小説~ONESTAR45~忘れてた、記憶。 | COCONUT☆HEADBUTT!!

COCONUT☆HEADBUTT!!

よろしくお願いしまーす(^0^)

小説~ONESTAR44~


「よく聞いて。たぶん、あんたは覚えてないと思うんだけど。」

「何?」

「あんた達が来たばっかりの頃、あたし、誰とも関わり合いたくなかったから、食事も部屋で食べてたし、お風呂も夜中にしか入ってなかったの。」


そうだ。

確かにそうだった。

ねーちゃんとは、引っ越してきた初日に会った記憶と、

あとはもう、俺の引きこもり克服大会に参戦してたって記憶しかない。


「ある日ね、あたしがお風呂に入ろうとしたら、あんたがお風呂場で何かしてたの。」


有り得ない。

あたしは、そう思った。

この時間は、あたしがお風呂に入るから、誰も部屋から出ないってのは、暗黙のルールなのに。

よく見ると、あたしの弟だと言う11歳の少年は、洗濯機で何かを洗ってたみたいだった。

泡だらけの洗濯物を広げて見てる。


「あたし、お風呂に入りたいんだけど。」


あたしの登場に少年は心底驚いたみたいだった。

手にしてた洗濯物を慌てて隠そうとして取り落とし、床をびしょびしょにしてしまう。


あーあーもう。


「ねえ、洗濯ならあんたのママにやってもらったら?」

手近にあったタオルで床を拭いてた少年の洗濯物を拾ってやり、洗濯機に入れようとして気づく。


少年が洗ってた体操服には、大胆にもデカデカと「なんでやねん!!」と油性マジックで書いてあった。


ははん。

友達とふざけっこしてて書いたものの消えなくて、

お母さんに怒られる前に洗おうと思ったに違いなかった。


「言わんといて。」


少年があたしの腕を掴んだ。


「おかんに言わんといて。」


小学生でも関西の人はママのこと、「おかん」って言うんだ。


「言わないわよ。馬鹿ね。」


そのまま洗濯機に体操服を放り込む。

少年は落書きが消えたかどうかが気になって、

洗濯の途中で一時停止を押して、洗濯物を引っ張り出したみたいだった。


「落ちる?」


あたしの手を握ったまま、少年が聞いた。


「落ちないわね。何でマジックなんかで書いたの?」

「・…せやかし・…」

少年が小さく口ごもる。

せやかしって何?って聞こうとして、少年の捲り上げたパジャマの袖から見える小枝みたいに細い腕に大きな青痣があることに気づいた。


「どうしたの?それ。」


少年は、あたしの目線が自分の痣にある事に気づくと、慌てて両腕で自分を抱きしめるようにして「何でもない。」と言った。

明らかに、そこに何かある隠し方だった。

試しに、「あれ?」と言って洗濯機の中を覗くフリをすると、「え?」と言って少年も洗濯機の中を覗き込もうとした。

その隙に、思いっきり背中からパジャマを捲ってやる。


「あんた…これ………。」


思ってたよりも酷い状態だった。

紫や紺や黄色や。

治りかけのものから新しいものまで背中からわき腹まで痣だらけだった。


これってば・・・・・・・いじめって言うんじゃないの・・・・・・・?


「言わんといて!」


振り向いた少年は、最初の科白を繰り返す。


「おかんに言わんといて!お願いやし。」

「言った方がいいんじゃない?あの体操服の落書きも書かれたんでしょ?」

「・………俺がしゃべると、みんな笑うねん。」


そうか・………。

小学生には奇異に映るのかもしれない。

漫才でも聞いているみたいな。


「俺、なんかおかしいこと言うてる?」

「おかしいのは、言ってることじゃなくて、イントネーションじゃない?」

「イントネ?」

「とにかく、お母さんがダメなんだったら、お父さんに言ったら?」

「あかんねん、せやかし、」

せやかしって接続語なのかしら。

「おかん、泣くから。」

自分はめいっぱい涙目のくせに、

少年は、きっぱりと言い切った。


それだけの理由で、

この子はいじめに耐えてるんだ。


どこまで耐えれるのかは、

謎だけれども。


そりゃ、泣きもするだろう。

新しい家では、娘になるはずのあたしにシカトされ続け、

大事な息子はこのザマだ。


「ほんまにこれ、落ちひん?」

少年が洗濯機を見た。


「あたしが洗っておいてあげるから、もう寝なさい。」

「え?」

「たぶん、落ちないから、体操服は無くしたって言えば?」

「ねーちゃん。」

「は?」

何?ねーちゃんってあたしのこと?

「そうする!ねーちゃん、ありがと。」


少年はそう言うとものすごくいい笑顔をあたしにくれた。


この子が生きてきた11年は、

あたしとママが裏切られ続けてきた11年なのに。

パパが、

あたしとママを裏切ってたって言う生きた証なのに。

それでも、

この子が生きてきた11年が、

超幸せってわけでもなかったってことは、

引っ越してきた時の荷物の少なさで知った。


少年は、まるでナイスなアイデアをもらったと言わんばかりに

あたしに礼を言い、そのまま自分の部屋に向かった。


なんて素直な子なんだろう。

バカだなあ、本当に。


あたしは全自動洗濯機に全てを任せ、お風呂に入った。

お風呂からあがる頃には、きれいに乾燥まで出来上がってた。

もちろん「なんでやねん!」はくっきり残ったままだ。


キッチンでオレンジジュースを飲んで、

パパが新しい家族のために買った、新しいダイニングテーブルの上に、

きれいに広げて体操服を置いた。



小説~ONESTAR46~絶体絶命 に続くキャ

ペタしてね 字をおっきくしたり、絵文字を入れると、携帯からすっげー見にくかったので、

今回、「素文字」で書いてみました~。見た目、つまんないかな~?どっちがいいんだろポッ