人命の重さを忘れてはいけない | 欧州野球狂の詩

欧州野球狂の詩

日本生まれイギリス育ちの野球マニアが、第2の故郷ヨーロッパの野球や自分の好きな音楽などについて、ざっくばらんな口調で熱く語ります♪

 今日の昼から、世間は北朝鮮の金正日総書記(享年69)の訃報に、騒然とした状況になっている。死因は過労だとか心筋梗塞だとか、実は2日前に既に死んでたとか、色々な情報が飛び交っているけれど、何はともあれ死亡したというのは確かな事実らしい。「死者に鞭打つ行為をするな」という声もあるかもしれないけれど、何の罪もない多くの日本人を拉致し、その家族を理不尽な悲しみのどん底に突き落とした張本人であるだけに、素直に「ご愁傷様でした」と口にはできないのが、俺自身の正直な心境だ。


 そのニュースの陰でもう1つ、悲しむべき事件が発生した。以下のリンクは、毎日新聞が報じた記事だ。


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111219-00000045-mai-soci


 簡単に概要を説明すると、青森山田高校の1年生部員が、昨日深夜に野球部の寮内で意識不明の状態になり、病院に運ばれたものの死亡した、というもの。死因など、詳しい事情はまだ分かってはいないものの、関係者の証言によると、どうも上級生による暴行があった可能性があるらしい。本格的な捜査はこれからだそうだけど、何とも痛ましい話だ。もちろん本人の親御さんや、美斉津忠也監督とは何ら面識はないけれど、謹んで哀悼の意を表したいと思う。


 それと同時に、今回こうした事件を起こした上級生本人や、結果的に管理責任を怠った青森山田野球部には、非常に重い責任を課すべきだと思う。どんな理由があれ、人の命が誰かの手によって奪われるということは、決して許されることじゃない。まして、仮にもスポーツを通じた人間教育を、(たとえ建前であろうと)目的としている学生スポーツの世界で、部員が同じチームの一員の手によって殺されるなんてことは、絶対に起こってはいけないことなんだ。超えてはいけない一線を超えてしまった彼らは、最悪の場合部の解散まで含めた処分をも、覚悟すべきだろう。


 俺自身は高校で野球をやってないので、リアルな内情までは肌感覚では分からないけれど、高校野球部における部員の上下関係は、今でも非常に厳しい面があると聞く。まして、春夏合わせて11回甲子園に出場している、青森山田のような強豪校ならなおさらだろう。「一年:奴隷 二年:平民 三年:神」なんて序列は、とっくの昔に消滅したと思ってたけど、もしかしたら実際にはそうじゃないのかもしれない。何はともあれ、下級生が上級生に対して、面と向かってたてつく(例え、その主張の内容が正しかったとしても)ことは、まだ難しいようなチームも少なくはないんだろう。


 しかしだからといって、上級生が下級生のことを奴隷扱いしたり、まして暴力をふるったりなんて真似が、許されていいはずがない。そもそも、たかが年が2つ違うだけの分際で、何を思い上がってるんだと言いたい。甲子園のような大きな大会に勝利するためには、確かにチーム内における、最低限の規律は必要かもしれない。けどそれは少なくとも、部員同士のリスペクトに基づいて成り立つべきものであって、上級生が下級生を暴力や恐怖で支配する、という類の物であってはいけないんだ。人道的に許されることではないし、純粋に組織のマネジメント手法として見ても最悪だと思う。


 もし「スポーツに暴力はつきもの」と考えてるような奴がいるなら、そいつは今すぐに、頭の中の常識を書き換えるべきだ。例えスポーツであろうがなかろうが、暴力なんてのは許されるもんじゃないんだよ。もちろん、例外が全くないとまでは言わない。例えば政治的な問題であれば、時には暴力に訴えざるを得ない時だってあるとは思う。でもその場合であっても、あくまで文字通りの最終手段であるべきだし、「圧政に対する抵抗」の範疇でないといけない。暴力自体が、圧制を目的としたものであっちゃダメなんだ。少なくとも、今回の青森山田のケースは間違いなく後者だろう。


 今回こうしたことが起きてしまったのは、非常に残念だ。青森山田高校野球部がもしなくなってしまうなら、それは一高校野球ファンとしては大きな損失だけど、結果としてこのような沙汰を止められなかったことに関しては、一切同情の余地はない。野球の試合は、27のアウトを重ねれば終わるけど、人生におけるアウトカウントは1つしかないんだ。これから先、野球部の全ての関係者たちには、大切なチームメートの命を奪ってしまったという、重い十字架を背負いながら生きてもらいたい。そして、もちろん他の学校も含めて、二度とこのような悲劇が起こらないようにしてもらいたいと切に願う。それが、不幸にもなくなってしまった部員に対する、せめてもの償いだと思うから。