小説~ONESTAR番外編~
「もうすぐ開演するぞー。おまえら急げー。」
体育館の入り口で誘導してたクラブ顧問が大声で叫ぶ。
並んでた女の子達のざわめきのボリュームが一気に上がる。
なんかもう、
浮き足立ってる女の子達のテンションでいっぱいの体育館に入った頃には、
ステージのエンジ色の緞帳に向かって観客全員がキャーキャー叫んでた。
体育館に並べられたパイプ椅子は、一列を除いてすべて埋まり、
立ち見の女の子達は、ちょっとでも前に行こうと思ったのか、
ステージに向かってずらりと脇を固めてる。
リホちゃんと二人で、
最後列のステージど真ん中あたりに入った。
後ろに並んでる子達は2列くらいで、
リホちゃんの身長があれば、全然見える位置だった。
あたしは、ちょっと背伸びしないと無理かな。
「見える?リョウちゃん。」
リホちゃんがあたしに聞いた。
「うん、大丈夫。」
「向こうからも見えるかな?」
「向こう?」
「ステージから。」
「ああ、ステージの方が高いから見えるんじゃない?」
それは、
ステージからリュージに見て欲しいってこと?
「そうね。」
「見えて欲しい?」
「え?」
しまった。
聞き流すはずだったのに、
思わず聞いちゃった。
「ヨッシーに来てたの、知って欲しいんでしょ。」
「ヨシアキに?」
「リュージとも話してたの。リュージがね、ヨッシーはいいヤツだってリホちゃんに言ってやれって。」
「へえ……リュージとそんな話してるんだ。」
緞帳の向こう、最終確認なのかギターとかベースとかの音が聞こえ始めた。
今のは、
ちょっと、
傷ついた?
リホちゃんの唇が動く。
次は?
なんて言うの?
「ねえ、見て、あそこ。あれ、リュージのファンだよ。」
リホちゃんが指差した先、
ステージ向かって右側には、
何を血迷ったのか、
「リュージー!」と叫ぶ一群がいた。
「信じられない。」
「何言ってんの、リョウちゃん、彼女なのに。リュージ、今日は、リョウちゃんの為に弾くんでしょ。」
「だけど、」
「あんなに練習してたんだし。」
そうか、
うちからも聞こえたってことは、
リホちゃんちにも聞こえてたんだ。
リュージのギター練習する音。
他の女の為に、
練習する、
好きな男の、
ギターの音。