たばこは嫌いだった。
子供の頃周りの大人がたばこを吸うと、なるべく離れることにしていた。
小学校一年生の時、母が家出した。家を出る前に、いい子にしてて、お金貯めたら迎えに来るから的なことを言っていた。
当時の私はなぜかそれがいいと理解できた。
父が母に暴力を振る舞うシーンを何回も目撃したから。
泣くことしかでき自分は母の家出を承諾した。
嫌だ!行かないで!などは言わなかった。偉いなって今でも思う。
そのあと母は月一のペースで学校に会いに来てくれた。
母は22歳で私を産んで、しかも綺麗だった。
学校に来るとき、必ずたくさんのお菓子を買って、クラスメート全員に分け合っていた。
そのあと同級生たちのよくお母さん綺麗だねってよく言われた。
私はそれで嬉しくて自慢だった。
母が家出してから、ある日急に迎えに来てくれた。
もっと正しく言うと私を連行した。
どんな方法で、場所は学校か家かは詳しくは覚えていないが、
そのあとは一年くらい母の実家で暮らしていた。
おばあちゃんちんに行くのは初めてだった。
それまでおばあちゃんの存在など考えたこともなかった。
そしてそこで母は五人兄弟のことも初めて知った。
一番上が母で、二番目はおじさん、三番目おばさんとういう女男女男女の順番だった。
その一年間で母側の親戚や家族など全員初対面だった。
母側の人たちはみんな世間から見ても正しい人間ばかりだった。
おじいさんたちは公務員で上のおばさんは国家研究所の研究員、下のおばさんは看護師だった。
当時は自分が生きてきた世界とは違う人間だってことは何もわからなかった。
父はヤクザ、幼稚園の時工事現場で働いた。そして工事現場の何階からは覚えていないが、落ちて入院した。
記憶も一時になくして、脳中卒もあったようで、あまり覚えてはいないが
そのあと漢方薬や民俗療法で完治した。先生も奇跡だと嘆いでいたようだった。
ただあれ以来お父さんは何かちゃんとした仕事に就いた記憶はない。
父の弟は酒癖が悪くて、いつも酔うと私に構ってくる人だった。深夜でも私を起こしてそうしていた。
ドアを開けないとドアを叩いて怒鳴ってもいた。
まともに働いている時期も少なかった。
兄と姉も一緒には住んでいないが、まともな仕事はやっていないらしかった。
こういう家庭で育った自分はおばあちゃんちんの人たちに疑問を何も感じなかった。
小学校一年生の自分は大人しかった。
大人が子供はまだわからないだろうと思っていることはほとんどわかっていた。
そんないいひとばっかの家庭内で煙草を吸う人は見たことなかった。
大人になってから二番目のおじさんは喫煙者であることを知った。
たばこを吸わない人ばかりではなくて、子供の前で決してたばこを吸わないだけだった。
ごく当たり前のことかもしれないが、自分の実家ではありえなかった。
大人は平気で子供たちの前ですぱすぱ、そして父の友達たちもそうだった。
類は友を呼ぶのは本当だ。
そして一年ぐらい経って自分はお父さんの家に戻って暮らしていた。
母は昔のようにたまにこっそり学校に見に来てくれていた。
挨拶は大事だ。
家に帰るとお父さんの友達や親戚がいると、大人に言われる前に挨拶すれば、褒められる。
お父さんはいつも満更ではない感じだった。
ただもしたばこを吸っていたら、挨拶を済ませてすぐ自分の部屋に戻る確かこんな子供だった。
そして今31歳ヘビースモーカである。
初めてたばこを吸ったのは22歳だった。
特に理由もなく、旅行で大学の友達と台湾の一番南の海のリゾート地の時だった。
一晩中眠れなくて、外出て散歩しようと思って、若干肌寒いので友達のジャケットを取り、海辺で散歩していた。
そのポケットの中にブラックデビルのたばことライターがあったから、
なんとなく吸うことにした。
初めてのたばこむせるとかは聞いたことはあったが、自分は何もなかった。
ごく自然に肺に吸い込み、そして吹かしていた。
これはたばこなんだ。たばこのにおい以外、梅のにおいがした。
あれからたばこを吸ったり、吸わなかったりして、吸う習慣が付いたのはたぶん24か25の時だと思う。
喫煙者であることは特に何も思わなかった。
当時吸わなければよかったとか、やめられるならやめるとか、正直どっちもどうでもいいのだ。
吸いたければ吸えばいい、やめたければやめればいいとしか思っていない。
今目の前に風邪を引いた友達がいれば、しばらく吸うのをやめようよは言うけど、
がんの末期の人が目の前にいて、タバコ吸いたいって言われたら、たぶん渡す。
だって最後だから、好きなことをやったほうが正だと思う。
たばこを吸うと、リラックスとか疲労が減るとかは実感はしたことない。
ただ現実拒否したいときは無性に吸いたくなる。
そうだ、吸えばいいんだ。別に何がいいとか何もないけど。
ただ何かをしなくちゃいけない時のひとつの手段に過ぎない。
楽しく生きることだけは、心がけている。
それでいいんだ。