小説~ONESTAR番外編~
「ナカジマ!!」
「おまえ、バカじゃねーの?サヤマリュージにケンカ売るなんて!殺されるぞ!」
殺されはしないと思うけど、再起不能にはなるかも。
キレたリュージを誰も止められない。
たぶん、リホちゃんですらも。
「言えねーかー。」
リュージは、靴の先で倒れこんだチャラ男を転がす。
チャラ男を取り囲んでた男達は、飛び退ってリュージから逃げた。
「……す、すいませ……」
チャラ男が、息も絶え絶えに謝った。
どうする?
羽交い絞めにしてリュージを止めるのと、
体育館まで全力疾走して、先生を呼んでくるのと、どっちが効果がある?
「……謝んのは俺じゃねーだろ。」
「……え?……」
地面に仰向けに倒れてるチャラ男の顔スレスレを、リュージは勢い良く踏みつけた。
「ヒッ!!」
「リョーコに謝れっつってんだよ。」
チャラ男は、恐る恐るあたしを見た。
何?
あたし?
「……す、すいませんでした。」
チャラ男があたしに謝ると、lリュージは、「許してやれよ、リョーコ。」と言った。
あたしが慌てて頷くと、リュージも満足そうに頷き、あたしの肩を抱いた。
「さーて、ライブ行くぞ~。」
「あ、あの、リュージ。」
あたしの背中で、チャラ男を囲み、
男達が「大丈夫かっ!!」「しっかりしろっ!」って大騒ぎしてる。
誰かが叫ぶ。
「おまえ、あのサヤマを怒らせてこの程度で済むなんて奇跡だぞ!」
そう、その通りだ。
リュージが、あの程度で治めるなんて。
「リホコ!来いよ、何やってんだよ。」
大丈夫かしらと男達を見てたリホちゃんをリュージが呼ぶ。
「あーあー、おまえ、ちょっと右手、来てるぞ。ギター弾けなかったらおまえのせいだからな。」
リュージは、
走って追いついたリホちゃんじゃなく、あたしに言った。
「無茶しやがってよ。どーせ、リホコが囲まれてんの、あたしのせいだわ、何とかしなきゃとか思ったんだろ。」
その通りだ。
だって、遅れたあたしのせいだし。
「だからって男4人に向かってくなよ。俺呼べ、俺をさ。」
「う、うん。」
何?
じゃ、今のは、リホちゃんじゃなく、あたしを助けに来たってこと?
「ねえ、リュージ。」
ドキ。
あたし達に追いついたリホちゃんが言う。
「あたし、チケット持ってない。」
「えええっ?!おまえ、ヤマザキからもらってないの?」
びっくりしたリュージがあたしの肩から手を離す。
急に、肩が軽くなる。
あ……れ?
そりゃそうでしょ。
あたしの肩には、何も乗ってないんだから。
だけど、何だろ?そんな軽さじゃなくて、
何?これ。
「おまえ、チケットとっくにソールドだぜ?どーすんだよ。」
「何とかなるかと思って。」
「思ってじゃねーよ、チケット手に入れられなかったヤツの方が多いって噂だぜ?」
「だって持ってないんだもん。ちょうだい、リュージ。」
リホちゃんがリュージに手を差し出す。
「いや、俺の余ってたチケットもケンヤに返したし。」
「じゃ、あたし、入れないじゃん。」
「リュージ、ヨッシーに電話したげて。ヨッシー、チケット持ってるはずだから。」
「あ?ああ、そっか、ちょっと待てよ。」
リュージがごそごそポケットから携帯を出して、ヨッシーに電話をかける。
「どうしてヨシアキがチケット持ってるって知ってるの?」
「え?」
携帯で話してるリュージから目を離さずに、リホちゃんがそう言った。
「そう思っただけだよ。」
「ふうん。ねえ、どうして遅刻したの?」
「ごめん、ちょっと時間間違って……」
「あっちから来たよね?あたしより先に来てたってことだよね?」
「そ、そうなの、時間間違って早く着いちゃったから、図書館行ってて、」
「ねえ、どっちと一緒だったの?」
「え?どっち?」
「リュージとヨシアキ。」
そう言うとリホちゃんは、やっとあたしを見た。
唇の端を上げ、うっすらと微笑む。
それ、
笑ってるの?怒ってるの?
どっち?