らないとは!!更に重要なことは、基礎的財政収支を黒字化しようとして歳出削減をすると国の債務のGDP比が逆に増えることが内閣府のモデルで示されている。それから、2011年度に基礎的財政収支の黒字化が実現しそうな幻想を与えているのは、単に内閣府のモデルが大本営発表であって、国民を騙すためにそのように作られているからに過ぎず、2011年度が近づくにつれ、徐々にその馬脚が現れつつあることはすでに述べた通りだ。

 政治家も経済評論家も是非これらのことを勉強して欲しい。真実を隠すために小野盛司の口封じをするだけでよいのか。本当に日本経済を復活させるには何をすべきか、今こそ真剣に考えていただきたいと思う。本来なら、マクロモデルを研究している専門家が内閣府のモデルを自由に批判できる環境が望ましい。しかし、そのような専門家はシンクタンクに属しているし、それらのシンクタンクには政府から調査研究費として多額の現金が流れており、少しでも批判をしようものなら、ばっさり金の流れを着られてしまう。つまり、政府のモデルがインチキだと知っていながら、全く批判ができない、つまり言論の自由を奪われているのが現状だ。日本経済を復活させるには、言論の自由を取り戻し政府による口封じを止めさせなければならない。


http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2008/07/post_92ac.html


基礎的財政収支の黒字化見通しに暗雲 -内閣府モデルに騙され続ける政府-(小野盛司)

(※日本経済復活の会  小野盛司会長の記事、第101弾です)


 本日(7月23日)の新聞各紙には、「2011年度に基礎的財政収支の黒字化」という政府目標が厳しくなったと伝えている。それでも日経新聞は「黒字化の旗を降ろすな」などと馬鹿なことを言っている。この目標こそが、日本経済を急激に衰退させ国民を苦しめているものであり諸悪の根源なのだ。財政収支の黒字化と言えば、如何にも良いことのように聞こえるが、デフレ下においてこれほど害になる政策はない。デフレでお金が足りなくて国民が困っている時に、財政収支黒字化のために、増税で国民から金を取り上げ、歳出削減で国民に渡すべきお金を渡さない。

 どうしてこのような世界にも例を見ない最悪の国家目標を掲げてしまったのだろうか。これは小泉内閣が終わりに近づいた2006年7月に閣議決定されている。小泉首相は自分の在任中に経済成長を高めデフレを脱却すると言っていた。構造改革なくして景気回復無しというのが元々の彼のキャッチであったが、デフレすら脱却できないのでは、景気回復とは言えないし、結局構造改革が失敗したことになるから、デフレはどうしても脱却したかったのだろう。デフレ脱却は積極財政を行っていたら簡単にできたのに彼は緊縮財政を続けて、デフレ脱却に失敗した。すさまじい外需の後押しがありながら失敗したのだ。あれだけの猛烈な追い風が増えていれば、何もしなくても大変な好景気になっていたのに、彼は緊縮財政で常に景気にブレーキをかけ続けていた。その結果世界経済の中で日本がみるみるしぼんでしまい、経済では一流でないと大臣が言うまでに堕ちてしまった。

 小泉氏の最後の置きみやげが2011年度に基礎的財政収支の黒字化という国家目標だった。成長率を高め、デフレを脱却し、国の借金を返すという彼の目標は何一つ達成されなかったのだが、せめて「2011年度に基礎的財政収支の黒字化を」という目標くらい立てておけば、彼の後継者がやってくれるだろうと思ったのだろう。これが計量モデルを理解できない小泉氏の悲しさだ。なぜ2011年なのかと言えば、2006年度に発表された内閣府のモデルでは2011年に財政収支が黒字化すると予測していたからだ。しかし、ここに落とし穴があった。内閣府のモデルは、このままの政策を続ければ、あっという間に景気がよくなり、財政も改善しますよという大本営発表をするためのモデルだったのだ。国民を騙すために作られたインチキモデルであることを小泉氏も理解していなかった。このことは以前も説明した。念のため再度下の図に示す。このモデルでは1~2年でデフレーターはプラスになってデフレ脱却し景気回復することになっているが、現実はいつまで経ってもデフレは続いていっていることが分かる。





 このモデルは国民だけでなく、何と小泉氏までも騙してしまった。本当は緊縮財政を続けていたら、デフレはいつまで経っても脱却できないし、当然財政収支など黒字化するわけがない。当然のことながら、発表のたびに2011年度基礎的財政収支の黒字化見通しは厳しくなる。このモデルは大本営発表にすぎないのだから、そんなことは初めから分かっていたのだ。実際に内閣府の発表で見通しがどんどん暗くなっている様子を書いてみよう。

①2006年7月の閣議決定    (対GDP比)
  歳出削減がなくても2011年度に基礎的財政収支を黒字化する
         国 0.8%赤字  地方 0.8%黒字
         合計  0.0%
②2007年1月
  14.3兆円の歳出削減を行えば
         国 1.2%赤字  地方 1.5%黒字
         合計  0.2%黒字
③2008年1月
  14.3兆円の歳出削減を行っても
         国 1.4%赤字  地方 1.3%黒字
         合計  0.1%赤字
④2008年7月
  14.3兆円の歳出削減を行っても
         合計  0.7%赤字

 お分かりだろうか。2006年度には歳出削減も増税もなくても2011年度には基礎的財政収支は黒字化するというのが、このモデルの予測だったのに今月の発表は14.3兆円の歳出削減を行ってもまだGDP比で0.7%の赤字ということだ。もちろんこれは大本営発表にすぎず、時間が経つにつれて嘘がバレる運命にあった。それは上のグラフでもはっきり分かる。政府が今の緊縮財政を続けている限り、国民の生活を苦しめ、経済を悪化させ、財政健全化など出来るわけがない。政府がやらなければならないのは、景気対策(これはお金を刷って国民に渡す政策だ)である。そうすれば、あっという間に財政再建も財政収支の黒字化も実現する。インチキモデルに振り回されるのを止め、真に国民のための政策を行っていただきたい。今日の日経には、国民新党がマニュフェストに16兆円の景気対策を提言するとある。国民の事、経済の事を考えてくれている政党もいるのである。


http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2008/07/post_58c1.html