小説~ONESTAR番外編~![]()
「リョウちゃん、チケット持ってるんでしょ?先入ってたら?」
「あたし、後ろで見るから。」
「いいよ、あたしに気を使わなくても。」
「リホちゃんに気を使ってるわけじゃないよ。昨日も言ったでしょ?あたし、最前列なんて行ったらどうしていいかわかんない。」
「リュージはリョウちゃんの為にギター弾くのに?」
「だって、」
そこまで言った時、
列の前から聞こえた素っ頓狂な声があたしの科白を遮った。
「ええ~っ!アレがあ~?」
視線は確実に、あたしだ。
さっきから、当日券を買おうと長蛇の列を作る女の子達が、最後尾に並ぶあたし達を振り向いては、1年なのにライブのオオトリを取ったバンドのヴォーカルの「元カノ」リホちゃんをチラチラ見てたんだけど、
明らかに叫んだ女の子の視線はあたしを見てて、
どうせ、ギターの今カノが、超イマイチだと噂し合ってるに違いない。
「ホラね。ああ言う目で見られるのよ。」
「どうしてかしら。」
「え?」
「だってリュージがリョウちゃんを選んだのに。」
「何を?」
「リュージが選んだのに、どうして他の誰かがうだうだ言うの?文句があるならリュージに言えばいいのよ。リョウちゃんに言うことじゃない。」
「……そうね。」
なら、
リホちゃんは、
リュージに言うんだろうか。
どうしてあたしを諦めて、
リョウちゃんを選んだのって。
そうしたら、リュージはどうするだろう。
とっととあたしなんか捨てて、
リホちゃんに言うかな?
どうしてもっと早く言わないんだよ。
そうしたら、あんな女とつきあわなくてすんだのに。
幸せなカップルの出来上がりじゃん。
は。
ポケットからチケットを出す。
A-8と手書きで書かれた紙を二つに破く。
感情を出さないリホちゃんが、
ちょっと驚いた顔をした。
「一緒に入ろうよ、リホちゃん。」
にっこり、笑ってみる。
どうか、あたしの笑顔が、
1ミリの無理もない、
リホちゃんの親友の顔でありますように。
どうか、
あたしの想いに誰も気づかず、
リホちゃんの傍にいられますように。

