逢着♯4
左の胸元に、
小さく赤い薔薇が描かれている。
清楚な感じの彼女には
似つかわしくないな・・・
と僕はそれをぼんやりと見つめていた・・・・
下着姿になった彼女が、
僕をもう一度ベッドに座らせる。
「失礼します。」
とつぶやいて、ひざの上に乗った。
頬に残る涙の痕。
目を閉じ、唇が近づく・・・・・
僕は顔をそむけて,
そのまま彼女を抱いた・・・・
「いいよ・・・何もしなくて。」
「え・・?」
「僕、今日そういうつもりで来たんじゃないんだ。
牧原に意味も分からず連れてこられて、気が付いたこうなってた。
だから、君が嫌だとかそういうわけじゃないよ。
何もしなくていい。」
「え・・・でも・・・・」
耳元で、困惑した声でささやく彼女・・・
思わず反応してしまいそうになり、
僕は慌てて質問する。
「あ・・・彩矢さんって言ったっけ?今日、はじめてのお仕事なの?」
「はい・・・だから、どうしたらいいのかよくわからなくて、
怒らせてしまったんだと思って・・・・ごめんなさい。」
僕は彼女を立たせて、床に落ちた服を手渡した。
「目のやり場に困るんで、着てください。」
彼女は少しびっくりした顔をして、
そしてうふふと笑った。
「な・・・何かおかしい?」
「いえ・・・うふふ・・・ごめんなさい。なんか・・・
よかったなと思って・・・」
「え?何が?」
「はじめてのお客様が、優しい人で・・・。
あ・・・でもお仕事しなくていい人だったからとかそういう意味じゃないんですよ・・・」
僕に背を向け、ゆっくりとドレスを着る彼女。
僕はドキドキしていた。
「あ・・・・したくなったらいつでも言ってください・・」
「大丈夫。したくならない・・・てか・・・しちゃいけない・・・。」
そんな受け答えしかできない僕に、
彼女はまたうふふと笑った。
逢着♯3
「あ・・・玄関じゃなんですから・・・」
とその場から動けないでいる僕に、優しく微笑む彼女。
すっと僕の手を取り、奥のベッドへと促した。
「今日はおひとりですか?」
「いや・・あの、友達が・・」
「もしかして、牧原さんですか?」
「あ・・・そう。そうです。」
彼女はふっと笑い、
「サヤカちゃんに今、相当お熱みたいで。
ほぼ毎日いらっしゃってるそうです。」
「へ・・・へえ・・・そうなんですか。」
伏し目がちに微笑む仕草。
綺麗な鎖骨のライン・・・・
誰かに似ている・・・・
「あ・・・ごめんなさい。何か飲まれますか?」
じっと見つめていた僕に気づき、彼女が立ち上がる。
「あ・・じゃあ・・お水を・・・」
「お酒じゃなくてよろしいんですか?」
「ええ・・・もうたらふく飲んだので・・・」
くすっと笑って、冷蔵庫へと向かう後姿・・・・
数日前に見た光景・・・・
僕は、こうして同じようにベッドの上にいた・・・
・・・・・
・・・・・
そうか・・・
可奈・・・・
可奈だ。
可奈に似ているんだ・・・・
「どうぞ。」
と僕に水を手渡し、寄り添うように横へ座る彼女。
僕は罪悪感でいっぱいになっていた。
無言のまま、一気にそれを飲み干す。
帰ろう。
もう帰ろう。
でも、牧原は知ってて僕にこの子をあてがったのだろうか?
どうしてだ?
嫌がらせか???
黙ったままの僕に心配そうに彼女が言う。
「大丈夫ですか?具合でも悪いですか?」
僕は勢いよく立ち上がり、
「いえ・・・もう帰ります。」
と足元におかれた鞄に手を伸ばした。
「あ・・・・ごめんなさい・・・あの・・・」
と、突然、彼女が泣きだした。
「え・・・?なんで・・泣いて・・・・?」
「ごめんなさい・・・あのほんと、今日がはじめての出勤で・・
どうしたらいいかわからなくて・・・」
黒目がちな目からあふれる大粒の涙。
「違う。違うよ・・・君のせいじゃないんだ。僕が・・・」
「ごめんなさい・・・すぐ用意します・・・」
そして彼女はおもむろに立ち上がり、
青いドレスを脱いだ・・・
逢着♯2
もう終電もなくなるというのに、
歌舞伎町は昼のように明るい。
僕は、ネオンの光に思わず目を細めた。
牧原は、細い路地を抜け、どんどん歩いていく。
どれくらい歩いたろうか・・・
普通のマンションのような入口で、
彼はやっと足を止めた。
「何ここ?」
「知り合いの店。俺のおごりだ。行こうぜ。」
「おい。何の店だよ?」
牧原は答えない。
僕に中へ入るようにうながす。
「帰るよ。もう遅いし。」
「今日で終わりだ。そうだろ?結婚したらこんなに遅くまで遊んでいられやしない。」
そういって牧原は、携帯で電話をかけた。
しばらくして、入口の自動ドアが開く。
「おい・・・何の店だよ?」
「来ればわかるって。」
僕らはエレベーターに乗り、最上階へと向かった。
「ここって、マンションなんだろ?」
「多分な。」
「多分ってなんなんだよ。」
「行けばわかるって。」
エレベーターが開くと、そこにはスーツ姿の男が立っていた。
「いらっしゃいませ。
牧原様は、903号室です。
そしてお客様は905号室になります。
ごゆっくりおくつろぎくださいませ・・・・」
といって、それぞれにキーを渡すと、
そのままエレベータに乗って行ってしまった。
「じゃあな。」
と牧原が、僕に手を振る。
「おい。待てよ。なんなんだよ。」
「行ってみりゃわかるって何度も言ってるだろ。
俺からのプレゼントだ。おやすみ。」
そういって、彼は指定された部屋に入っていった。
残された僕は、どうすることもできず、
渡されたキーで、部屋に入るしかなかった。
恐る恐るドアを開けると。
中は普通の1LDKで。
ホテルのような内装になっている。
「どこが店なんだ?ホテルじゃないか。」
訳がわからない。
「なんだよ・・・あいつ・・・」
牧原の部屋に行こうと後ろを振り返ると・・・・
「こんばんわ。」
ドアの前に、女性が立っていた。
「え・・・・?」
「あ・・・どちらかにお出かけでしょうか・・・?」
「え?いや・・・あの・・その・・・」
歳は僕よりも少し若いくらいだろうか。
肩までの黒髪に、青いビロードのドレス・・・・
「あ・・・お嫌でしたら・・・他の子と変わることも・・・」
「え?あ?いや・・・そういうんじゃないんだ。」
面影が、誰かと似ている・・・
「私で大丈夫ですか・・・?」
「あ・・・・え?はい。」
誰だろう・・・誰かと似てるんだ・・・・・
「彩矢です。よろしくお願いします。」
そういって彼女は、ドアを閉めた・・・・
