アメリカ人投手が語る、南アフリカの野球事情 | 欧州野球狂の詩

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日本生まれイギリス育ちの野球マニアが、第2の故郷ヨーロッパの野球や自分の好きな音楽などについて、ざっくばらんな口調で熱く語ります♪

 ヨーロッパ野球とは直接関係はないんですが、1つ興味を持った話題があるので紹介します。現在、チェコ・エクストラリーグのオストラヴァ・アローズでプレーしているアメリカ人投手、ゲーリー・カーンが、かつてプレーした南アフリカでの野球事情について、ミスターベースボールで語っています。日本ではマイナーな存在とは言え、検索すればそれなりにネット上にも情報があるヨーロッパ野球とは違い、南アフリカにおけるそれはネットでもほとんど情報がなく、こうした実際にプレーした体験談は貴重なもの。WBCなんかでは出るたびに「弱い」「出る資格ない」「こんなチームが出てると、大会の存在意義が問われる」などと、ずいぶんひどいディスられ方をされ続けている南アフリカ、いったいどんな国(野球的な意味で)なんでしょうか?


 「南アフリカにはいくつかの野球リーグがあって、それらの加盟チームは、すべての地域をフランチャイズとしてカバーしている。その中で一番レベルが高いのが、ケープタウンを中心としたプレミア・メジャーリーグだ。10チーム制の、木製バットでプレーするこのリーグからは、アメリカやヨーロッパのプロリーグでプレーする、数多くのプレーヤーが輩出されている。去年のWBCでは、南アフリカ代表ロースターの4分の3以上が、このリーグの所属選手で占められていた」(カーン)


 今年6月にサッカーW杯が行われた南アフリカは、ご存知の通りレソトとともにアフリカ大陸の最南端にあり、国土もそれなりに広い国。かつては隣国ジンバブエともども、イギリス領だった国でもあります。そんな国の全地域に、野球チームが存在しているとは驚きですね。ちなみに、元イギリス領ということもあって、ラグビーとクリケットの世界ではガチでトップクラスの強豪国です。


 「僕とジョー・トゥルーズデール(カーンと同時期に、南アでプレーしていたアメリカ人選手)は、プレミア・メジャーリーグのダーヴァンビル・ヴィリアンズというチームで、6ヶ月間プレーしていた。今年もヨーロッパでのオフシーズンの間は、ジョーともどもヴィリアンズに世話になる予定だ」


 「ただ、僕らのように南アフリカリーグでプレーしようという外国人は、実はあまり多くないんだ。アメリカのマイナーやヨーロッパでプレーしている連中は、多くがオーストラリアに行ってしまうからね。オーストラリアは美しい海岸線で有名な場所だし、今年はMLBの協力でプロリーグが復活したから、より魅力的なんだろう。MLBでプレーしているオーストラリア人(グラント・バルフォア、ピーター・モイラン、ライアン・ローランドスミス他)も多いしね。けど、南アフリカでのプレーも、同じくらい刺激的で、興味深い体験をさせてくれると思ってるよ」(カーン)


 カーンはこれと並行して、「南アフリカ」と聞くと、誰もが貧困や治安の悪さ、アパルトヘイトといった負の側面をイメージしてしまうため、あまり行きたがらないのではないかとも語っています。トップスポーツはある種の非現実の世界とはいえ、一方では現実の政治や経済にも左右される側面を持ってるわけで、そういう意味では選手たちがオーストラリアを選ぶのも、ある種仕方のないことかもしれないね。非常に残念なことではあるけれど…。


 「南アフリカにはこれまで、アメリカやヨーロッパといった海外リーグでプレーしている(またはした)選手が25人いる。1カ国から輩出されている国際的なプレーヤーの数としては、いい数字だと思うよ。南アフリカの選手はフィジカルにかなり恵まれていて、アメリカやオーストラリアの選手にも、身体能力の高さでは決して負けていない。もし僕の言葉を疑うなら、あの国のラグビー選手たちを見てみなよ!!野球と同系統のスポーツであるクリケットでは世界ランク2位に入っているし、野球でも強くなる素地は十分あるよ。実際、ラグビーやクリケット、サッカーと同じように、この国の野球は才能あふれた選手たちの揃った、プレミアスポーツなんだ」(カーン)


 前述のとおり、トップレベルでの国際大会では実力を酷評されてますが、実はアフリカ大陸においては、南アフリカは断トツの実力を誇る国。彼らの絶対王者っぷりは、ヨーロッパ球界におけるオランダなんかとは比較になりません。アフリカ2番手であるナイジェリアとの対戦でも、ほとんどの試合が10点以上取ってのコールド勝ちなんだからね。それに、オランダにはイタリアやドイツというライバルがいるし。アフリカ野球友の会の尽力で知られるアフリカ野球ですが、もし将来的に強豪国がこの大陸から現れるとすれば、真っ先に出てくるのは間違いなくこの国でしょう。


 「これまで述べてきた国内の環境や、プレーヤーの質を考えれば、南アフリカは十分国際大会で戦えるレベルにあると思う。一般的なメディアには酷評されているけどね(笑)。ただ欲を言えば、北半球のリーグがオフになっている冬の間に、もっと外国人選手を招くべきだし、選手の方ももっとこの国に目を向けるべきだと思うな。現地の選手にとって、外国の有望な若手のプレーを間近で見られるのはいい刺激のはずだし、僕ら外国人にとっても、オフである冬の間にプレーできる機会があるのはいいことだ。せっかくポテンシャルを秘めた選手が揃っているのに、すごくもったいないよ。考えてごらん、美しい喜望峰のツアーに参加したり、ダチョウの背中に乗って移動したり、チーターやハイエナと一緒に散歩したり…。グラウンド外でそんな経験ができるのは、この国だけなんだぜ?もし冬の間にプレーする機会が必要なら、ぜひ一度、この国での野球を体験すべきだと言いたいね」(カーン)