現実の世界に近づける為に遠心力を実現させたら、そこから更に矛盾ができた。
世界を作るってのは、やっぱ一筋縄じゃいかないわけで、こいつをどうにか対処してもまたどこかに綻びが出るんだろうな。
あーあ。
どこか落胆を思わせるナガシマの一言が聞こえ、それきりインカムからの応答はなくなった。
「あの、そろそろログアウトしないと間に合わないんですけど。俺が持ってても宝の持ち腐れですし。紛い物じゃないことは証明できたでしょ」
ナガシマからの回答はなかった。
どうする?
こいつがレベル13でタクティクスブレイドを使ったのは事実だ。
しかし、チートでもない。ニセモノのブレイドを使ったわけでもない。
すべてはゲームの中に紛れ込んだバグが発端だ。
バグを見つけたって、罰することはできないわけで。言うならリアルマネーで取引をしたという部分を突く程度か。
『……とりあえず、今後は禁じ手にとく、くらいしかできないね。今のところは』
「取引額も、お手頃価格に設定してあるし、アフターサービスまで付けてるんです。俺なんかよりももっと削除されるべきユーザはいくらでもいると思いますけどね」
「いくらで取引したんだよ」
「顧客に迷惑がかかるから言えませんね」
相変わらず生意気な口調。中身はある程度年がいってるかもしれないな。
『今は10万くらいかな。本数が少ないから、ガンガン高騰してるよ』
インカムから聞こえた金額に、思わずハヤテに聞き返す。
「そんなするのか?」
ハヤテは一瞬驚いたようにこっちを見た。しまった、インカムの声は俺にしか聞こえないんだった。
ゆっくり頷きながらヤツはにやりと笑った。
剣だの鎧だの言ってても、所詮はプログラミングの固まりでしかない。
そんなものが10万もの価値に化ける。
世の中に、こういう狂った世界が、他にいくつ点在しているんだろう。