徹くんと日高くんがケンカした事は月曜日の朝
登校すると学校中に広まっていて
それまで自ら遠ざけてた筈の日高くんを皆んな
からも何となく遠ざける様になった
誰に話しかけられても返事もしない
誰にも心を許さない
誰も近づけないし、近づかない
あんなに皆んなに囲まれてた人が、ただ1人で
誰も寄せ付けず、誰も寄り付かずいる
私や徹くんに、何か言ってくる事も無くなった
けど…
ずっと笑顔の奥に隠れてた、あの寂しそうな顔
が胸を締め付ける
放課後皆んなが教室を出てっても、いつも1人
座ったまま窓の外を見てる
その姿が、どうしても気になって目で追ってし
まう
このままで本当にいいのかな…
「おーい岩岡!お前プリント提出してねーぞ」
「Σあ!忘れてたっ!!」
「今日中に出さないとサッカー部入部決定な」
「はっ?!何それ、超職権乱用じゃん」
廊下から教室を覗くサッカー部の顧問の先生に
足をジタバタする徹くんに周りから可愛いって
声が上がる
「ゴメン千晃、ちょっと待っててくれる?」
「うん、平気だよ」
慌てて先生を追いかける徹くんに続いて、少し
づつ人の居なくなってく教室
散らかったままの徹くんの席を片付けて、顔を
上げると
その空間には2人だけになってた
どうしよ…
本当は仲直りしたいんじゃないのかな…
だって、あんな毎日の様に一緒にいたんだもん
徹くんだって本当はきっと…
外を見ていた大きな瞳が、ゆっくりとこちらを
向く
視線が交わる
あんなにヒドイ事されたのに
あんなにヒドイ事言われたのに
目を逸らせない
まるで、すがる様なその瞳に吸い込まれる
「千晃」
「!」
「お待たせ、帰ろ?」
「う、うん」
呼びかける、徹くんの目を真直ぐ見る事が出来
なかった
こんなにも、優しくて
こんなにも、真直ぐで
こんなにも、好きなのに
日高くんの事が気になってたなんて知られたく
なくて
後ろめたくて、見つめ返す事が出来なかった
忘れてたプリントを渡したのに、しつこく部活
入れって勧誘してくる先生の話を何とか遮って
帰る奴らを逆流しながら、千晃の待つ3階まで
一気に駆け上がる
「お!いたいた!!岩岡!助けろ!」
「は?!」
さっき振り切った筈の先生が又追いかけて来る
最近どっかでサッカー経験者だって聞きつけて
入部しろってシツコク勧誘してくる
正直、今でもサッカーは好きだけど
今更、部活に入ってまでの情熱は俺の中で既に
なくなってる
それに、今はサッカーより千晃と一緒にいる方
のが俺にとっては大事なんだ
「まあまあ、良いからチョット来てくれよ」
「え、ヤダし!俺、デートだし」
肩に組まれた腕を何とか振りほどく
「いいよな、伊藤、な?な?」
「え、えっと…」
「つ~か、何なの?俺サッカー部入んないって
言ったじゃん」
「イヤイヤ、今度はそっちじゃないんだって!
あのな、練習試合で相手の高校が来てんだけど
さ〜」
「じゃあ、こんな所いちゃだめじゃん」
「そこなんだよ~!今日3年と1年が遠足なの
すっかり忘れててさ~、人数足んなくて試合が
できねんだよ、コレが」
「う~わ教師失格」
「あ~何とでもいってくれ(泣)」
「だから、な!岩岡ちょっと出てくれ!」
「はっ?!Σ(・ω・;」
「頼むよ~もう、今更人数足りないから帰って
くださいとか言えねえしさ~」
「言えよ!ヤダし!そんなん」
「伊藤~お前からも言ってくれよ~」
先生に泣き疲れた千晃の困った様な笑顔が見上
げる
「先生…困ってるみたいだし」
「え~でも、せっかく…」
「私も徹くんサッカーしてるトコ見たいし」
「え?見たい?(。・ω・。)」
「うん…見たい///」
「…千晃が、そう言うなら」
「よっし!行くぞ!」
「Σちょ、今イイとこ!!」
強引に肩を組まれたまま部室へと引っ張られる
「お~い!!入部希望者来たぞ!」
「話違うし!!∑(๑°口°ll๑)」
懐かしい感覚のユニホームに着替えてグランド
に出るといつもの笑顔がネットの向こうにいる
全力で大きく手を振ると遠慮がちに小さく振り
返す
「千晃の為にゴール決めるね~!٩(*>▽<*)۶」
「Σ?!///////」
どんなに、滑稽だってかまわない
千晃が笑ってくれるなら
千晃が俺の隣にいてくれるなら
いくらだって、バカになるよ
俺を…好きだよね?