小説ONESTAR
番外編
5曲目が、間奏に入る。
やっとつきあうことになった彼女と初デートに向かう男の子の気持ちを歌ったラストの曲は、
結成当初からの人気ナンバーで、
客席の女の子は大合唱する勢いだ。
間奏の途中でヨッシーが「ドキドキ」と言うところがあって、
客席みんなでそれに合わせて両手の人差し指と親指でハートを作り、
「ドキドキ」を返して歌うのがお約束になってる。
頭の上で両腕を伸ばし、手を叩いて客席を煽っていたヨッシーが、
胸の前で指のハートを作る。
ただ一人、お姉さんだけを見て。
ヨッシーの「ドキドキ」に合わせて、
客席の女の子達が、声を限りに「ドキドキ」と返す中、
お姉さんだけは、
ヨッシーをきちんとまっすぐに見つめながら、
「バカね。」
と言った。
……たぶん、
たぶん、お姉さんがヨッシーの気持ちを受け入れることはないだろう。
だけど、
お姉さんは、
ヨッシーが、
自分を諦めないこともわかってるんだろう。
お姉さんは、
ちゃんとヨッシーの想いと、向き合ってくれてるんだ。
血の繋がった弟から告られるなんて
迷惑なだけなのに……。
いい人だね。
お姉さん、いい人だね、ヨッシー。
あんたが好きになったの、
こんなに好きなの、
わかる気がするよ。
ねえ、ヨッシー。
あんたの想いは、
ちゃんと伝わってるから。
告ったこと、後悔なんてしなくていいよ。
ヨッシーが大狂乱の客席に、最後の「ドキ」を決めた後、
出だしと同じドラムソロに入った時、
リュージが指でハートをつくり、
あたしに向けた。
「ドキドキ」の間は、ギターを弾き続けなくちゃいけないし、
ドラムのソロパートが終わったら、すぐ演奏だ。
ほんの3秒の間に、
あたしだけに送られたサインだった。
何やってんの。
呆れた顔をつくろうとして出来なかった。
心臓が、締め付けられたように痛くなる。
何、コレ。
良心の呵責に今さら苛まれるの?
痛い。
ニッとあたしに笑ったリュージの顔が、
自信満々にギターを弾くリュージの顔が、
なんかカッコよく見えてしまうのは、
あたしは何の病気なんだろう。