人生の終わりに 宝 だと思えるものは
何でしょうか。


自分は何がほしいのかも
今はまだ わからないまま

女房ねずみの物語が始まります。



挿し絵もモノクロで
控えめな絵本です。

読み始めの一文から石井桃子さんの訳が
物語の世界に心地よくいざなってくれます。



ウィルキンソンさんのお屋敷に住む
めすねずみはは家ねずみ なので
家の中が全世界なのです。

家のまわりの庭や森すら遠い世界です。

窓ガラスにひげを押し付けて
外の世界に憧れます。

夫のおすねずみは、そうではなく
「おまえも どうしてチーズのことを
        考えておれんのかね?」と。


チーズを食べすぎて寝込んでいる夫に代わり
一人で食べものを集めたり
家事をこなさなければなりません。
考えごとをする暇などありません。



そんなある日
男の子に捕らえられた、きじばとが
やって来ます。

優雅な鳥籠の中で飼われます。


きじばとは餌を食べません。

めすねずみは鳥籠に入って
餌の豆を持って帰るようになります。


鳩は水も飲まないので女房ねずみが心配すると
鳥籠の水ではなくて 草や葉の上の つゆ が
飲みたいと‥。

つゆ がわからない女房ねずみに
鳩は
つゆ のこと
つれあいのめすばと のこと
森のこと などを話してやります。


    「飛ぶって、どんなこと?」
      
      
狭い世界しか知らない女房ねずみの言葉が
切ないです。


教えてやりたいけど
籠は狭すぎて
鳩は顔を胸にうずめます。



めすねずみは豆を食べない鳩を案じて
パン屑を運びながら
鳩から毎日、窓の外の話を聴きます。


狭くて低い所を走り回っているだけだった
めすねずみは

         もっと話して!

      と言わずにはいられませんでした。



ある めでたい日に
めすねずみは子どもを産みます。

赤ん坊を可愛がりながら
忙しい毎日を一人でこなします。



ある時
鳩の事が気になりだして
赤ん坊達を注意深くくるみ
鳩のいる窓じきいに登っていくと

鳩は弱り果てていました。


       鳩はめすねずみをだくようにし
            くちばしでキスをしました。


めすねずみは餌を食べていなかった鳩を
叱るふりをしながらも泣きます。

         ひげのさきには鳩のために流した涙が

         ねずみの涙は粟の種のように見えます。


見えますか?



籠の中にとらわれている鳩を
ねずみおとし に もし自分が囚われたなら と

ねずみ流 に考えて‥ の


         あのはと 籠の中に いちゃいけないんだ


石井桃子さんの日本語訳、一つひとつが
とても物語と合うのです。




めすねずみは寝床を抜け出します。


     こうこうと月のさす夜でした。


昨夜の美しい満月を思い出し
曇りだった今日はこの絵本がとても
心に添います。


      めすねずみは
          窓が開いている事に気づきました。




          

           私 あの戸をあけてみよう。



めすねずみは鳥籠に飛びついて
留め金をくわえてぶら下がり戸を開けます。






鳩は翼を広げて窓の外に。



      あれが 飛ぶ っていうことなんだわ



初めて窓の外を見る めすねずみは
目の中に 粟の種ほどの涙を宿しています。



初めて 星 を見ました。

最初は新品のボタンと間違えました。


    私 見たんだもの。
    鳩に話してもらわなくても
    私、自分で見たんだもの
    自分の力で見ることができるんだわ


初めての窓の外
夜空の星にまんまるいお月様を
窓の桟に手を置き見つめる挿し絵が
本当に美しいです。


年よりねずみになっても
めすねずみには
あの夜見た夜空は
かけがえのないもののようです。



知らない世界を教えてくれる鳩と
話しているうちに
それだけでも
めすねずみの 世界 は変わり広がりました。

物の見方や感じ方が変わりました。

出来ない と思っていたことを
どうしたら できるだろう
と考え 無我夢中で精一杯の行動に出ました。

その時見た 景色 は
生涯の宝となりました。

こんな 物語 を ひとつ 知っていると
人生が豊かになりますね。

子ども時代にこの物語を読むことは
物語との再会 も 含めての出会い。

それぞれの胸に深く響きます。



私も ものを考える 時間、余裕、
何より 勇気 がなかった時間を
長く過ごしました。

それを悔やみました。

その 後悔 は自分の 悲しみ でしたが
その 後悔 は 豊かな 時 
へとつなぐ事もできると知りました。

見ないように
考えないようにして
何もしない 変えない 方が おそろしい ことも。


勇気を絞り出して
もう後悔に苛まれないように

見たことのない 景色や美しいものを見て
会いたい人に会い
伝えたいものを携えて
知らない世界に挑んでいます。


これからの出会いを楽しみに
再会を重ねられるしあわせを宝物に。

朗らかな絵本も
深い味わいの絵本も
読みあえるのを楽しみにしています。

知らない世界 に つながってみてください。





作者のルーマー ゴッデンはイギリス生まれで
幼い頃をインドで過ごし再びイギリスに。

大人になってからバレエを学び
インドでバレエ学校を開設したのも
私は心惹かれます。


原作はドロシー ワーズワスの日記の物語で
ねずみは鳩を出してやらなかったそう。

出してやらなくては と思い
できた物語だとか。
優しいなぁって思います。




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