「おまえだからに決まってんじゃん。」
平静を装って聞いた質問の答えに、
持ってた桑を
ブラジルあたりまで飛ばしそうになった。
何それ。
「急げよ、玲。マジ夜明け見んぜ。」
「……文句言ってねーで、
なんか掘るもの持って来いよ。
鍬持って山行けねーだろ。」
「……ああ。」
出来るだけ、
怒ったように言ってみた。
純は家に走って行ってしまう。
有り得ねー。
何サラっと言ってんだよ、
その殺し文句。
家からシャベルを持って来た純が、
ゴミ袋の口を開け、
ポトンと中に落とした。
それだけで、
15年も埋まってた骨は、
何本かが砕けてしまう。
「表通りまで出て、タクシー捕まえようぜ。」
「それ持ってタクシー乗んのかよ。ヤバくね?」
「ゴミだと思うよ。」
「そうかな。」
「そうだよ、行こうぜ。」
白骨入りゴミ袋を肩に担ぎ、歩き出すと、
カラカラと背中で乾いた音がした。
ホラ見ろよ、って目で純が見るので、
コンビニでデカい紙袋を買ってゴミ袋を突っ込み、
タクシーを捕まえた。
運転手は、
山の展望台まで、と言った俺に、
かしこまりました、と車を発進させてから、
少なくとも3回はバックミラー越しに純を見た。
あーあー、またか。
「おまえさ、」
純が俺に言う。
「携帯鳴ってんだろ?
いいの?」
よくなくても気にしないくせに。
「いーよ。」
鳴らないようにしといたのに、
ブルブルうるさい振動音に
気づいてたってわけだ。
一応、チェックしてみる。
着歴は、
彩加、彩加、彩加、里香、
彩加、理沙、理沙の順番に続いてる。
げっ隆秀。
もうバレてんのか?
「かけたら?」
純が言う。
「おまえといるって言っていいの?」
「いーよ、別に。」
運転手は、やっと納得したのか
運転に集中してる。
たぶん、
純が女の子だったら、
乗車拒否でもしようと思ってたに違いなかった。
この不況時に、
男二人じゃ、こんな夜中に未成年がどこ行くんだって
注意して売り上げなくすくらいなら目を瞑るらしく、
運転手は、裏山の展望台(とは名ばかりの、
柵とベンチしかねー舗装もされてない広場。)に
俺達を下ろした。
俺は、お袋からせしめたばかりの
万札を出し、
釣りはいらないから、
電話したら迎えに来てくれるか、と聞いた。
運転手は、
今日は遅番だから、
いつでも電話してくれと、
超笑顔で名刺をくれた。
商談成立。
「目撃者の多い死体遺棄だな。」
純が言う。
明らかに機嫌が悪い。
「白骨遺棄だろ?」
「んだよ、それ。」
「機嫌わりー。」
「悪くねーよ。」
「悪いじゃん。女の子と間違えられたからって。」
たぶん、暗かったし、
運転手は3回見直しても、
まだ決めかねてた。
純はそれに気づいて
わざと俺にしゃべりかけた。
男だってわからせるために。
「どうやったら俺が女の子に見えんだよ。」
「かわいいからじゃね?」
純が嫌いな単語が、
「ちっちゃい」と「かわいい」なのを知ってて言ってやる。
「誰がかわいいって?」
実際、体は華奢だし。
猫みたいに大きな目と、
柔らかい細い髪、
ロケットの中の
あの綺麗なかーちゃんの遺伝子
100%じゃねーかと思うくらいの
美少女っぷりで男なんだから、
そりゃ、タクシーの運転手は、
3度見だぜ。
「怒った顔もかわいいー。」
俺の軽口に、
純は眉を顰め、
「おまえは機嫌いいのな。」
と言った。
「何で?」
「さあ?何となく。」
何となく、ね。
そう、
機嫌いいよ、俺。
畑掘ってた鍬を、
地球の裏側まで飛ばせるくらいに。
良かった、玲、落ち着いたね。ってか、今、肩凝って胃が気持ち悪い・・・。うううう。ストック3本今日で最後だし。大丈夫かしらーん
。